Appleが6月4日からカリフォルニア州サンノゼで開催している世界開発者会議「WWDC 2018」。最も注目を集めるのは、世界のスマートフォン市場におけるトップブランド、iPhoneで動作する次世代ソフトウェア「iOS 12」だろう。

パフォーマンス向上とSiriのカスタマイズ、そしてスマホ中毒への対処といった、競合となるテクノロジー大手企業を見据えた機能向上やユーザーからの要請に応える形の機能追加がなされたほか、Appleが強みとしている分野をより押し広げる格好のアップデートも施された。

  • ARKit 2.0を紹介するクレイグ・フェデリギ氏

Appleは昨年のWWDC 2017でiOS 11に「ARKit」を発表し、iOSデバイスが「世界最大の拡張現実プラットホーム」となったことをアピールした。

ARKitは、これまでARアプリを実現するために開発者が自分で用意しなければならなかった(多くの場合ライセンスを購入しなければならなかった)ライブラリをAppleが用意し、無料で利用できるようにした。また、iPhone内臓のカメラとモーションセンサーを用いて動作する仕組みに加え、iPhone 6sやiPhone SEなどA9プロセッサ以上を搭載するデバイスで利用可という対応機種の広さも驚きをもって迎えられた。これらをして、Appleは「世界最大の拡張現実プラットホーム」であると主張する。

その後iOS 11.3でARKit 1.5へとバージョンアップし、これまで水平面だけだった認識方向を垂直面へと拡張した。またカメラのプレビューの解像度をフルHD画質に高めるなど、機能強化が行われた。

2018年秋にリリースされるiOS 12には、ARKit 2が含まれることが明らかになった。メジャーバージョンアップとなる今回は、以下の5つのフィーチャーが含まれる。

  1. 顔追跡の向上
  2. リアルなレンダリング
  3. 3D物体の認識
  4. 継続的な体験
  5. 体験の共有

この中でデモが披露されたのが、5つ目の体験の共有だ。

  • ARKit 2.0の最大のポイントは、体験の共有。同じ空間で同じアプリを立ち上げている人同士で、ARオブジェクトを共有し、ともにインタラクションを行える

これまでARKitのアプリでは、アプリを立ち上げた端末で平面を認識してARの物体などを配置した同じ場所で、他の人が同じアプリを立ち上げたとしても、またゼロから平面認識とオブジェクトの配置を行わなければならなかった。つまり、同じ空間で同じアプリを使っても、体験は共有されていなかった。ちなみに、デベロッパーが独自に実装すれば、体験の共有もできないわけではなかったのではあるが。

そこでARKit 2では、空間を共有し同じアプリを使っている人同士でARを同時に体験できる仕組みを取り入れた。まずはじめに1人目がアプリを立ち上げ、空間認識をしておく。2人目以降の人は、同じアプリを立ち上げ、1人目の人の拡張現実空間に参加できるようになった。現状、最大で4人まで同時に体験できるという。

このメリットは、同じ場所に描かれた拡張現実オブジェクトが、お互いのデバイスで同期し、同じものを見られるようになる。そのため、例えば理科の学習教材であれば、誰かが魚を解剖している様子を、他の人が見たり手伝ったりできるようになる。また、WWDC 2018の基調講演でデモがあったように、LEGOやSwiftShotなどのゲームを複数の人でプレーしたり、対戦ができるようになるのだ。

  • 普段利用する上で重要なアプリの起動速度やキーボード表示、カメラ起動などが大きく高速化される

今後、AR発展の方向性としては、平面だけでなく空間を取り込むマッピングと、これを共有するフェイスが必要となる。ただし今回のAppleの発表では、空間マッピングや認識した空間をクラウドなどに保存・読み込む仕組みは用意されなかった。これも、開発者が自分で用意すれば実現可能だが、Appleのプラットホームとして拡張現実体験の共有を支える仕組みはアナウンスされなかった。