アウディ ジャパンはレンタカーサービス「アウディ オン デマンド」を開始した。コンパクトカーから高性能なスポーツカーまでの幅広いラインアップで、望みの場所にクルマを届けてくれる充実のサービスが売りだが、なぜアウディは自社でレンタカーに取り組むことを決めたのか。
シンプルな使い方、クルマの受け渡しはコンシェルジュに
「アウディ オン デマンド」はネットでクルマを予約するレンタカーサービス。小型車「A1」やSUVの「Q2」、同社のフラッグシップスポーツカーである「R8 Spyder」など、12モデル14台からクルマが選べる。借りるクルマは「コンシェルジュ」が指定した場所に届けてくれて、使い終わったら引き取りに来てくれる。返す時にガソリンを満タンにする必要はない。
同サービスは2015年に始まっており、東京は世界で7番目の都市、9カ所目の拠点となる。2018年末までに世界で79の拠点を設ける方針だ。
具体的な使い方だが、まず専用サイトに行って利用日時を入れると、利用可能なクルマの一覧が出るのでそこから選ぶ。あとはクルマを受け取る場所と返す場所を入力すれば、予約確認メールが届いて完了だ。コンシェルジュからは利用日の前に電話がかかってくるので、そこで詳細な受け渡し場所を決める。
気になる利用料金だが、最も安い小型車「A1」で4時間7,200円、1日あたり1万8,000円、最も高い「R8 Spyder」で4時間5万1,200円、1日あたり12万8,000円の設定となっている。一般的なレンタカーよりも高いが、アウディ ジャパンの斎藤徹社長は「価格で勝負するつもりはない」と強気。コンシェルジュをはじめとするプレミアムな体験が既存サービスとの差別化につながるとの見方だ。
自動車メーカーがレンタカーに参画する理由
それでは、同サービスをアウディ ジャパンが自社で展開する狙いとは何か。単純にタッチポイントを増やしたいというのが理由だとすれば、既存のレンタカー事業者と組んで、車両を提供するような手法もあったはずだ。
まず、同サービスに参画する背景として斎藤社長は、「世界中で都市化が進む中、東京のように過密な都市ではクルマを手放す、あるいは所有しない顧客が増えると予想されている。クルマは所有するのにコストも掛かるので、必要な時に、必要な分だけ乗る、文字通り『オン デマンド』なサービスに対するニーズは増える」との見方を示した。想定する客層は、「大都市に住んでいてクルマを所有していないが、質の高いモビリティを求める人、あるいはクルマを所有しているが、アウディを体験してみたい人」だという。
将来的に、同サービスでクルマを借りてくれた人にクルマを販売するのが狙いなのか、それとも同サービスそのものをビジネスとして成立させたいのかとの問いに斎藤社長は、「どちらかといえば後者」と答えた。自動車業界ではカーシェアリングの普及などを受けて「所有から使用へ」という言葉が聞かれるようになっているが、「アウディ オン デマンド」もこの流れに沿った動きといえる。
既存のレンタカーやカーシェアリングでアウディに乗ることも可能ではあるが、アウディ ジャパンでデジタリゼーション モビリティ マネージャーを務める坂田真一氏は「フルラインアップはインポーターの強み」とした。また、自社でレンタカーを手掛ける理由の1つとして斎藤社長は「ノウハウの蓄積」を挙げ、「サードパーティーに頼むとブラックボックスになるので、最初の駆け出しのところは自分達でやって、ノウハウを貯めるのが大切」と語った。
例えばトヨタ自動車もそうだが、自動車業界では「モビリティサービスプロバイダー」を目指すメーカーが増えている。クルマを作って売るという既存のビジネスモデルだけでなく、クルマをコアとしつつ、周辺の多種多様なサービスも手掛けて収益を多角化しようとする動きだが、アウディが目指すのもそんな姿だ。その流れから見ると、アウディがレンタカーを自ら始め、ノウハウを貯めようとするのも自然な動きといえそうだ。