マイホームを買うか、賃貸暮らしを続けるか――人によって意見が分かれるこの問題、実はお金の専門家でも家は買うべき派と買わないべき派というように、それぞれ主張が分かれるところ。
しかし正直なところ、どちらが正解というのはありません。どちらにもメリット・デメリットがあって、どちらが自分と家族に合っているかによって異なります。それでもやはり、憧れのマイホーム。ほとんどの人にとって、一生に一度買うか買わないかともいえる大きな買い物だからこそ、買っていいかどうかを判断するためのヒントをお伝えします。
どちらの家計が健全か
多くの人が考えるのが、「毎月10万円近くのお金を払っても、賃貸だと自分のものにならない」「こんなに家賃負担が大きいのなら、いっそのこと買ってしまったほうがいいかも」なんてことでしょう。毎月同じ程度の住居費を払うことに損得勘定を覚えて所有したほうが良いと考える気持ち、よくわかります。
でも、意見が分かれるのは月々の支払額だけで比較できない諸々の事情があるからです。まずは賃貸・購入それぞれにかかるお金を整理してみましょう。
ここで重視すべきは家計全体への影響です。月々の住居費として出て行くお金は、賃貸ならば家賃+管理費であり、購入であれば住宅ローンの毎月返済額です。
しかし表にあるように、比較するなら更新料や固定資産税、維持費等々も含めて比較しなくてはなりません。これらを別途積み立てする分と、初期費用として出ていった貯金を補てんするための新たな積み立てをできるかどうかが大切です。
この新たな貯金ができないと、もしも後日何かの理由でまとまったお金が必要になったときに家計がパンクしかねません。そのためには、お金の流れの見える化をしてみましょう。時系列に家計の収支表をつくります。住居費はもちろん購入後にかかるお金も含めます。また他の家計費目も今現在の金額ベースを続けるのではなく、家族の成長に合わせて食費や学費などもアップさせましょう。
収入部分は昇給見込みを書きたいところですが、企業合併や突然のリストラなど定年までの安定性が薄くなってきたご時世、「今の年収」の据え置きのほうが安全です。勤務先の給与規定などで定年前のベースダウンなどがわかっている場合は加味します。
こうやって長いスパンで賃貸と購入の場合の住居費を比較し、どちらの家計が健全かをみることで買う、買わないの判断がしやすくなります。
買い時かどうか
もうひとつ大切なのが買うタイミング。数千万円という大きな買い物だけに、ちょっとのタイミングのズレで家計へのインパクトが大きく変わる可能性があります。
たとえば消費税。2019年10月に消費税が8%から10%へと増税が予定されていて、金額が大きいほど2%増税のインパクトは大きいものです。マイホームでいえば、土地は非課税であるものの、建物の購入・建築、仲介手数料や登記に関する司法書士への報酬などにも消費税がかかります。仮にこれらの課税対象となる住宅購入価格が2,000万円だとしたら40万円の負担増です。
だからといって買い急ぐのはあまりお勧めできません。というのも現在、政府は消費税増税後の買い控えを防ぐための対策案を検討しています。住宅については、現在の住宅ローン減税の拡充や、「すまい給付金」の上限額の引き上げなどが検討されています。
また、両親や祖父母などから多額の贈与を期待できる人なら「住宅取得資金等の贈与の非課税制度」を利用できますね。たとえば一般住宅の場合、平成30年現在は700万円まで非課税で住宅取得資金を贈与してもらえます。しかし、消費税が10%に上がった場合、700万円だった非課税枠が2,500万円(平成31年度中の贈与)へと一気に上がります。
住宅金融支援機構が実施したアンケート調査「平成30年度における住宅市場動向について」をみると、「平成30年度は買い時か?(※)」という問いに対し、64.5%のファイナンシャルプランナーが買い時と回答しています。(※)住宅事業者に対しては平成30年度の受注・販売等の見込み
その理由は「マイナス金利政策の導入後、住宅ローン金利が低水準だから」が最も多くて85.0%。次いで「消費税率が引き上げられるから」が62.5%、「今後住宅ローン金利が上がると思うから」45.0%と続きます。
ちなみに当アンケートでは住宅事業者、一般消費者にも同じ質問をしていますが、両者そろって買い時と思う要因トップは「消費税率が引き上げられるから」と金利よりも消費税のほうに目が向いている様子です。
家計にインパクトを与える要因には金利や税制、住宅価格など、さまざまなものがあります。贈与や住宅ローン減税をどれだけ受けられるのかは人によって異なりますし、住宅価格も地域によって大きな差があります。あなたの家計だったらどうかで買い時の判断をしなければなりません。
どちらが満足感を得られるか
もちろん買うか買わないかはお金の面だけでは決められません。家を買ってしまうとライフスタイルの変化に対応させにくいというマイナス点があります。引っ越しや家族人員の増減がありそうな人は買った家をどうするかということも考えたうえで判断しなければなりません。
「貸す」「売る」などの選択肢ももちろんあります。ただしその場合、「いくらで」貸せるか、売れるかという損得勘定も出てきます。買わずに賃貸暮らしのほうが良かったということにもなりかねませんね。
売ることを想定してマイホームを購入する人は少ないでしょう。でも長い人生のうちには予測外のこともありますから、貸したり売ったりする可能性を考えた時、価値低下リスクをどれだけ許容できるかということも大切です。高く売れるに越したことはないですが、自分が住むための住宅は投資物件とは違います。値下がりリスクを許容できない人は買わないほうが賢明でしょう。逆に、仮に値下がりしても、それまで自分好みの家で暮らせた喜びを感じられる人なら買っても問題ないでしょう。
住むことへの満足感を得られるかどうか――それが家を買うべき人とそうでない人の分かれ目かもしれません。