それでなくても重税感のあるサラリーマンの所得税ですが、昨年の12月に平成30年度の税制改正大綱で給与所得控除が見直されました。今回示された増税とは、どのようなものでしょうか。改正というからには、現在の税制に不具合があり、それを是正するということになります。何が不具合なのか、どう是正すればよいかを、日本人はもっと関心を持ってもよいと思います。税金は所得税だけでなく、そのほかの税制などとも密接に関係します。

平成30年度税制改正大綱の中の所得税の見直しとは

税制改正大綱とは毎年12月後半に示される次年度の税制改正予定事項です。その後国会で審議され、おおむね6月ごろに施行されます。平成30年度の税制改正大綱では個人所得課税の改正が取り上げられています。給与収入の課税の計算式から、どの部分が変わるのかを見てみましょう。

所得税に関する課税所得は (A)-(B)-(C)-(D)となります。

給与収入(A) … 基本給・賞与・各種手当の合計(通勤交通費除く)

給与所得控除(B) … 下記のように給与所得控除が一律10万円引き下げられます。また、給与所得控除の上限額が見直されて、850万円超えると増税になりますが、23歳未満の扶養家族等があると負担増とならない措置が講じられます。

その他控除(C) … 社会保険料控除・扶養控除・配偶者控除・医療費控除・生命保険料控除・地震保険料控除等が控除の対象となります。

基礎控除(D) … 現行38万円が48万円となります。そのために給与所得控除(B)が引き下げられても、850万円以下は差し引きゼロとなり増税とはなりません。

給与階級別の分布

では増税となる見込みの年収850万円超える給与所得者はどれほどいるのでしょうか。下記の図は国税庁がまとめた平成28年度の給与所得者の所得別人数の結果をもとに、一部私が比率の数値を加えたものです。

850万の区切りはないので800万を区切り集計しています。男性は13.67%、女性は2.10%、全体は8.9%が増税となります。850万超となると若干比率がさらに少なくなるでしょう。また都市部では反対に割合は高くなると思われます。

これをどう考えるかです。年収900万円で1.5万円程度の増税となりますが、年収900万円であれば、給与所得者層の上層に属し、余裕のある部類に入るはずです。しかし生活を広げてしまうと、住宅ローンや子供の教育費で、厳しくなることも考えられます。ちよっと余裕が出た段階で、油断しがちな危険なラインかもしれません。

不公平はどこにある?

そもそも、不公平はどこにあるのでしょうか。今回は1割弱の給与所得者が増税になります。扶養家族を考慮すれば、もっと比率は少なくなるでしょう。しかし税収を国民誰もが納得するような配分で徴収するのは困難だとは思います。国民も税金の徴収先や使用用途などについて、全体的に見て最もどこが問題なのかを考える必要があります。

よくありそうな声をいくつか考えてみましょう。例えば……

  • 改正で税収増を期待しているようだが、税金を取りやすいサラリーマンから徴収するのは問題だ
  • 自営業が優遇されすぎている
  • 収入が高いのは、それだけ人より働いている、能力の違いもある、税金が取られすぎ
  • 共働きDINKSや単身者の所得税は専業主婦+子供2人の4人家族の2倍もあるのは不公平
  • 共働き家庭から見ると、配偶者控除は不公平
  • 子育て世代は優遇されて当然
  • 所得税を増税する前に、不法に生活保護を受給しするケースを見直すべき
  • 消費税の増税は家計を圧迫する

ほかにもいろいろあるでしょう。全体として何が最も不公平なのか、どこを最も是正すべきなのかを考えることが大切です。今はネットなど、個人が情報発信する手立てもいろいろあります。いつも言っていることなのですが、末端の情報に振り回されずに「正確に知る」、少し視点を引いて俯瞰的に「総合的に見る」を心がけて、サラリーマンも不公平を是正するために意見をどんどん発信していければと思います。

税制改正大綱は全部を読み切るには相当のボリュームです。ポイントだけを把握できる概要版もありますが、お勧めするのは、自由民主党が発表しているものの中の冒頭16ページにわたる「税制改正の基本的考え方」です。

もちろん国民にアピールするようにうまく作られています。しかし丹念に読み取ると、いろいろ透けて見えるものもあります。大切な税金の制度改正ですので政府の考え方をしっかり把握する上でも一度読んでみるとよいと思います。

税制改正大綱は政権を担っている党が作成し発表するものですが、財務省版や不動産など関連税制を詳しく取り上げている国土交通省版もあります。「税制改正の基本的考え方」→財務省の概要版→詳細に確認したい部分を関連省版で確認のルートが良いと思います。

■ 筆者プロフィール: 佐藤章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。