2018年6月1日(金)、マイナビBLITZ赤坂にてファイナルライブを開催する遠藤ゆりか。そのライブ前にリリースされたベストアルバム『Emotional Daybreak』で彼女が伝えたかったこととは?ベストアルバムへの思いを綴った遠藤ゆりかのラストインタビューが公開された。
インタビュアーはデビューシングルでもオフィシャルライナーを手掛けた音楽評論家・冨田明宏氏が務めている。
――「Emotional Daybreak」もリリースされ、あとはファイナルライブを残すのみとなりました。今の心境は?
遠藤ゆりか 一言で表すのは、なかなか難しいですね。去年の12月17日に引退を発表してから今日まで、関わらせて頂いていたコンテンツの卒業やバトンタッチを幾つも経験してきて、どれも名残惜しくもあり、寂しくもあり……でも気持ち自体はとっても前向きで、“やりきっている”というのが実感としては強くあって。もちろん、引退を発表するまでに何度も話し合いをしたので、発表をするタイミングですでに心の整理はついていたし、覚悟も固めてはいました。一つひとつの作品と真剣に向き合い、お別れするタイミングまで“やりきった”という思いもありますので、今までの感謝の気持ちを込めて笑顔でお別れができていますね。
――ファイナルアルバム「Emotional Daybreak」で改めてご自身の音楽活動を振り返ることができたと思います。どんな音楽活動だったと言えそうですか?
遠藤 その時、その瞬間でやれることは全部やってきたなって。曲によってコンセプトはさまざまなのですが、すべてにおいて手を抜いたことは一度もなかったなって胸を張れます。あとは、やっぱり“感謝”ですね。改めて、アニメやゲームなどのタイアップとして、これだけの作品でテーマソングを私に任せてくださっていたんだということに、心から感謝したいなと思いました。その時、その瞬間はとにかく一生懸命作品に寄り添うことを考えて歌ってきたので、こうやってアルバムとして聴くとそれぞれの曲に違った声色や表現が詰まっていることにも意味があるし、手を抜かずに取り組んできて本当に良かったなって思ったんです。
――今回は曲順もすべてご自身で決めたんですよね?
遠藤 そうですね。多彩なジャンルの曲が詰まったアルバムになるので、単純に発表した時系列順に曲を並べるのではなく、できるだけ一枚の作品として“意味”や“流れ”を感じていただけるような作品にしたくて。そういう発想に至ったのは、私のDJとしての活動があったからだと思っています。DJは常に与えられた持ち時間で“意味”や“流れ”を考えてセットリストを作るので。〈遠藤ゆりかが作った遠藤ゆりかのプレイリスト〉みたいな感じですね(笑)。
――遠藤さんが最後の作品である『Emotional Daybreak』で伝えたかったことって、どんなことですか?
遠藤 まず『Emotional Daybreak』というタイトルに込めたことなのですが……引退の日までにシングルベストとしてアルバムをリリースすること、そしてファイナルライブを開催することが決まって、アルバムのための新曲を制作することも決まったんです。まず「その新曲は私に作詞させてください」とお願いをしました。そして「アルバムタイトル、アルバム表題曲、ライブタイトルすべてを同じにしたいんです」とお伝えしたんです。音楽って、聴いていたときの情景や心境が思い出されることってよくあるなと私は思っていて。だから最後に制作する新曲は、聴くたびに私のファイナルライブの情景や心境が思い出される曲にしたいなと思ったんです。そこでまず、タイトルから考えました。今までのお仕事のことや自分が大切にしてきたことなど、いろいろなことを考えた結果もともと好きな言葉だった“Emotional”が浮かんできたんです。そして今の状況や言葉の響き、ファンのみなさんに与えたい情景などを考えて、夜明けという意味の“Daybreak”を合わせました。だからアルバムの曲順も“夜明けへと至る時間の流れ”を感じてもらえるようにしたいと思ったんです。「knight-night. (Album ver.)」で夜に眠るところから始まって、いろいろな楽曲たちとの思い出を辿りながら、最後に「Emotional Daybreak」で夜が明けていく……という感じで。
――ご自身で作詞されたラストナンバー「Emotional Daybreak」は、壮大で力強くて、葛藤についても決意についても歌っているけど、やっぱりどこか切なさがあって。これまでの活動の中でもっともメッセージ性の強い楽曲ですね
遠藤 ありがとうございます。自分で作詞した曲だと「knight-night.」があるのですが、この曲は誰かに寄り添って「大丈夫だよ」と言ってあげるような曲が歌いたいと思って書いた曲だったんです。だからみんなに対してそばに寄り添う楽曲はすでにあるので、本当に今の私のありのままの気持ちや、みなさんに対する思いとか、今まで歩んできたこととか、いろいろなものを振り返って、思い返して、考えて……。引退のことも、自分で決めたこととはいえ、やっぱり人間なので複雑な思いもあって(苦笑)。そういうことも全部、音楽にしてしまおうと思って作ったのが「Emotional Daybreak」です。とにかく一言では言い表せないような、さまざまな感情が内包された曲を目指して作りました。
――どのように制作していったのですか?
遠藤 先にタイトルが決まった状態からの制作だったので、「“Emotional”というからにはエモくなきゃいけない!」と思って。作編曲は昔から大好きな作曲家さんであるゆよゆっぺさんにお願いしたんですけど、タイトルが決まった段階で「このイメージを形にできるのはゆよゆっぺさんしかいない」と思っていました。そして「〈感情的な夜明け〉というタイトルの通り、真っ暗な空に日が差してきて、青や紫やオレンジや白い光が混ざっていく……そんな情景が、今の私の気持ちにピッタリだと思ったんです」とお伝えをしたんです。そうしたら「じゃあ、今からプリプロ(※プリプリダクション。本レコーディングの前に楽曲の方向性を確認するために行う仮レコーディング)しよう」と言ってくださって。ゆよゆっぺさんとスタッフのみなさんとスタジオに入って、1時間くらいかけて楽曲の土台を作り上げていったんです。「エモさを表現するには?」という話をしたら「シンガロングはどうかな?」という事になってみんなで合唱できるパートができていったり、本当にその場でギターを弾き語りしてもらいながら作ったのですが、こんな作り方はじめてで。歌詞はアレンジがしっかりと見えたデモを頂いてから書いていきました。
――デモを聴いて、最初に浮かんだ言葉はなんでした?
遠藤 光です。包まれるような光ではなくて、細い線のような、一筋の光のイメージがイントロから感じたので。
――サウンドも歌詞も、本当に映像的ですよね。まさにアルバム・ジャケットのような世界観が曲から溢れていて
遠藤 ありがとうございます。〈ちょっと寂しいけど、ちゃんと前向き〉みたいなイメージというか……歌録りはまだの状態で、でも曲がほぼ仕上がってからジャケット撮影だったんですけど、有り難いことに完璧な快晴で。本当に綺麗な夜明けが撮影できましたね。その時見た景色のように、「Emotional Daybreak」も1番ではまだ薄暗い世界だけど、段々夜が明けてきて、最後には光が差してくる。ブックレットの写真の配置も、私の意見をお伝えして決めたんです。ラストナンバーの「Emotional Daybreak」は、絶対にこの写真に歌詞を載せたいって思って選んで。そして歌詞の最後のページをめくったあとは、この写真を見て欲しい……とか、隅々までこだわらせていただききました。
――改めて歌詞についてですが、本当に素直な、むき出しの言葉が綴られてもいます。この曲で、何を残そうと思いましたか?
遠藤 そうですね……。応援してきてくれたみなさんに捧げた曲なので、普通に考えたらシンプルにハッピーなことを歌う曲を選ぶこともできたのかもしれませんが、自分の中では、それではウソになるなって思ったんです(苦笑)。やっぱり、これで最後になるから、遠藤ゆりかの素直な感情をここに残しておこうと。音楽ってハッピーな曲から勇気や元気をもらえる人もいますが、私はどちらかというと負の感情が綴られた音楽に力をもらってきたタイプで。その一方で、しっかり感謝の思いも残したかった。本当に今のすべての感情を、混沌とした歌詞になっても描きたいと思ったんです。「これが、今の私の気持ちです」と胸を張って言いたかったので。単純にハッピーな曲ではないかもしれないし、切ないし寂しさも感じるかもしれないけど、絶対に前向きな意志がある。それだけは伝えておきたかったので。
――遠藤ゆりかが声優として、アーティストとして活動してきたことの存在証明というか……
遠藤 そうですね。もうこの段階まできて、偽ることもないだろうって(笑)。引退を発表してから、ファンのみなさんはこのことをすごく深刻に考えてくれたり、心配してくれたり、最後まで応援するよと声をかけてくれたり……私とすごく真剣に向き合ってくれました。そんなみんなに、胸を張って最後の曲を届けたかったんです。1番では“sing alone”だったのに2番では“sing along”になり、みんなで一緒に歌うという歌詞が生まれたのも、ファンという存在が私にとっていかに大切な存在だったかを残したかったからで。みんなで私と同じ感情を共有できる曲になればいいなって思っています。シンプルに“ありがとう”という歌詞を書こうか悩んだんですけど、気持ちとしては“ありがとう”では語りきれない思いが私にはあるので、敢えて書かずに、私の気持ちをできるだけ素直に表現することで、この感謝の思いが伝わればいいなって思っています。
――最後のレコーディングは、いかがでしたか?
遠藤 ゆよゆっぺさんがディレクションしてくださったのですが、最初に何回か歌っただけで「もう大丈夫だね。自分の好きなように歌っていいよ」と言ってくださって。いろいろなことを考えてブースに入ったのですが、「エモさを込めるぞ!」とか「ここはテクニックでこうして……」とか考えるより、無心で歌おうと思いました。その後で細かくディレクションもしていただきましたが、良い歌が残せたと思っています。そして何より、すべてに私の意思を織り交ぜながら作ることができた喜びがありますね。
――ファンのみなさんからのリアクションはいかがでしたか?
遠藤 私は「良いものができたので、届いてほしいな」という穏やかな気持ちで発売日を迎えたのですが、ファンのみなさんは泣きながら聴いてくれたみたいです。嬉しいですよね、「私の思いが届いたんだ」って思いましたから。歌詞についても考えてくれたり、受け止めてくれたり、すごくいろいろな角度から聴いてくださっていることが伝わってきて、幸せな気持ちになりました。
――ファイナルライブは、どんなライブにしたいと考えていますか?
遠藤 そうですね……必然的にエモいライブになると思います(笑)。でも、遠藤ゆりかのライブですからね、楽しくやりたいと思っています。いつも「一番自分が楽しもう!」と思ってステージに立ってきたので。そんな私だから、湿っぽくするつもりはないんです。でも、先に私が泣いていたらごめんなさい(笑)! とにかく後悔のないライブにしたいですね。ファンのみなさんに「俺の推し、最後までいけてたなー!」と思ってもらいたいですから(一同笑)。アルバムに収録されている曲も、声優として関わらせて頂いた曲もいくつか歌おうと思っているんですけど、私のすべてを感じてもらえるように、精一杯歌いたいと思っています。
――引退を決意された方にこんなことを言うのは失礼かもしれませんが、やっぱり『Emotional Daybreak』を聴いてしまうと「これからの遠藤ゆりかの曲がもっと聴きたかった」と思ってしまいました
遠藤 ありがとうございます!そう言ってくださる方もいらっしゃるのですが、そう思われながら引退できることが、私は幸せだと思うんです。ファイナルライブは悔いなく終わろうと思っていますが、最後に一番輝いている私を見せることが何より大切なんだろうなって思っています。
――最後に。遠藤ゆりかとしての5年間は、どんな5年間だったと言えそうですか?
遠藤 ……そうですね。楽しいことも、嬉しいことも、そして大変なこともたくさんあったけど、すごくキラキラと輝いていたんじゃないかって思うんです。そして最後に『Emotional Daybreak』という自分らしい1枚が作れて、ちゃんとやりきったんじゃいかなって。声優もアーティスト活動もDJも、いろいろなことに挑戦してきたけど、そのすべてを総括して「やりきった」と言えるのは、すごく私らしい気がしています。大勢の方に「もったいない」とか「これからなのに」とか、嬉しい言葉をたくさんかけていただきました。でも自分から引退を決めてステージを去るというのも、潔くて自分らしいなって思うんです。今まで、自分で決めたことで後悔したことはありませんでした。だから今も、後悔はしていません。私の芸能活動、一言で言い表すなら“輝いていた”だと思います!
(text by 冨田明宏)