フラッグシップモデルの「アテンザ」に大幅改良を施したマツダ。SUVブームの中でセダンの改良に力を入れた理由として、このクルマの開発担当主査は“非常に強い危機感”という言葉を口にした。その真意とは何か。改良版アテンザお披露目会で本人に聞いてきた。

  • マツダ「アテンザ」

    東京都新宿区の小笠原伯爵邸で開催された改良版「アテンザ」のお披露目会

ドイツのプレミアム・ブランドは何を強みとするか

マツダがセダン/ワゴンの「アテンザ」に力のこもった大幅改良を実施した理由として、「セダンを作り込んで商品価値を上げることにより、他の商品ラインアップにも波及効果があること」と、「アテンザが属する市場の規模が日本で縮小する中で、台数を落とす国産ブランドに対して、輸入車の販売は堅調なこと」の2つが考えられることは、先日の記事でお伝えした通り。後者の状況に対し、アテンザの開発担当主査であるマツダの脇家満氏は強い危機感を口にした。

  • マツダ「アテンザ」

    お披露目会に登場したマツダの小飼雅道社長(中央)、脇家氏(右)、「アテンザ」チーフデザイナーの玉谷聡氏(左)

日本でアテンザが属するC/Dセグメント(中型から大型)のセダン市場では、市場規模自体が縮小しているのに、輸入車の販売台数は大きく落ちていない。つまり、SUVブームの中でも輸入車勢は堅調な販売を維持しているのだ。その理由を脇家主査は「商品の力だけでなく、ブランドの力によるもの」(以下、発言は脇家主査)と分析する。

「商品の性能と品質が高いのは当然として、何百万円の商品を買うときには、タッチポイント(例えば販売店)の質も重要。販売現場の“おもてなし”、あとはコマーシャルを含めたブランド訴求で、全てに同じようなエッセンスを持たせている」。メルセデス・ベンツ、BMW、アウディら自動車業界のプレミアム・ブランドには、何十年もかけて確固たるブランド価値を確立させてきた歴史があり、それを顧客あるいは潜在的な顧客とのコミュニケーションに活用している。そのブランド力こそプレミアム・ブランドの強みだというのが脇家主査の見方だ。

「そんな状況を作り出し、マツダというブランドを好きになってもらったら、『マツダで大きいセダンが欲しいからアテンザ』という風になる。アテンザを乗り継ぎ続けて頂いてもいいし、『アクセラ』からのステップアップもありうる。ブランドを全体として引き上げられれば、セダン市場がどうなっても、大丈夫なのでは」

「ドイツのプレミアムは、少なくともそういう状態に見える。BMWだから、メルセデスだから、アウディだから『それのセダンを下さい』と言ってもらえる状況を、たぶん彼らは作れている。同じものを作っても意味がないが、マツダならではの、『マツダプレミアム』という言い方もあるが、高くてラグジュアリーなクルマでなくても、唯一無二のクルマになっていけば、トレンドに流されずやっていけるかもしれない。そういう状態を理想としてやっていきたい」

  • マツダ「アテンザ」

    マツダにとって「アテンザ」とは何か。小飼社長は「セダンを大切にして、最高のパフォーマンスを実現し、SUVなどの車種に展開する。その上で極めて重要なモデル」と表現した。もちろん経営的にも重要なモデルだそうで、昨年度はグローバル販売の1割近くを占める15万台を売ったという

ブランド力の差が台数の差に

これらの話を総合すると、脇家主査が危機感を抱いているのは、ブランド力で欧州のプレミアム・ブランドに水をあけられていて、その差が国内セダン市場の動向にも表れてしまっているという状況に対してなのだろう。

もちろん、マツダもブランド価値向上には注力していて、例えば黒を基調とした「新世代店舗」の展開を進めるなど、さまざまな施策を展開している。そのあたりについては以前、マツダの福原和幸常務にも詳しく話を聞いたことがある。マツダブランドの浸透度について聞くと脇家主査は「それを簡単に話せる指標があればいいが」と断った上で、「商品の面で言うと、かなり認知していただいていると思う。一貫したスタイリングとか技術を出し惜しみせずやっていく状態を見ていただけている」と話していた。