2018年5月はTOKIOファンには忘れられない月になりそうだ。
4月にわかったメンバーのひとり山口達也の社会的に問題ある行いに関して、それぞれの見解を述べる会見があったのが5月2日(水)。その後、山口が事務所を辞めることになるなど怒涛の展開となった。
個人の行いをグループの団体責任と捉えることはなかなか重たいことだと感じたが、とりわけ、会見での松岡昌宏は印象的だった。山口に対して4人中最も厳しい意見を述べながら、流れてくる涙を止めることができない。クールさと熱さがないまぜで、人間の感情とはひとつではなくとても複雑なものであることを全身で見せる松岡昌宏に心が震えた。
彼の抱えているであろう辛さのあれこれのなかには、ちょうど主役をやっている『家政夫のミタゾノ』(テレビ朝日系 金曜23:15〜)第2シリーズが放送中ということもあったのではないか。コメディをやっているときに、これほどシリアスでシビアな問題で世の中に素の顔を晒さないとならないというのは、俳優としてはどれほど苦しいか。
しかも、5月11日(金)放送の第4話には、同じくTOKIOの城島茂が謎の女性歌手・島茂子(ミタゾノの主題歌「戯言」を歌っている)として出演し、16日(水)にはその「戯言」でCDデビューまで果たすという、TOKIO的には楽しいお祭企画が用意されていた。ドラマもおもしろいし、思いきり笑って盛り上げたかっただろうときに、真逆も真逆の涙の会見をすることになってしまった。世の中でTOKIOが注目されたとはいえ、本意ではないだろう。
松岡が女装で家政夫役の『ミタゾノ』
気を取り直して、『家政夫のミタゾノ』である。
女装をして家政夫をやっている謎の人物・ミタゾノ(松岡)は、家政夫として派遣されてゆく先々で起こる事件を解決していく。家政夫としての家事能力も抜群で、推理のほかに家事のミニ知識も教えてくれるオトクなドラマだ。ミタゾノがなぜ女装をして家政夫をやっているかその背景は謎。第1シリーズの最終回で明かされた……かと思ったらそれは嘘で、結局ミタゾノの謎は謎のままになっている。
『家政夫のミタゾノ』誕生の経緯は、1983年、松本清張の推理小説を原作にドラマ化した『家政婦は見た!』が名優・市原悦子の名演とあいまって人気シリーズとなり、2014年には米倉涼子でリメイク(2012年放送『松本清張没後20年・ドラマスペシャル 熱い空気』の設定を引き継ぐ)、2011年には『家政婦のミタ』というオマージュを捧げた作品が登場、松嶋菜々子の怪演でヒット。2016年に松岡昌宏によって、新たなオマージュ作品が誕生し、好評を受けて、いまその第2シリーズが制作されている。ちょうど、18日放送の第5話では「パクリ」と「オマージュ」と「リスペクト」の複雑な関係がテーマで、デザイナーにアイデアを盗用されたアシスタントの犯罪が描かれた。
松岡にある、日本刀のようなイメージ
凛々しく、日本刀のような切れ味尖そうな雰囲気をもった松岡昌宏が、ロングヘアのカツラをかぶって、メイクして、スカートをはいて、楚々とした女性に変身するという趣向が面白く、家事が得意で、家中を完璧キレイにする職人かたぎなところは、ストイックな日本刀のイメージとも重なって、ハマっている。
ミタゾノの家のなかのどんな汚れやゆがみや乱れ(物理的にも犯罪という精神的にも)も決して見逃ず正したい性分が、会見で見せた松岡の姿と重なって見えてしまい、はからずも説得力が強化されてしまった。なんとも皮肉な話である。
さて、松岡昌宏に日本刀のイメージをもったのは、舞台『スサノヲ〜神の剣の物語』(02年)で、日本神話かを題材にした荒くれ者役で主演していた記憶が手伝っているのだが(このときの剣は純粋に日本刀ではなく大陸的な剣)、三谷幸喜の『ロスト・イン・ヨンカーズ』(13年)や『江戸は燃えているか』(18年)でも、脛に傷持つようなやんちゃな感じで、本心を隠して陽気にふるまったり強がったりしている姿にペーソスが滲んだ。女装して素性を隠し、つねに淡々と感情を露わにしないミタゾノも、松岡がやることでただのコメディに終わらず、奥行きが出る。長く続けられる可能性をもったおもしろいドラマなので、大切に続けてほしい。
■著者プロフィール
■木俣冬
文筆業。『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書)が発売中。ドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』、ノベライズ『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP 』 など。5月29日発売の蜷川幸雄『身体的物語論』を企画、構成した。
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