『アウトレイジ ビヨンド』『アウトレイジ 最終章』で、日韓に影響力を持つフィクサー・張会長の側近・李を演じた白竜(65)。“非道な行為”を意味する「アウトレイジ」を地で行く男……というと誤解を招きそうだが、北野監督作の『その男、凶暴につき』(89)で演じた殺し屋・清弘の凶暴性は鮮烈で、その後もアウトロー役が続々と舞い込んだことからも、「アウトレイジ」が白竜にとって親和性の高い言葉であることが分かる。
2017年10月から11月にかけて、映画『アウトレイジ 最終章』のスタッフ5名に接触したインタビュー連載「暴走の黒幕」(第1回:監督・北野武 第2回:プロデューサー・森昌行 第3回:音楽・鈴木慶一 第4回:美術・磯田典宏 第5回:チーフ助監督・稲葉博文)では、北野組の深部に迫ったが、今回はDVD・Blu-ray発売に合わせて新たに3人を取材した。
録音・久連石由文氏、編集・太田義則氏に続いてラストを飾る白竜は、「アウトレイジ」シリーズ最後の番人ともいえるのではないか。張会長の側近・李は、ビートたけし演じる大友を見守り続け、ある決断をする。
インタビューでは、北野武との奇縁から島田紳助さんの言葉を経て、やがては俳優として覚醒していく過程が見て取れる。なお、今回の取材は白竜の自宅で行われた。中田(塩見三省)と花田(ピエール瀧)もきっとこんな気持ちだったのでは……そんな緊張や不安は、「アウトレイジ」とはかけ離れた笑顔で程なく吹き飛ぶことになる。
『その男、凶暴につき』警察署長役から殺し屋役に
――最初の北野組は『その男、凶暴につき』の殺し屋・清弘。当初の予定とは全く違う役になったそうですね。
ええ、もう時効だと思って、いろんなところで話しています(笑)。最初は警察署長の役でした。渋谷のスタジオでドラマを撮っていた当時、マネージャーから「北野監督がオーディションをやってるそうですよ」と聞いて。その少し前に六本木で一緒に飲んだこともあって、そのオーディション会場までご挨拶に伺いました。オールバックでロングコートを着ていたんですが、そこにいる人たちにジーッと見られてしまって。次の日に電話があって、役が代わったと。セリフが少なくなったとも聞いたので、まぁいいかなと(笑)。
――警察署長役は、どのようなきっかけだったんですか?
どういう経緯かあまり覚えていないのですが……台本をいただいた時点では警察署長役でした。役者経験なんて、ほとんどない頃です。
たけしさんと初めてお会いしたのは……内田裕也さん主催の「NEW YEARS WORLD ROCK FESTIVAL」だったと思います。たけしさんがバンドをやっていらっしゃって、「曲を作ってほしい」みたいなオーダーがあったんですよね。お互い忙しくてなかなか進めることができなかったんですが、ある日、六本木で飲むことになって、そこで映画の話を伺いました。
――警察署長と殺し屋。だいぶ違いますね(笑)。
本当にね(笑)。どうしていいのか分からなかったので、素のままでやりました。監督からも、あまり具体的な指示もなく。「これでいいのかな」と思っているうちにどんどん撮影が進んでいきました。役者経験が豊富な方ですごく作り込んでいる方には、「普通にしてくれ」とおっしゃっていたので、自分はこのままでいいのかなと(笑)。
――『その男~』がきっかけでアウトローの役が増えていったと聞きました。
そうですね。音楽に関してはプロ意識があったんですが、映画は「手伝い」というか。役者をやったのも、さっき言ったような流れなので。たけしさんとのご縁も1度きりだと思っていました。ある映画では、酒ばっかり飲んでるような監督がいたり、毎日セリフが変わって新しいセリフがペライチで届いてきたり。台本があるのに、全く違う内容になるんですよ。当時は、映画界っていい加減だなぁと感じました。
『みんな~やってるか!』『HANA-BI』抜てき秘話
――その後、『みんな~やってるか!』(95)に出演。これも同じような流れなんですか?
どうだったかなぁ。当時、滝田洋二郎監督の『熱帯楽園倶楽部』(94)という映画でタイで撮影してたんですが、すごく真っ黒に日焼けてしまいまして。帰国してから、北野監督の陣中見舞いで撮影所に行ったんですよ。たしかその時に、「出てくれ」と言われたんじゃなかったかなぁ……。
『HANA-BI』(97)は、監督から「今度白竜さんにやってもらわなきゃいけない役がある」とおっしゃっていただいて。『その男~』と同じようなアウトロー系で出たのは久しぶりでしたね。けど、監督はキャスティングの時点でプランが固まっていると思いますので、素のままでいけば監督が料理してくれるという安心感があります(笑)。