日本の主要な自動車メーカーが軒並み参加して設立した新組織「自動車用動力伝達技術研究組合」(トラミ)。ギアやトランスミッションなど、クルマの駆動系技術について基礎研究を行う組織だが、なぜ今回、協業関係の枠を超えて新組織に自動車メーカーが結集したのだろうか。

  • トラミ設立会見の様子

    新組織「トラミ」(TRAMI:Transmission Research Association for Mobility Innovation)の発足式に先立つ記者会見には、トヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、スズキ、マツダ、SUBARU(スバル)、ダイハツなど、日本の主要な自動車メーカーから役員クラスが参集した。かわいい名前とは裏腹に、その活動内容はクルマの動力伝達技術に関する基礎研究と硬派だ

クルマを走らせる基幹技術を共同研究

エンジンなどの動力源で発生させた力を、タイヤに伝えることでクルマは走る。動力を効率的にタイヤに伝達することができれば、クルマはエネルギーを無駄にせずに済む。CO2削減の観点からクルマの電動化は進んでいるが、クルマの動力源がエンジンからモーターに変わっても、動力を源から足回りに伝えるという構造は変わらないため、動力伝達技術の重要性は不変だ。

  • トラミ設立会見のスライド

    クルマの動力源が変わっても動力伝達技術の重要性は変わらない

その動力伝達技術について基礎研究を行うのがトラミの役割。活動資金(当初2.6億円)は参加各社が負担し、研究成果のデータベースは各社が平等に使用する権利を持つ。参加各社が派遣するエンジニアの人数は全体で100名規模になるとのことだが、彼らはトラミ専任ではなく、所属企業での業務と兼任する形になるとのことだ。トラミの研究は企業と大学が連携して進める。

  • トラミ設立会見のスライド

    産学連携による人材育成のモデル化にも取り組むトラミ

競争領域と強調領域のすみ分けは

このような技術を産官学で研究する組織は、実はドイツでは約50年前に設立されているそうだ。日本では自動車メーカーが個別に大学と連携し、各社が独自で研究を進めていたが、それでは同じような研究をバラバラに重複して進めてしまうなど、無駄も多かったという。「各社がなかなか、原理研究に踏み込めないような状態にいる研究だとか、共同でやった方が効率的な研究、これらは独自でやるより、組合でやった方がはるかに効率がいい」。トラミ運営委員長を務める本田技術研究所 四輪R&Dセンター主任研究員の白井智也氏は説明する。

  • トラミ設立会見のスライド

    日本のほとんどの自動車メーカーが参加する研究体制

また、トラミ理事長で本田技術研究所 四輪R&Dセンター上席研究員の前田敏明氏は、「30年前、駆動系技術はMTとATの2つしかなかった。その後はCVT(連続可変トランスミッション)、DCT(デュアルクラッチトランスミッション)、HV(ハイブリッド)、PHV(プラグインハイブリッド)、バッテリーEV(電気自動車)など、駆動系の種類は増える一方。個別の会社で全部やるのは非常につらいというのもある」と本音をのぞかせた。

産官学での駆動系技術研究で先行するのはドイツだが、この分野では豊富な資金力を背景に技術・人材の育成を進める中国も見逃せない存在のようだ。トラミ設立の背景を問われると白井氏は、「このタイミングを逃すと、中国の脅威もあるし、遅れを取る」との危機感を吐露した。

  • トラミ設立会見のスライド

    会見ではドイツと中国の取り組みを説明するスライドが使用された

基礎研究をトラミが引き受けることで、個別の自動車メーカーは応用研究にリソースを割いてスピードアップを図ったり、製品開発により専念したりすることが可能になる。その結果、自動車メーカー各社は競争力の高い商品を作れるようになる。これがトラミ設立の効果だ。

少し気になったのは、動力伝達技術の特徴や得意・不得意が各メーカーのクルマの個性となっているのであれば、それを共同研究することで各社の技術(水準)が似てきて、個性が薄れてしまうのではないかということだ。例えばHVといえばトヨタのイメージだし、CVTの出来栄えについて各メーカーを比較するような評論をモータージャーナリストの方から聞いたこともある。

この点について質問してみると前田氏は「全く心配していない」と即答した上で、「非常にベーシックな、基礎研究のところを一緒にやって、その上にある製品開発の部分は各社が個別にやるので、ホンダはホンダ、トヨタさんはトヨタさん、スズキさんはスズキさん」として、各社の個性や走りの味といったような部分に影響はないとの見解を示していた。