5月10日、アーム株式会社はIoT事業戦略に関する説明会を開催。英国に本社を置くARMはユニークな半導体企業で、自社でCPU製品を販売しません。ARMは、スマホなどで使われている頭脳にあたるCPUコアの基本設計を行い、これを他の半導体会社に知的財産(IP)販売するビジネスモデルです。
このため、AppleのiPhone・iPadや、Androidデバイスにおいて、ほぼすべてがARMベースのCPUコアを使っています。今回説明を行ったアームの内海社長は「25年間、ローパワー、ローエナジーで電力効率のよい設計が評価された」と語ります。また、「日本のマーケットは先端テクノロジーのショーケース。日本から新たなトレンドが出ている。今後は、物流、エネルギー、公益事業のエリアで特化したサービスを立ち上げたい」とも。
余談ですが、2016年7月、ソフトバンクが約3.3兆円で英ARMを買収すると発表したことを、覚えている読者諸氏も多いのではないでしょうか(2016年9月に、ソフトバンクの子会社化が完了)。
ARMが行うIoTに向けたサービス事業
英国ARM社でIoTを統括するディペッシュ氏は、ARMのIoT事業を紹介。IoTデバイスは2035年に1兆個、インターネットに接続されるとの予測があります。そこから得られる膨大なデータを活用することで世の中の効率性を上げるというものです。
たとえば、機械の振動を継続的にチェックしていると、「このまま使っていると故障が起きる」という予兆をキャッチできます。機械が壊れる前に対処する「予知保全」を行うことで、コストを抑えられるわけです。また、従業員の健康状態を常にチェックし、よりよいワークライフバランスを実現できるでしょう。企業としての生産性を上げつつ、従業員の疲弊を減らすことができるのです。
一方、IoTで重要となるのが相互運用性、セキュリティ、ライフサイクル管理です。そこでARMは、従来のCPU設計だけでなく、IoTサービス事業の取り組みを始めました。強みになっているのは、すでに世界中でARM技術が使われていることと、スマホのセキュリティ技術をIoTにも適用することです。
ARMは最近、従来のビジネスに加えて、一貫したセキュリティを実現するプラットフォームセキュリティアーキテクチャー(PSA)、小さなマイクロコントローラーでも使えるMBED OS、データの利活用を行うMBED CLOUDといったIoT基盤の提供を始めています。
「(今までのCPUビジネス同様に)パートナーと手を取ることで、シリコンからクラウドまで多くの方に届けられる」(ディペッシュ氏)。
今回の説明会は、どちらかというと企業サイドに向けた内容ですが、内海社長は「スマートビルディングで照明にセンサーを付けて管理する技術は、そのままスマートホームにも適用できる」とコメントしました。
テクノロジーの歴史は、軍事や企業向けに開発した技術が形を変え、一般ユーザーが恩恵を受けられるようになることの繰り返し。自らの行動によるところも大きいのですが、幅広い意味で私たちが快適に暮らし、働き、遊ぶために、IoTデバイスの存在感はますます高まっていきそうです。