そのクルマを作ったのが誰なのかは、バッジを見ただけでは分からない場合がある。なぜなら自動車業界では、「A」というメーカーが作ったクルマに「B」というメーカーのバッジが付いているケースがよくあるからだ。例えば、日産自動車が作っている「セレナ」をスズキが「ランディ」として売っていたりする。
このような関係を「OEM」(original equipment manufacturer、相手先ブランド名製造)供給と呼ぶが、その相関図は複数のメーカーが絡むこともあり複雑に入り組む。なぜこういった状況となっているのか。モータージャーナリストの清水和夫さんに以下で解説してもらう。
メルセデス・ベンツ「スマート」の複雑な構成
以前の記事で解説した多品種生産にも関係するが、モデルの多様化はクルマの生産コスト増加につながるので、あるメーカーが他ブランドと部品やプラットフォーム、エンジンなどを共有する「OEM」供給が流行っている。それでは、そのクルマを誰が作ったと考えるべきかといえば、そのブランドのバッジが製造者を表しているのである。
面白いOEMの協業はメルセデス・ベンツの「スマート」とルノーの「トゥインゴ」だ。
2人乗りの「スマートフォーツー」はメルセデスにしかないが、自然吸気のエンジンは昔の三菱自動車製をベースにしているし、900ccの3気筒ターボはルノーから供給を受けている。だが、4人乗りの「スマートフォーフォー」はルノー「トゥインゴ」とプラットフォームおよびエンジンを共用する。プラットフォームはメルセデスが設計・生産するが、エンジンはルノー製だ。
日本では4人乗りの「スマートフォーフォー」とルノー「トゥインゴ」が市販されているが、ブランドにこだわらないなら、ルノーのほうが安いし乗り心地もよいのだ。このような関係性にある2台のクルマを「どこで差別化するか」は、これからのブランドビジネスの難しいところだろう。