自動車業界ではSUVブームだが、BMWの「X」やアウディの「Q」など、同じメーカーが何種類ものSUVをラインアップするのはなぜなのか。サイズの問題であれば「大」「中」「小」くらいで済みそうなものだが、BMWらが取りそろえる品種はもっと多く、正直に言って、街で見かけても車名を判別するのが難しいほどだ。そうなる理由をモータージャーナリストの清水和夫さんに以下で解説してもらう。

  • アウディ「Q2」
  • アウディ「Q5」
  • アウディのSUVには「Q2(画像左)」「Q3」「Q5(画像右)」「Q7」というモデルがあり、まだ種類は増える可能性があるようだ

多品種少量生産が流行する最近のドイツ車

その理由はいくつか思い浮かぶが、まず、高級車が売れるマーケットが増えたことが影響しているだろう。中国だけでなく、ASEANやインドなどでも富裕層が増え、そういった人たちが人とは違うクルマを欲しがるようになった。セダンとクーペの中間のような「4ドアクーペ」が登場してきているのも、そのあたりが理由かもしれない。

もう1つの理由は、世界的なSUVブームが、大きなクルマからフォルクスワーゲン(VW)の「ポロ」クラスまで伸びたこと。背が高いクルマは不安定とされてきたが、電子制御の安全機能(ESC:エレクトリック・スタビリティ・コントロール)のおかげもあり、背が高くても安全性が飛躍的に高まったことが要因だ。

  • BMW「X2」
  • BMW「X3」
  • BMWではSUVタイプのクルマを「SAC」(スポーツ・アクティビティ・クーペ)あるいは「SAV」(スポーツ・アクティビティ・ビークル)と呼び、車名は「X」の後に数字が付く。現時点でラインアップは「X1」~「X6」まである。画像は左が「X2」、右が「X3」だ

多品種生産は日本のお家芸だったが…

また、同じ生産ラインで多品種が作れるようになったことも重要なポイントだ。コンピューターで部品を管理する工場は「デジタルファクトリー」と呼ばれ、多くの種類の部品を扱うことが可能となった。試作品も3Dのデジタルで納品され、バーチャルなサイバー空間で試作生産が行われている。これが、ドイツが主導している「インダストリー4.0」のメリットだろう。

昔を思い起こすと、1980~1990年代は日本が多品種生産を得意とし、フレキシブルな生産ラインは日本のお家芸だった。器用な日本人は手作業で多品種を生産していたが、それに対し、欧米人はコンピューターというツールを使うことに真剣だったのだ。