米労働省が5月4日に発表した4月雇用統計の主な結果は、(1)非農業部門雇用者数16.4万人増、(2)失業率3.9%、(3)平均時給26.84ドル(前月比0.1%増、前年比2.6%増)という内容であった。

(1) 4月の米非農業部門雇用者数は前月比16.4万人増と、市場予想の19.3万人増を下回り、過去1年の平均である19万人増にも届かなかった。米労働市場が「完全雇用」に近づく中、雇用の伸びが鈍化し始めた可能性もある。ただ、前月分が10.3万人増から13.5万人増に上方修正された事もあって、3カ月平均では20.8万人増と堅調を維持した。

(2) 4月の米失業率は3.9%となり、17年4カ月ぶりに3%台に低下した。市場予想の4.0%を下回る改善を見せた。ただ、求職者を含む働き手の割合を示す労働参加率が前月の62.9%から62.8%に低下しており、労働人口の減少が失業率の低下に繋がった面もある。なお、フルタイム職を望みながらもパート職で勤務する人なども含めた広義の失業率(不完全雇用率)は7.8%となり、2001年7月以来の低水準に改善した。

(3) 4月の米平均時給は26.84ドルとなり、前月から0.04ドル増加。伸び率は前月比+0.1%、前年比+2.6%で、市場予想(前月比+0.2%、前年比+2.7%)に届かなかった。また、前月分が26.80ドルに下方修正され、伸び率も前月比+0.2%、前年比+2.6%に改定された(改定前、+0.3%、+2.7%)。賃金の伸びは緩慢である事が改めて示された。

今回の米雇用統計は、インフレ率が米連邦準備制度理事会(FRB)の目標である2%に近づく中での発表とあって、いつも以上に注目が集まっていた。中でも、インフレとの関連性が深い平均時給に関心が寄せられていたが、結果は「期待外れ」と言うしかないだろう。雇用情勢が改善しても賃金の伸びには繋がりにくいという状況が示されており、FRBの利上げペースが加速するとの見方が高まる事はなかった。これを受けて為替市場では当初ドルが下落した。

しかし、利上げペース加速への警戒感が緩んだ事で米株式市場が上昇するとドルにも買い戻しが入った。米国では、景気は堅調だがインフレ圧力は強くないという「適温経済」の状況が続いているようだ。なお、米ダラス連銀のカプラン総裁は、4月平均時給の伸びが緩慢だった事について「単月の逸脱に過ぎない可能性がある。他のすべての情報は、一段の賃金上昇圧力が存在することを示唆している」と述べた上で、「今後3-6カ月先について言えば、賃金上昇圧力は高まると予想している」との見解を示した。当面は、平均時給が米雇用統計の焦点として注目され続ける事になりそうだ。

執筆者プロフィール : 神田 卓也(かんだ たくや)

株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役調査部長。1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信(デイリーレポート『外為トゥデイ』など)を主業務とする傍ら、相場動向などについて、WEB・新聞・雑誌・テレビ等にコメントを発信。Twitterアカウント:@kandaTakuya