22日放送の『ブラックペアン』(TBS系)を最後に、主な春ドラマのラインナップがそろった。年度初めらしい“新生活モノ”から定番の“刑事・医療モノ”までテーマが分散し、ネット上の動きを見る限り、ハッキリと好みが分かれている様子がうかがえる。
初回の視聴率では、『特捜9』(テレビ朝日系)が16.0%、『未解決の女 警視庁文書捜査官』(テレビ朝日系)が14.7%、『ブラックペアン』(TBS系)が13.7%、『警視庁・捜査一課長』(テレビ朝日系)が12.7%を記録。一方、『ヘッドハンター』(テレビ東京系)が4.5%、『モンテ・クリスト伯-華麗なる復讐-』(フジテレビ系)が5.1%など、出だしからつまずいた作品も少なくなかった。
しかし、録画視聴やネット視聴の多い現状、視聴率はデータの1つにすぎず、ドラマの面白さは別問題。春ドラマで本当に質が高くて、今後期待できるのはどの作品なのか? 今期もドラマ解説者の木村隆志が、俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、2018年春ドラマ20作の傾向とおすすめ作品を挙げていく。
春ドラマの主な傾向は、[1]「毒をもって毒を制す」黒いカリスマの痛快劇 [2]春らしいフレッシュな「初主演俳優」がそろい踏み [3]視聴率は「テレビ朝日の一強」へ の3つ。
傾向[1]「毒をもって毒を制す」黒いカリスマの痛快劇
今春は正統派の主人公ではなく、各専門職のカリスマ的なヒーローが目立つ。しかも、「自らの毒をもって、世間にはびこる毒を退治する」というコンセプトが共通している。
『Missデビル 人事の悪魔・椿眞子』(日本テレビ系)はサディスト的な人事コンサルタント・椿眞子(菜々緒)、『ブラックペアン』は「オペ室の悪魔」と呼ばれる天才外科医・渡海征司郎(二宮和也)、『家政夫のミタゾノ』(テレビ朝日系)は派遣先を家庭崩壊させる女装家政夫・三田園薫(松岡昌宏)、『コンフィデンスマンJP』(フジテレビ系)は強欲な信用詐欺師・ダー子(長澤まさみ)。
『ヘッドハンター』は強引な手法でマッチングをまとめるヘッドハンター・黒澤和樹(江口洋介)、『やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる』(NHK)は一方的な弁論で相手をねじ伏せる学校嫌いのスクールロイヤー・田口章太郎(神木隆之介)、『モンテ・クリスト伯 -華麗なる復讐-』は復讐に命を賭ける柴門暖(ディーン・フジオカ)。
いずれも強烈なキャラ設定で視聴者にインパクトを与えているが、狙いはそこに留まらない。視聴者が「悪いのにカッコイイ」「腹黒いのに惹かれる」と感じるのは、主人公の毒舌や悪事を通して「潜在意識を代弁し、痛快感を味わってもらう」という意図があるからだ。
それにしても、さわやかな春なのに、ここまで毒を前面に押し出しているのは、「正統派の主人公なんていない時代」という制作サイドの意志表示かもしれない。ただここまで多いと、制作サイドの偏ったマーケティングを感じてしまい、食傷気味の人もいるだろう
傾向[2]春らしいフレッシュな「初主演俳優」がそろい踏み
もともと新年度のスタートである春は、連ドラでも初主演に挑む俳優が多い。
今年も、『シグナル 長期未解決事件捜査班』(フジテレビ系)の坂口健太郎が(26)がドラマ初主演、『花のち晴れ~花男Next Season~』(TBS系)の杉咲花(20)が連ドラ初主演、『Missデビル』の菜々緒(29)がプライム帯連ドラ初主演、『崖っぷちホテル!』(日本テレビ系)の岩田剛典(29)が連ドラ初主演。
深夜帯でも、『ラブリラン』(日本テレビ系)の中村アン(30)がドラマ初主演、『いつまでも白い羽根』(フジテレビ系)の新川優愛(24)がドラマ初主演を果たしている。
なかでも注目は、杉咲と新川。地道に助演経験を重ねてたどり着いた主演は、『花より団子』(TBS系)のアナザーストーリー、正統派成長物語のヒロインという難役だった。ともに自らの演技が成否を左右する作風だけにフレッシュさだけでは乗り切れず、やはり「演技経験の引き出しをどう使っていくか」が鍵を握るだろう。
余談だが、6月2日スタートの『限界団地』(フジテレビ系)で佐野史郎(63)が連ドラ初主演を果たす。こちらも助演の演技とは異なる姿を見せるか、乞うご期待。
傾向[3]視聴率は「テレビ朝日の一強」へ
21日の時点まで初回視聴率は、『特捜9』16.0%、『未解決の女』14.7%、『警視庁・捜査一課長』12.7%で、テレビ朝日の刑事モノがワン・ツー・スリーを独占。最後に放送されたTBSの『ブラックペアン』は高視聴率連発の看板枠『日曜劇場』の作品だけに、ごぼう抜きの期待が高まっていたが13.7%に留まり、テレビ朝日の一強状態が鮮明になった。
TBSは『花のち晴れ』7.4%、『あなたには帰る家がある』9.3%と、他作は2ケタに届かず。バラエティが好調の日本テレビも『正義のセ』11.0%ながら2話で9.9%、『崖っぷちホテル!』も10.6%から2話6.1%、『Missデビル』も9.6から2話8.1%と大幅に落ち込んだ。
しかし、最も苦戦しているのは、今回もフジテレビ。旬の脚本家・古沢良太で勝負を賭けた『コンフィデンスマンJP』9.4%、社会現象を起こした韓流ドラマのリメイク『シグナル』9.7%、大河ドラマばりの大量キャスティングを施した『モンテ・クリスト伯』(フジテレビ系)が5.1%に留まるなど大苦戦している。
ただ、「視聴率に関しては、テレビ朝日の一話完結刑事モノが一番取りやすい」というだけであり、録画視聴率、配信視聴数、視聴熱、視聴満足度など、別の尺度から見たらまったく違う結果が浮かび上がる。これは視聴率でビジネスをするテレビ局にも、それを報じるメディアにも問題があるのだが、自分たちの力だけではなかなか変われないのも事実だ。
だからこそ、みなさんには視聴率に関わる報道にとらわれず、自分が面白いと思う作品にエールを発信することで、「制作サイドが視聴率至上主義に陥らないための抑止役になってもらえたら」と思っている。つまり、テレビ朝日のような一話完結刑事ドラマばかりにならないために、他局の作品に応援の声をあげてほしいのだ。
これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、「日韓中の同時制作」というプロジェクトに挑む『コンフィデンスマンJP』。コンゲームのスケールを大きくするために、あえてディテールにこだわらずアバウトにするなど間口の広さが徹底され、頭を空っぽにして楽しめる。
その他のおすすめは、実績十分の俳優とスタッフがガッチリ手を組んだ希少なビジネス作『ヘッドハンター』、クレームすれすれのナンセンスな純愛をやり切る『おっさんずラブ』、映像のクオリティなら随一の『シグナル』、絶滅危惧種となった新年度成長モノ『いつまでも白い羽根』。
「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局のオンデマンドなどで、チェックしてみてはいかがだろうか。
■おすすめ5作
- No.1 コンフィデンスマンJP(フジテレビ系 月曜21時)
- No.2 ヘッドハンター(テレビ東京系 月曜22時)
- No.3 おっさんずラブ(テレビ朝日系 土曜23時15分)
- No.4 シグナル(フジテレビ系 火曜21時)
- No.5 いつまでも白い羽根(フジテレビ系 土曜23時40分)
■プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。