映画界の生けるレジェンド、スティーブン・スピルバーグが、世界中で大旋風を巻き起こしている監督最新作『レディ・プレイヤー1』(4月20日公開)を携えて日本に降臨! 『宇宙戦争』(05)以来13年ぶりの来日を果たしたスピルバーグ監督が、インタビューで日本への愛を語ってくれた。
これまで『A.I.』(01)や『マイノリティ・リポート』(02)など、最新テクノロジーの脅威をエンターテインメントに落とし込み、警鐘を鳴らしてきたスピルバーグ監督。今回は観る者がVR(バーチャル・リアリティー)ワールドを体感できる、規格外の映画を打ち出した。
ゴーグルをつけ、自分の夢を叶えられる場所“オアシス”へ逃避する若者たち。彼らが天才創設者の遺言に仕掛けられた3つの謎と、56兆円という莫大な財産を巡る世界規模の争奪戦にトライする。本作はすでに、アメリカ、フランス、スペイン、中国など各国でメガヒットを記録している。
三船敏郎をアバターに起用した理由
――森崎ウィン演じるダイトウのアバター・トシロウが三船敏郎さんという点が面白かったです。三船さんはスピルバーグ監督の『1941』(79)にも出演されていますが、今回アバターに起用された理由を聞かせてください。
アメリカの観客にとって、三船敏郎といえば黒澤明監督、黒澤明監督といえば三船敏郎なんだ。僕はお二人の映画では『蜘蛛巣城』(57)が大好きだよ。
三船さんが1977年にLAに来た時、僕の監督する『1941』にぜひ出てほしいとオファーして、出てもらったよ。そういう交友関係があったので、今回は息子さんに許可を得て、アバターとして出演してもらうことになったんだ。
スピルバーグ監督のお宝が劇中に!?
――VRのゴーグルをつけてないのに臨場感たっぷりの映像が楽しめました。何か観客を魅了させるトリックを使ったのですか?
ものすごい褒め言葉だね。トリックはないけど、あるとしたらストーリーが良かったことじゃないかな。また、アバターが実写の人間と同じくらいリアルなところがいいんじゃないかと。
本作は今まで手掛けてきた中では技術的に一番複雑な映画で、制作に3年もかかってしまった。僕の監督作の中では一番時間を掛けたのが『未知との遭遇』(77)で、本作は2番目に長くかかった映画となった。
アーネスト・クラインの原作はもちろん、ザック・ネンの脚本も素晴らしかった。僕は3年間、ずっとザックと話し合ってきた。今回は僕と同じくらい想像力に長けた人たちと組んで、オアシスのイメージを伝える手伝いをしてもらったよ。観客に、バーチャルワールドにいるような感覚を味わってほしかったから。
――VRの中でお宝を探していきますが、監督ご自身がこの映画に隠したお宝映像はあるのでしょうか?
あるよ。今は言えないけど、僕とすごく親密なものを発見できるんじゃないかな。ILMが特殊効果をやってくれたんだけど、彼らが僕を驚かせるためにイースターエッグをいろんなところへ入れてくれたんだ。
ある時、エフェクトの作業中にグレムリンが走っていく姿を見つけたよ(笑)。それは一瞬の出来事だった。どうやらそれは僕へのサプライズで、本当は見つけちゃいけなかったけど、驚かされちゃったよ。
最新テクノロジーへの危機感
――スピルバーグ監督は、これまで最新テクノロジーをテーマに、 それがもたらす夢と共に脅威も描いてきました。今、現実世界において未来に期待しているテクノロジーと、危惧しているテクノロジーについて教えてください。
『ジュラシック・パーク』(93)などは、まさに最新テクノロジーがあったからこそできた映画だ。僕が少し恐れているのは、ロボット工学における感覚をもつロボットかな。AIがどんどん発達しているから、人間より賢いものを作ってしまうとコントロールできなくなるから怖いよね。
また、サイボーグのように体をいじり、機械を組み込んだりすることも恐ろしい。ただ、30年後、50年後を考えると、当然そういうサイボーグ的なものが生産されていくと思う。
また、僕が今一番恐れているのがスマートフォンなんだ。要するに人間が目と目を向き合って話す機会をなくしてしまっている。本作のVRでは、アバター同士が目を見て会話をしているから、ずっとスマホを見て下を向いている状況よりはまだマシなんじゃないかと思う。
宮崎駿監督にシンパシー
――童心を忘れないために、何か心がけていることはありますか?
それは自分がそういう人間だからだと思う。童心は捨てようと思っても、捨てられない。朝起きる時も夜寝る時も、僕はそういう心をもったままなんだ。でも、この業界にいて、いろんな物語を語れることは、非常にラッキーだとも思う。
――スピルバーグ監督は、普段、どういうものからイマジネーションを受けているのですか?
僕は常日頃から空想の世界にいる。そのことは家族に聞けばわかると思うよ。よく子どもに「今、どこにいたの?」と聞かれるから(笑)。
数年前、スタジオジブリにおじゃまして、宮崎駿監督にお会いした時、彼にとてもシンパシーを感じた。きっと彼も自分と同じようにいつも空想しているんじゃないかと思ったよ。
『レディプレ』で伝えたいメッセージ
――本作は80年代のカルチャーへの愛が詰まった作品になっています。監督にとって80年代は、映画監督としてどういう時代だったと思いますか?
80年代はイノセンスの時代だった。レーガン大統領がいて、経済もまあまあ良くて、仕事もあって、文化がすべてコントロールされていた。映画、ファッション、テレビにもイノセントな要素があった。
原作者アーネスト・クラインが本作の舞台を2045年に設定しているけど、描かれている文化は80年代のものだ。現実の世界はすごくディストピアになっているけど、オアシスは私たちが戻りたい80年代になっている。
私が『E.T.』(82)を撮ったのも80年代で、本作は映画史上、最も大ヒットした映画になった。でももし、今の2018年にあの映画をあのまま作ったとしても、あそこまでヒットしないと思う。80年代だから受けたけど、今の時代はシニカルだからきっと受けないと思う。
ただ、僕が本作を手掛けたのは、そういうシニシズムを打ち破るような映画を作りたかったからなんだ。自分が子どもに戻れるような作品を作りたかったよ。
――この映画でいちばん伝えたいメッセージはどんなものですか?
これまでの映画なら「こういうメッセージだよ」と伝えられたんだけど、この映画に関してはメッセージがありすぎる。だから、観客には自分のメッセージを自分で見つけてほしいと思う。
テーマの1つとして言えるのはチームワークの大切さだ。1人でいろいろとやるよりも、5人の友だちと一緒に解決する方がいい。そういうことをこの映画は言いたいんだと思う。
スティーブン・スピルバーグ
1946年12月18日、アメリカ出身。映画監督でプロデューサー。『JAWS/ジョーズ』(75)、『E.T.』(82)、「インディ・ジョーンズ」シリーズ(81, 84, 89, 08)、『ジュラシック・パーク』(93)など、数々の大ヒット作を手がける。『シンドラーのリスト』(93)で、アカデミー賞最優秀監督賞と最優秀作品賞をW受賞、『プライベート・ライアン』(98)で、最優秀監督賞を受賞。近作は『ブリッジ・オブ・スパイ』(15)、『BFG: ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』(16)、『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(17)。今後『インディ・ジョーンズ5』が待機中
山崎伸子
フリーライター、時々編集者、毎日呑兵衛。エリア情報誌、映画雑誌、映画サイトの編集者を経てフリーに。映画やドラマのインタビューやコラムを中心に執筆。好きな映画と座右の銘は『ライフ・イズ・ビューティフル』、好きな俳優はブラッド・ピット。好きな監督は、クリストファー・ノーラン、ウディ・アレン、岩井俊二、宮崎駿、黒沢清、中村義洋。ドラマは朝ドラと大河をマスト視聴
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