ビザ・ワールドワイド・ジャパンは4月18日、今後のキャッシュレス化に向けた戦略を紹介する説明会を開催し、2020年の東京五輪に向けて「戦略的重点課題」としてデビットカードの普及、デジタル化、セキュリティの強化に取り組んでいく意向だ。また、オリンピック・パラリンピック選手を支援する「Team Visaアスリート」で、サーフィンの五十嵐カノア選手、競泳の瀬戸大也選手、BMXの中村輪夢選手がメンバーになったことも発表した。

  • Visaのキャッシュレス化戦略とは?

    ビザの安渕聖司社長(左)と、BMXの中村輪夢選手

ビザ・ワールドワイド・ジャパン(Visa)は今年創業60周年となったが、「今までの10年以上のペイメントの変化が起きる」(安渕聖司社長)という認識を示しており、こうした変化に対応できるようにイノベーションを継続していきたいとしている。

世界のキャッシュレスの動向に対して、日本は遅れがちといわれている。特に5,000円以下の決済の91%が現金といわれており、この部分をキャッシュレス化することで、全体のキャッシュレス化が大きく進展すると見る。日本のキャッシュレス化比率は、2015年で全体の18%程度だが、国はこれを2025年で40%の目標を掲げていたが、これをさらに前倒しして実現することを目指している。

さらに、訪日外国人が2015年の1,974万人に対して2020年には4,000万人に達すると予測されており、外国人旅行者のキャッシュレス決済に対応する国内の環境作りも求められている。2020年には、世界で発行されるカードの49.5%が非接触決済対応となり、IC化だけでなく、非接触決済への対応も期待されている。

  • 日本のキャッシュレス化比率と目標、訪日外国人旅行者数の推移や消費額など、今後の拡大にキャッシュレス化が貢献する

国内では、77%の人が決済時の現金払いにストレスを感じているという調査もあり、キャッシュレス化によって小銭がなくなり、レジの速度も速くなって行列が減る、といったメリットがあると安渕社長。店舗側にとっても行列の短縮、現金取り扱いの減少による生産性向上などのメリットがあるとする。

こうした点を踏まえ、安渕社長はVisaの目指す「3本柱」として、「キャッシュレス化の促進」「消費者/加盟店により安全で利便性/将来性の高い決済手段を提供」「モバイル/ウェアラブル/IoTを含むイノベーションの促進」を掲げる。

それを実現するための戦略的重点課題のひとつがデビットカードの普及だ。Visaのデビットカードは現在、2006年の発行開始以来、年平均70%の割合で取扱高が拡大しており、発行銀行も21行まで増加した。3~5年後には、カード発行枚数で2016年の5倍、取扱高で同6倍まで拡大することを目指す。

安渕社長は、銀行がビジネスの基盤商品としてVisaデビットを位置づけ、キャッシュカードに標準装備する銀行が増えていると指摘。今後のさらなる拡大を期待する。

デビットカードに加えてNFCによる非接触(タッチ)決済への対応も期待する分野で、タッチ決済対応カードの発行会社は12行になり、これも拡大を目指す。すでに日本マクドナルド全店がサポートしたほか、JTBと提携する宿泊施設などの対応も開始されており、さらに2019年3月以降はイオングループ各店での利用も可能になる。

安渕社長は、今後も他の大手小売などの対応を目指して交渉を進めていく考えで、「20年を目標に、日常的に使うような店舗や外食系の多くでタッチ決済が利用できるようにしたい」としている。

こうした中で重要な技術として位置づけられているのが「トークン・テクノロジー」だ。トークンは、カード番号の代わりにデジタル的に発行されるもう一つの番号で、決済時にこのトークンを使うことで、安全性と利便性が向上する。実際のカード番号と異なる番号なので、例え店舗などからカード番号が漏えいしても、カード再発行をする必要がない。

さらにトークンには属性情報を付与できるのが特徴で、例えば「特定の店でしか使えない番号」「決済1回限りの番号」「1万円までしか使えない番号」といった使い方ができる。

これは、単にカード決済の安全性向上だけでなく、今後拡大するIoTデバイスでの決済でも有効だ。安渕社長は、「2020年までに24億個のIoTデバイスがインターネットに繋がり、これは24億カ所のポイントオブセールスが存在することになるということ」と指摘。セキュリティレベルの異なるデバイスが混在した決済環境でも安全に取引できる手段としてトークン技術の重要性を強調する。

  • IoTデバイスの拡大で決済環境も急増し、そのセキュリティも課題となる

  • Visaでもオリンピックに合わせてさまざまな決済デバイスを開発しており、セキュリティの確保にトークンなどを利用する

このほか、個人間の取引である「プッシュペイメント」の拡大にも注力。個人間送金では、デビットカードでの対応を検討しており、これが実現すれば、銀行が異なってもVisaのデビットカードユーザー同士で手軽に送金できるようになり、個人同士の売買や割り勘などでもキャッシュレス化を促進できる。消費者にとっては送金手数料が不要になるというのも大きなメリットだが、実現のためにはこうした手数料のコストを銀行やVisaなど、どこが負担するかが課題だという。

セキュリティの課題については、トークン以外にもスマホを使った生体認証、行動履歴によるプロファイリングなど、さまざまな技術を使うことで、より安全で利便性の高い決済環境の実現に向けて取り組んでいく意向だ。トークンを使った決済手段としてはApple Payが存在しているが、現時点でVisaは参加しておらず、安渕社長は現時点での対応は言葉を濁す。今後、Google Payなどのスマートフォン決済への対応も含めて、日本のキャッシュレス化に向けたVisaの取り組みが期待される。