中国の市場開放への動きは自分の圧力のせいだとトランプ大統領が自信を深めれば、貿易面で日本に対して直接、強硬な姿勢を示してくるかもしれない。まずは4月17-18日の日米首脳会談に注目だ。


「日米貿易戦争」の再燃はあるのか

4月10日、中国の習近平国家主席は自動車や銀行など、自国の市場開放の計画を表明した。それより少し前から中国との交渉に前向きな姿勢をみせていた米国のトランプ大統領は、習主席の発言を称賛。それまで、米国による高率関税の賦課やそれに対する中国の報復関税の発表などにより「貿易戦争」の様相を呈し始めていたが、緊張はやや緩和した格好だ。

もっとも、具体的な交渉の行方は不透明だ。とりわけ、トランプ大統領は「ビジネスマン」の経験から短期の成果に拘泥(こうでい)するかもしれず、「貿易戦争」がこのまま終息に向かうかどうかは予断を許さない。

米中貿易摩擦は日本にとっても「対岸の火事」ではない。米中間を行き交う貿易財に多くの日本製材料・部品が組み込まれていることは想像に難くない。そもそもグローバルサプライチェーンが発達した現代において、貿易の縮小はどんな形であれ、各国経済にマイナスの影響をもたらすのではないか。

中国の譲歩は自分の圧力のせいだとトランプ大統領が自信を深めれば、日本に対して直接、強硬な姿勢を示してくる可能性もありそうだ。2月、トランプ大統領は、「(日本は)貿易面に関しては同盟国ではない」と発言した。さらに、3月には、鉄鋼・アルミ関税に関連して、「(安倍首相など各国首脳らは)こんなに長い間、米国を利用できたことは信じられないという微笑を浮かべている。そうした日々は終わる」とも語っている。

米商務省によれば、2017年の米国の貿易赤字に占める日本のシェアは8.6%。これはドイツの8.1%とほぼ同じ(EUは19.0%)、中国の47.1%西田明弘を大きく下回った。日米貿易摩擦が激しかった91年の同様のデータでは、日本のシェアは66.3%と断トツだったから(中国は19.4%)、この30年弱の間に日米貿易は大きく様変わりしたことがわかる。

例えば、2016年の米国内の新車販売台数は約1,700万台。このうち、約4割は日本メーカーのものだが、その6割近くが米国内で生産されたものだ。そして、91年から2016年にかけて、日本メーカーによる米国内での自動車生産台数は約3倍に増加した。

それでも、トランプ大統領は日本に対して強い不満を持っているようだ。事実、鉄鋼・アルミ関税では、ユーロ圏やカナダ、ブラジル、韓国、メキシコ、豪州、アルゼンチンが対象外(適用猶予)となる一方で、ロシア、トルコ、中国、台湾などと並んで日本も対象とされた。

4月17-18日、フロリダで日米首脳会談が開催される。27日の韓国と北朝鮮の首脳会談や、5-6月に予定される米朝首脳会談を前に、安倍首相は朝鮮半島の「非核化」を中心に安全保障問題や拉致問題を話し合いたいことだろう。一方、トランプ大統領は、安全保障問題はもちろんのことながら、それに加えて、あるいはそれを条件として通商問題で日本に厳しい要求を突き付けてくるかもしれない。

日米貿易摩擦の歴史については、2017年1月27日の「前編:80年代まで」、2月3日の「後編:90年代以降」をご参照いただきたい。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。

2012年9月、マネースクエア(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」「市場調査部エクスプレス」「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。