無人スーパーと衛星写真で競ったエンタープライズ
エンタープライズ分野のファイナリストは、無人レジのスーパーなどを作る「AiFi」と衛星写真をAIで解析して各種の情報を抽出する「Crowd AI」である。
AiFiはAmazon Goのような無人のレジ無しの店舗を作る会社である。Amazon Goはそのために特別に作られた店で、売り場面積も小さい店舗であるが、AiFiの技術は、既存の大規模な床面積で品数の多い店でも無人化できる点で優れている。
AiFiのテクノロジを使って無人レジ無し店とすることにより、労働コストが減り、年間300万ドル以上の費用削減が見込める。AiFiは、この中から50万ドルを貰う。そして、200か所のスーパーマーケットでこのシステムを稼働させれば、年間1億ドルの売り上げになる。また、顧客ごとの買い物情報やどのように売り場を回るかなどのデータが得られる。さらに、リアルタイムに在庫確認ができ、万引きを防ぐこともできる。
AiFiのシステムは、店舗の陳列棚を天井に設置したカメラで撮影し、顧客と顧客が取り上げた商品を認識する。
次の写真のAiFiのフラグシップのストアは、Amazon Goの3倍の床面積がある。そして、現在、Amazon Goの50倍の面積のストアを作るパイロットプロジェクトを推進しているという。
一方のCrowdAIは衛星画像から、AIを使って必要な情報を精度良く取り出す会社である。例えば、政府は道路などの建設や修理の評価、保険会社なら災害の範囲の把握、エネルギーを供給する会社ならエネルギーの生産や消費の状態などは役に立つ情報である。
CrowdAIでは取り出すデータの種類に応じて大量の学習データを揃えてニューラルネットワークに学習させて、必要なデータが抽出できるようにしているという。
この例はドバイの道路地図であるが、衛星写真とOpenStreetMapの地図と衛星写真から作成したCrowdAIの地図を示している。
OpenStreetMapでは空白となっている部分に、CrowdAIの地図では新しく街区が建設されていることが分かる。また、不規則な細い道が存在するのが見える。
道路以外にも、船や石油の井戸や建設機械を数えたり、植生を調べたりすることもできる。このため、CrowdAIのマップはいろいろな用途に使うことができ、Oil & Gas分野での市場規模は10億ドル、Financial Data分野では44億ドル、保険分野では10億ドル、政府関係では14億ドル、地図、ナビゲーション分野では4億ドル程度の市場が見込まれ、全体では82億ドル/年程度の大きな市場が存在する。
このエンタープライズ分野では、AiFiがInception Awordを受賞した。
歩行ロボットと荷物の積み下ろしロボットで競った自律型システム
自律型システムの分野では、「GHOST ROBOTICS」と「KINEMA systems」というロボティックス企業同士の戦いとなった。
GHOST ROBOTICS(GR)は足で歩行するロボットを開発している。歩行ロボットは、車や無限軌道を使うロボットよりも凹凸のある地面にも対応できるとか、エネルギー効率が良いとかいうメリットがある。
次の図は、GRのMinitaurシリーズのロボットが歩いている写真であるが、会場で示されたビデオでは歩くだけではなく、飛び跳ねている場面もあり、運動性が高いことを示していた。
2020年から2023年のロボット全体の市場規模はIDCのデータでは2310億ドル。その中で、地上を移動するUGB(Unmanned Ground Vehicle)の市場規模は90億ドルと見積もられている。
GRは2018年2月に行われた「AUVSI(Association for Unmanned Vehicle Systems International)」のエクセレンスアワードにVision 60 v1 プロトタイプを出品し、イノベーションアワードを受賞している。
GRのロボットはモジュラーなハードウェアで構成され、複雑さをSDKで隠して動かしやすくしているという。そして、NVIDIAのGPUを使ったAIは99.999%の信頼性を実現するカギとなっているという。
一方のKINEMA systemsはパレットに積まれたサイズの異なる多種のボックスをベルトコンベアに載せ替えるロボットを開発している。ボックスの大きさがバラバラで、積み方も異なるパレットからの積み下ろしは自動化が難しく、現在は、人手で行われているという。しかし、重い箱の積み下ろしは重労働で、腰を痛めて辞める人が多いという。
Kinemaはこの問題に取り組み、「Kinema Systems KS1000」という高解像度センサと「Kinema Pick」というソフトウェアを開発した。性能を上げるためには、認識速度を高める必要があり、Kinema Pickはトレーニングとインファレンスの両方にGPUを使用している。
パレットからの荷下ろしだけでも10億ドル(約1000億円)の市場であるが、その先としてはサイズの異なるボックスのパレット化を考えている。この市場は、パレットからの荷下ろしの数倍の規模である。さらに、棚から商品を取り出してパレットにまとめるという市場は、10~12倍の規模である。Amazonなどのオンラインの通販企業が伸びており、その物流のロボットを使った改善のニーズは今後も伸びていくと予想される。
Kinema Pickはすでに荷下ろし用に引き合いを受けており、製造能力が需要に追い付かない状況になっている。日本の大手のIHI、米国のトップクラスのディストリビュータなどがすでにKinemaの顧客になっているという。
なお、Kinemaは展示のロボティックスコーナーで実演を行っていた。ロボットアームとしては安川電機のものを使っていたが、ポイントはボックスの位置や方向を認識してPickするシステムである。
自律型システム分野のInception Awordは、Kinema Systemsが受賞した。