Appleは10日、世界各地の同社の施設が100%クリーンエネルギーで賄われていることを明らかにした。これらの施設には、米国、英国、中国そしてインドを含む世界43カ国にある直営店、オフィス、データセンターそして共用施設が含まれている。同社はまた、さらに9社の製造パートナーがApple向けの生産を100%クリーンエネルギーで行うことを約束したと発表した。これによりクリーンエネルギーでの生産を約束したサプライヤーの数は全部で23社となる。Appleは、事業運営を100%再生可能エネルギーで賄うのを目標に掲げた企業が名を連ねる企業組織「RE100」にも参加している。

  • クパティーノのAppleの新社屋は100%再生可能エネルギーで電力を賄っており、その一部は17メガワットのオンサイト屋上太陽光パネル設備から供給されている

今回、クリーンエネルギーでの生産を約束したサプライヤーは、日本でプリント基板用のソルダーマスクを製造する太陽インキ製造など9社。日本では、昨年、Appleのデバイスの中にある半導体パッケージを製造するイビデンが名乗りを上げていた。そして、Appleのクリーンエネルギーポータルに登録したサプライヤーは、85社以上になるという。

  • 名古屋郊外にある部品サプライヤー、イビデンは、水上太陽光発電システムを利用して製造における電力使用の100%を賄っている

Appleとそのパートナーは世界各国で新しい再生可能エネルギープロジェクトを起ち上げ、その土地その土地でエネルギーの選択肢を増やしてきた。また、Appleは新しい地域向け再生可能エネルギープロジェクトを独自にプログラムしたり、公益事業体と協力して開発していっている。これらのプロジェクトは、太陽光パネルや風力発電基地、バイオガス燃料電池にマイクロ水力発電、さらにエネルギー貯蔵技術といった幅広いエネルギー源の確保を目標としている。

  • 中国では、太陽光パネルを地上高く、太陽光が通り抜けるように設置してあり。こうすることで、ヤクが食べる草が生えるようになる

Appleは現在、世界各地で25の再生可能エネルギープロジェクトを推進していて、その発電容量は計626メガワットに上る。2017年に稼働し始めた太陽光発電は、それだけで286メガワットという発電量を生み出している。これは1年間の発電量としては過去最高となるとのことだ。プロジェクトはさらに15の施設が建設中で、これらが完成すると1.4ギガワットを超えるクリーンな再生可能エネルギー発電が11カ国で行われることになる。

Appleのすべてのデータセンターは、2014年以降、100%再生可能エネルギーで電力を調達しているが、この度、自社施設で使っている電力すべてが100%クリーンエネルギーとなった。2015年の時点で、93%だったのが、昨年96%に届き、今年ついに100%を達成した。またAppleのすべての再生可能エネルギープロジェクトは、2011年以降、全世界の施設から排出される温室ガス(CO2e)の量を54%削減し、およそ210万メートルトンのCO2eが大気圏に排出されるのを防いでいる。

環境問題についてAppleは、前CEOであるスティーブ・ジョブズの時代から真摯に取り組み、2013年には元連邦環境庁長官のリサ・ジャクソンを担当役員に据えるといった施策を打ってきたものの、時に、グリーンピースなどの環境保護団体からの批判に晒されることもあった。中国工場での有害廃棄物による環境汚染問題や、電子製品が環境に与える影響を総合的に評価する「EPEAT」のレーティングから製品を取り下げたりといった問題も表面化したことがあったが、それらにも実直なアクションを起こし、誤りを認め、改善するよう努力を続けてきたという歴史がある。Appleの行動規範としてこの「誤りを認める」というのは常に正しく働いてきたのだ。

また、オバマからトランプへと政権交代があり、企業にとってエコな活動するのは損という機運が生まれつつある状況下でもAppleは倫理的に正しい判断をしてきた。オバマ政権時代、クリーンエネルギー事業は政府の補助金で成立しているという側面があり、そこに乗る企業も多かった。だが、予算が削減されていく(もう補助金が出ない)となれば、事業を継続するメリットは次第に薄れていく。特に米国においては、これからエコロジー活動にコミットするというのは労多くして功少なしということになりかねないのである(ただし、太陽光発電への生産減税と風力発電への投資減税は継続されるなど、トランプは全面的にクリーンエネルギー不支持というわけではない。地球温暖化対策ではなく国内経済の伸長を優先する立場と見るのがより正確なのかもしれない)。

しかし、それでもAppleは、メリット・デメリットに関わらず、自分たちの信念を貫き通すことを選んだ。パリ協定を離脱しようが、地球温暖化対策見直す大統領令に署名しようが、環境問題を改善し、企業の社会的責任を果たすという姿勢を示したのだ。

とはいえ、企業は利他的な動機ではなく、規制や競争上の理由から環境問題に取り組んでいるのだと訝しく思う人も少なくない。少し前の調査だが、米国のリサーチ会社「Tiller」によれば、企業の環境問題への取り組みは、環境問題そのものに対する懸念が動機となっていると考える人は21%にとどまるという数字が出ている。当然、Appleの一連の動向についても、ややもすれば「胡散臭い」と感じる人もいることだろう。

それを払拭するには、実践あるのみだ。真のイノベーションに向かって、問題意識を持ち続け、それが我々の未来を持続可能なものにするとAppleは訴えてきた。そして、ポーズをとるのでなく、本気でコミットし続けている。実際、本当に細かいところまで配慮していて、例えば、米国のApple Storeでは、ショッパーがプラスティックバッグから再生紙を使ったものに変更されているし、先日シカゴで開催されたスペシャルイベントのプレスパスも再生紙が使用されていた。プレスパスは昨年9月にiPhone Xなどが発表されたイベントから再生紙となっているが、日本でも先頃オープンしたApple 新宿の内覧会で配布されたパスが再生紙利用となっている(と考えると、日本でもそろそろショッパーがプラスティックバッグでなくなる日が近付いているのかもしれない)。

  • プレスパスも気がつけば再生紙に

有言実行というスタンスで、必要電力について世界中の自社施設で使っている分は100%再生可能エネルギーに移行させたわけだが、まだまだやらなければならないことは沢山ある。特に、天然資源の採掘に関する問題については、その解決に至る道のりがかなり険しいように思われる。それでもAppleは挑戦し続け、努力を重ねていくのだろう。そしていつか、有言実行だったのを不言実行へとフェーズを移行させていくのだろう。