米労働省が4月6日に発表した3月雇用統計の主な結果は、(1)非農業部門雇用者数10.3万人増、(2)失業率4.1%、(3)平均時給26.82ドル(前月比0.3%増、前年比2.7%増)という内容であった。
(1) 3月の米非農業部門雇用者数は前月比10.3万人増と、市場予想の18.5万人増を下回った。それでも、3カ月平均の雇用者数増加幅は20.2万人と高水準を維持しており、米雇用情勢は堅調との見方に変わりはない。建設業の雇用者が1.5万人減少したのが目立ったが、天候がすぐれない地域があった事が原因とみられるほか、熟練工が不足しているためとの見方も出ていた。
(2) 3月の米失業率は4.1%と、市場予想の4.0%には届かなかったが2000年12月以来の低水準を6カ月連続で維持した。労働参加率が前月の63.0%から62.9%に低下した(にもかかわらず失業率が横ばいだった)点はややマイナス材料だが、失業率は米連邦準備制度理事会(FRB)が「完全雇用」とみなす4.5%前後を下回っており、大きな問題ではないだろう。なお、広義の失業率である不完全雇用率は、前月の8.2%から8.0%に改善した。
(3) 3月の米平均時給は26.82ドルと前月から0.08ドル増加して過去最高を記録。伸び率は前月比+0.3%、前年比+2.7%と、予想通りながらも前月の+0.1%、+2.6%から加速した。ただ、インフレ率をFRBの目標である2%に押し上げるためには3%超の賃金の伸びが必要との見方が一般的であり、その点では物足りなさが残る結果であったと言えそうだ。なお、週平均労働時間は34.5時間と、前月から横ばいだった。
今回の米3月雇用統計も引き続き平均時給の伸び率に焦点が集まっていたが、結果は全くの予想通りであった。米国のインフレが加速するとの見通しには繋がらなかったが、今後も加速しそうにないと言えるほど伸びが鈍かったわけでもない。FRBによる年3回の利上げ(今年はあと2回)見通しについても、4回にペースアップするとの見方や2回にダウンするとの見方が市場で浮上する事はなさそうだ。なお、雇用統計の発表後に講演を行ったパウエルFRB議長は「緩やかな賃金の伸びは雇用市場が過度に引き締まっていない事を示す」とした上で、緩やかなペースで利上げを継続する考えを改めて示した。米3月雇用統計発表後のNY市場では、米国株とドルが下落するとともに米国債が上昇(金利低下)した。米中貿易戦争に対する懸念が高まった事が大きく影響した事は確かだが、一方で、今回の雇用統計は通商問題で冷え込んだ市場心理をほぐすには力不足だったとも言えるだろう。
執筆者プロフィール : 神田 卓也(かんだ たくや)
株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役調査部長。1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信(デイリーレポート『外為トゥデイ』など)を主業務とする傍ら、相場動向などについて、WEB・新聞・雑誌・テレビ等にコメントを発信。Twitterアカウント:@kandaTakuya