年が明けたと思ったらあっという間に4月。新天地に引っ越しをして新生活を始めたという人も多いのではないでしょうか。今回は引っ越しに関する手続きについて、弁護士の刈谷龍太先生に聞きました。
Q. 引っ越しをするときに役所で行わなければならない手続について、法律上の理由とともに教えてください。
引っ越しをする際には、各市町村の役所に対して手続を行う必要があり、「住民基本台帳法」(以下「法」といいます)がこれを定めています。
法は、住民が引っ越す場合を2パターンに分けて取り決めています。
①1つの市町村の区域内において住所を変更するパターン(転居)
②もとの市町村の区域外へ住所を移し(転出)、新たな市町村の区域内で住所を定めるパターン(転入)
第一に、住民が転居をする場合(①)は、転居をした日から14日以内に、以下を市町村長に届け出なければなりません(法23条)。
・氏名
・新旧住所
・転居をした年月日
・世帯主についてはその旨
・世帯主の氏名及び世帯主との続柄
同じ市町村の中で住所を移すだけですから、その市町村の役所で手続をすれば届出は完了です。
第二に、住民が転出・転入する場合(②)についてです。引っ越し元の住所と引っ越し先の住所が、別の市町村にまたがっていますから、それぞれの役所で手続を行います。
まず、住民がこれまで住んでいた市町村から転出するとき、あらかじめ、その氏名、転出先及び転出の予定年月日を、転出元の市町村長に届け出なければなりません(法24条)。転出届を受けた市町村長からは、転出証明書が交付されます(法施行令24条1項)。
次に、住民が新たな市町村へ転入するとき、交付された転出証明書を添えて、転入をした日から14日以内に、以下を転入先の市町村長に届け出なければならないとされています(法22条1項、2項、法施行令22条)。
・氏名
・新旧住所
・転居をした年月日
・世帯主についてはその旨
・世帯主の氏名及び世帯主との続柄
・転入前の住民票コード
(※国外からの転入の場合には別途届出事項があります)
法がこうした届出を住民に義務付けている理由は、住民の居住関係の公証し、住民に関する記録を正確かつ統一的に行うことで、住民の利便や行政の合理化を図ることにあります(法1条)。
実際に、住民票のデータをもとに選挙人名簿への登録が行われ(公職選挙法21条1項)、この選挙人名簿をもとに裁判員裁判で呼び出される裁判員候補者の選出がされています(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律)。
引っ越し先の市町村に対してきちんと届出を行うことは、その市町村での行政サービスを受けるための前提となるわけです。
Q. マイナンバーカードでできる「転入届の特例」について教えてください。
マイナンバーカード(個人番号カード)の交付を受けている者が転出届を出す場合には、転出証明書が交付されず、その後の転入届においても転出証明書の提出が省略されます(法24条の2)。
住民が元の市町村から転出したことは、元の市町村からデータ通信で転入先の市町村まで通知がされるため、転出証明書という紙媒体の書類を発行することなどのコストを抑える意味があると考えられます。
Q. 届け出なかった場合、どうなってしまうのでしょうか?
法52条2項によれば、正当な理由なく転居届、転入・転出届をしない者に対しては、5万円以下の過料という制裁が下されることがあります。
過料とは、行政上の秩序を維持するために違反者に制裁として金銭的負担を課すものをいい、住民基本台帳制度を有意義なものとすべく、きちんと届出をするように動機づける意味があります。
なお、罰金や科料のような刑罰ではありませんので、課されても前科になるわけではありません。
Q. その他、役所に届け出るもの以外で、注意した方がいい手続などあればお教えください。
まず、これまで住んでいた賃貸物件から退去する場合には、不動産管理会社やオーナーに退去の連絡をすることになりますが、通常の賃貸借契約書では退去をする際「〇〇日前までに申告する」といった取り決めがあります。
これに遅れてしまうと、1月分余計に賃料を払わなければならなくなる可能性がありますので、契約内容をよく確認して引っ越しの準備を進めることをおすすめします。
また、粗大ごみの回収なども市町村によってかかる日数や回収方法が異なりますので、前もって調べておくべきです。
他にも住所の変更を連絡しておくべきサービスとして、水道光熱費などの公共サービス、インターネット回線、新聞・雑誌の定期購読などがあり、それぞれの契約内容を問い合わせてみると良いでしょう。
Q. 最後にメッセージをお願いします。
このように引っ越しをするには、役所への届出関係でもそれ以外でもやるべきことが非常に多く、初めて引っ越しをされる方はとくに大変です。しかし、どれも日常生活を送るために大事なサービスですから、新生活で早々につまずかないよう、ひとつずつクリアしていきましょう。
刈谷龍太(かりや りょうた)
弁護士。1983年千葉県生まれ。中央大学法科大学院修了。
弁護士登録後、都内で研鑽を積み2014年に新宿で弁護士法人グラディアトル法律事務所を創立。代表弁護士として日々の業務に勤しむほか、メディア出演やコラムの執筆などをおこなう。
男女トラブル、労働事件、ネットトラブルなどの依頼のほか、企業法務においても顕著な活躍を残す。
アクティブな性格で事務所を引っ張り、依頼者や事件に合わせた解決や提案力などに力がある。