社内公用語が英語の楽天、TOEICスコアが900点で100万円ボーナスが支給されるソフトバンク。「どちらもグローバル展開しているからうちには関係ない」と思われるかもしれないが、2017年の訪日外国人が前年比約20%増の2869万人、2020年の目標数が4000万人という環境の中で、いくら国内企業といえども英語を無視するわけにはいかない。
訪日外国人のうち、およそ3/4はアジア圏であり、必ずしも英語が必要というわけではない。ただ、どの国でも英語を学ぶ点、将来的なビジネス開発を見据えるのであれば、やはり英語を勉強するに越したことはない。そこで、TOEICを実施・運営する国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)のIP事業本部 IP普及ユニット ユニットマネージャーの永井 聡一郎氏に、ビジネスにおけるTOEICの活用について話を聞いた。
企業が英語力を育てる必要性
訪日外国人数が増えることで最も恩恵をうけるのは宿泊施設だろう。昨今は民泊解禁に合わせ、競争も激しくなる。そんな時代だからこそ、英語コミュニケーションが重要と永井氏は語る。
「4000万人、その先の6000万人という訪日外国人数の目標がある中で、一番重要になるのが宿泊施設です。集客はさまざまなWebサービスを介して可能な時代です。ただ、何度も日本を訪れるような外国人にリピートしてもらうためには『感動体験』が大切なんです。コミュニケーション領域は、お金をかけたからといってすぐに成果が見えるわけではない。ですが、ここのところのインバウンド需要の増大に合わせ、投資メリットを見出すところが増えてきています」(永井氏)
オンライン上は最悪、翻訳サービスを噛ませることで対処できるが、「オフラインは人的な対応が重要になる」(永井氏)。例えばホテルではコンシェルジュが英語に対応できるものの、それ以外のスタッフでは対応できないケースがある。
「多くのホテルは英語対応マニュアルを作成しています。ただ、従業員は内容こそ覚えていても"理解"はできていない。『当ホテルは景色が自慢です』と説明できても、『あの窓の向こうにある建物はなんですか?』と尋ねられたらアワアワしてしまう。フレキシブルに対応するためには、会社として学習に取り組む必要があるんです」(永井氏)
訪日外国人への対応策では、5年前と現在で環境が変わっている。5年前の課題筆頭は「Wi-Fi環境の整備」だった。しかし、この5年で主だった企業は整備をほぼ完了したことで「ハードからソフトへ、訪日客への柔軟なコミュニケーション手段の提供が重要になってきている」(永井氏)。
ホテル向けにIIBCがセミナーを開催した際、永井氏は大手ホテルチェーンの人事担当者に「採用時に重視するのは、後から育てられる英語力や接客の資格ではない。お客さまに『ありがとうございます』と言われて喜びを感じられる感性を持つ人か」という話を聞いたと話す。
この大手ホテルチェーンはこれまで、数多くの訪日外国人を相手にしてきた企業だ。老舗企業だからこそ、と言えばそれまでだが、即戦力の英語人材が喫緊の課題であるはずの企業が、その会社にとって大切な価値を優先して「英語力は企業が育てる」という意識を持つ現状を鑑みれば、昨今の「目先の英語対応」に追われる企業にとっては一考の余地があるだろう。