他の作品より1カ月遅れの2月3日スタートだった『家族の旅路 家族を殺された男と殺した男』(フジテレビ系)の最終回が放送され、冬ドラマがほぼ終了。全話の平均視聴率(ビデオリサーチ、関東地区)では『99.9 -刑事専門弁護士-』(TBS系)の17.6%、『BG ~身辺警護人~』(テレビ朝日系)の15.2%、『アンナチュラル』(TBS系)の11.1%が好結果を残した。
一方、低視聴率にあえいだものの、『海月姫』(フジテレビ系)、『隣の家族は青く見える』(フジテレビ系)、『もみ消して冬~わが家の問題なかったことに~』(日本テレビ系)など、ネット上で熱狂的なファンを生んだ作品も多かった。
ここでは「平昌五輪で大打撃! 一話完結型が優位に」「物語はフォーマット化、人物の描き方は多様化」という2つのポイントから冬ドラマを検証し、全18作を振り返っていく。今回も「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志がガチ解説する。
ポイント1:平昌五輪で大打撃! 一話完結型が優位に
各競技の生中継目当てにリアルタイム視聴者が爆発的に増える平昌五輪の影響で、連ドラは壊滅的なダメージを受けた。
- 9日―開会式(NHK)28.5%、『アンナチュラル』9.0%
- 10日―スキージャンプ男子個人ノーマルヒル(NHK)20.7%、『もみ消して冬』7.1%
- 15日―女子カーリング(NHK)13.8%、『隣の家族は青く見える』4.6%
- 19日―男女スピードスケート(テレビ朝日系)22.5%、スキージャンプ男子団体(NHK)14.0%、女子カーリング(日本テレビ系)11.3%、『海月姫』5.0%
- 23日―女子カーリング準決勝(NHK)25.7%、『アンナチュラル』9.3%
上記のように、最低視聴率を大きく更新するケースが続出。「メダル獲得が絡む人気競技の中継とバッティングするかしないか」という運不運はあったが、強かったのは、やはり一話完結型の作品だった。
もともと一話完結型の作品は、「いつでも気軽に見られる」「1話見逃しても影響がない」ため、五輪や夏期などのビッグイベント時に強いのが定説。今回、韓国という時差のない地域での五輪開催だったこともあり、その強みが最大限発揮されたのではないか。
視聴率の面では、『相棒』、『科捜研の女』、『BG』とふだん通り一話完結型を並べたテレビ朝日、『99.9』、『アンナチュラル』といつになく一話完結型をそろえたTBSが勝者になった。もしかしたら2020年の東京五輪開催時は、「一話完結型の作品がズラリ」という状態になるかもしれない。
ただ、視聴者の支持は、高視聴率を獲得した一話完結型の『99.9』、『アンナチュラル』、『BG』派と、低視聴率だが連ドラらしい物語性と連続性を重視した『海月姫』、『隣の家族は青く見える』派に二分。熱狂度という点では遜色なかっただけに、今後も両者を楽しめるバランスのいいラインナップが望まれる。
ポイント2:物語はフォーマット化、人物の描き方は多様化
前述した平昌五輪対策、ひいては「安定した視聴率を得るため」、あるいは「続編を視野に入れるため」に、一話完結型の事件解決モノが続出。これはテレビ朝日が通常用いている形であり、もちろんダメというわけではないが、今冬はTBSも続いたことで、プライムタイムの約半数を占める状態となった。
なかには各話の展開に変化をつけた『アンナチュラル』のような作品もあったが、各局が視聴率というリアルタイム視聴に偏る数値のみを重視する限り、ある程度の作品フォーマット化は進んでいくだろう。
逆に、登場人物の描き方は多様化が見られた。『隣の家族は青く見える』、『女子的生活』、『海月姫』、『きみが心に棲みついた』、『アンナチュラル』、『もみ消して冬』、『99.9』、『トドメの接吻』、『明日の君がもっと好き』(テレビ朝日系)の登場人物は、性格・行動・生き方がさまざま。しかも大半の登場人物が、肯定的に描かれていた。
その副産物として生まれたのは、LGBTや異性装に挑む俳優の姿。『隣の家族は青く見える』の眞島秀和と北村匠海、『女子的生活』の志尊淳と中島広稀、『海月姫』の瀬戸康史、『明日の君がもっと好き』の森川葵が、繊細な役作りで称賛の声を集めた。BSの作品でも女装に挑む俳優がいたほか、次クールも『家政婦のミタゾノ』で松岡昌宏が女装に再び挑むなど、賛否はあれど、しばらくはこの流れが続きそうだ。
多様化を肯定するような描き方は、『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)のヒット以降トレンドとして続いているが、今冬はその傾向が顕著だった。ただ、すでに「主人公の描き方が薄くなる」「作り手のあざとさを感じさせる」などの懸念も生じているだけに、今後はプロデュースのセンスが問われるだろう。
優秀作品『海月姫』・次点『アンナチュラル』
上記を踏まえた上で、秋ドラマの最優秀作品に挙げたいのは、『海月姫』。緩急・明暗自在の演出、原作を巧みに脚色した脚本ともに見応え十分で、「若年層を果敢に狙った」という点も含め、視聴率以上に評価されるべき作品となった。
『アンナチュラル』は、品質という点でトップかもしれないが、あまたある事件モノであり、評価を得やすいジャンル。さらに、続編が期待できる作風のため、次点にさせてもらった。
その他では、ゆるさの中に俳優と監督の技術を潜ませた『バイプレイヤーズ』、LGBTの現実をフラットな視点で描写した『女子的生活』、深夜らしいファンタジーに人間ドラマとミステリーを絡めた『リピート』(日本テレビ系)を挙げておきたい。
主演男優では、繊細な役作りに挑んだ志尊淳と山崎賢人。主演女優では、抑えの必要な役柄ながら秘めた熱さを感じさせた芳根京子と石原さとみ。また、井浦新、遠藤憲一、門脇麦、市川実日子ら助演が、これまで以上の存在感を放っていた。
2018年冬ドラマベスト作品・俳優
-
【最優秀作品】『海月姫』 次点-『アンナチュラル』『女子的生活』
-
【最優秀脚本】『アンナチュラル』 次点-『リピート』
-
【最優秀演出】『海月姫』 次点-『バイプレイヤーズ』
-
【最優秀主演男優】志尊淳(『女子的生活』) 次点-『バイプレイヤーズ』の5人
-
【最優秀主演女優】芳根京子(『海月姫』) 次点-石原さとみ(『アンナチュラル』)
-
【最優秀助演男優】井浦新(『アンナチュラル』) 次点-遠藤憲一(『家族の旅路』)
-
【最優秀助演女優】門脇麦(『トドメの接吻』) 次点-市川実日子(『アンナチュラル』)
- 【優秀若手俳優】清水尋也(『anone』) 恒松祐里(『もみ消して冬』)