リュック・ベッソン監督が『フィフス・エレメント』(97)よりも以前から温めていたという渾身のSF映画『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』が30日、公開を迎えた。原作は、フランス発のコミック、バンド・デシネで連載されていた『ヴァレリアンとローレリーヌ』で、ベッソン監督は10歳の頃、そのヒロイン、ローレリーヌに恋をしたそう。
舞台は西暦2740年、宇宙の平和を守る連邦捜査官ヴァレリアンとローレリーヌが、極秘のミッションを受け、砂漠の惑星キリアンにあるビッグ・マーケットに潜入する。
まずは、ハリウッドのSF大作とは一線を画する、キッチュでアーティスティックな近未来の世界観に陶酔させられる。ヴァレリアン役のデイン・デハーンとローレリーヌ役のカーラ・デルヴィーニュは、フォトジェニックかつエネルギッシュ。リュック・ベッソン監督は、いつもながら若き新進俳優陣を大きなステージへと引き上げ、彼らもその期待に応えた。
すべての撮影は、ベッソンが2012年に共同設立した「シテ・ドゥ・シネマ」という映画複合施設で敢行された。本作は、まさにリュック・ベッソン監督が情熱の赴くまま、自分のチームのみで、4年の歳月をかけて完成させた夢の映像プロジェクトというわけだ。そんな溢れる思いを胸に来日したリュック・ベッソン監督にインタビューした。
――ヴァレリアン役のデイン・デハーンは、『ディーン、君がいた瞬間』(15)でのジェームズ・ディーン役も記憶に新しいところです。今回、原作から役作りで肉付けされた点はありますか?
原作の割合は50%くらいかな。キャラクターは、役者本来の個性と原作のものとが混じり合ってできると僕は考えている。今回のデハーンの場合、他の俳優がヴァレリアン役を演じることなんて想像できないくらい、マッチしていたと思う。でも、もしも他の役者が参加していたら、同じようにミックスして作り上げるよ。
例えば『フィフス・エレメント』でブルース・ウィリスが演じていた役は、もともとメル・ギブソンにオファーしていたんだ。メルはとてもいいヤツで僕は大好きだけど、かなり長い間悩んだ挙げ句、彼も自分の作品を監督したいということで、最終的に断られてしまった。でも、今となっては、あの役をブルース・ウィリス以外の人がやるなんてイメージできないよね。
――現場の雰囲気はいかがでしたか?
ハリウッドの現場とは違い、ファミリーと呼べるような関係性だった。アメリカだとエージェントやパブリシスト、アシスタント、エグゼクティブプロデューサー、ドライバーなど、ものすごい数の人が現場にいる。でも、本作の現場では、デインとカーラと僕の3人だけで、彼らとはいつも一緒だったし、本当に家族のような雰囲気だった。
――ローレリーヌ役のカーラ・デルヴィーニュも実にチャーミングでした。ナタリー・ポートマンや、ミラ・ジョヴォヴィッチ、ルイーズ・ブルゴワンなど、あなたの映画で脚光を浴び、女優としてスターダムを駆け上る女優さんが多い気がします。女優から新しい魅力を引き出す秘訣などはあるのですか?
いやいや、僕は女優からだけではなく、男優からも引き出しているつもりだよ(笑)。
――確かにそうですね。彼女たちが演じたヒロインは、とても勝ち気で男勝りな点が共通しています。ベッソン監督は、そういうパワフルなヒロインが好きなんですか?
僕にとってはそれが普通の女性像なんだけど、それは母親からの影響が大きいと思う。母は父が出ていってしまった後、女手一つで僕を育ててくれた。仕事をしながらも、ちゃんと毎日僕にごはんを食べさせてくれたんだ。とっても細かったけど強い女性で、僕はずっと母を尊敬してきた。
母の次にインパクトを与えた女性が、10歳の時に出会ったローレリーヌだ。だから僕には「女性は強い」というイメージが染み付いている。実際、僕が小さい頃は、すぐに泣いたりするような女性には出会ったことがなかった。僕が知っているすべての女性はゴージャスで強くて才能があるというイメージだ。
――まさにローレリーヌは、タフでパワフルなヒロインですし、彼女のヴァレリアンへの力強い愛にも心を打たれました。
ローレリーヌがヴァレリアンに、人を愛するとはどういうことかを教えるわけです。男は、女性に対してちょっと構えてしまうというか、上から目線になってしまうところがあるよね。でも、女性の存在なくしては、男はただの動物にすぎないと僕は思っている。
――公私共にパートナーであるプロデューサーのヴィルジニー・ベッソン=シラさんとも素敵な関係性を築いてらっしゃいますね。長年温めていた映画を今回、完成させた時に、どういう言葉をかけてもらったのですか?
確か「いい仕事をしたわね」と言ってもられた気がする。実は、もともと妻はSFというジャンルは好きじゃないんだ。でも、今回の脚本をとても気に入ってくれた。ストーリーテリングもキャラクターも、「共生する」というテーマについてもね。すごく人間味に溢れた物語で、SFはそこに付随した要素に過ぎない。だからSFが好きじゃない方でも、本作なら楽しんでもらえるんじゃないかな。
――ジャズ界のレジェンド、ハービー・ハンコックが国防長官役で出演されています。長年のファンだった彼を演出してみて、いかがでしたか?
僕は14歳からハービー・ハンコックの大ファンだった。彼の顔と声が国防長官という役にぴったりだと思ったから今回オファーしたんだ。
直接ハービー・ハンコックと会って「国防長官役をやってくれませんか?」と尋ねたら「僕、役者じゃないんですけど」と言われてしまった。僕は「役者になってほしいというわけじゃなくて、国防長官になってほしい」とお願いしたんだ。
本人は承諾してくれたけど、現場ではとても緊張していた。僕は居心地のいい空間を作り「演じなくていいです。今日、国防長官をやるようにと頼まれたらどうなりますか?」という感じで演出していったけど、結果として、彼にやってもらって良かったと思う。
――まさに、キャスティングの妙ですね。『トランスポーター』シリーズのルイ・レテリエ監督、『マリー・アントワネットに別れをつげて』(12)のブノワ・ジャコー監督、『96時間/リベンジ』(12)のオリヴィエ・メガトン監督など、監督たちのカメオ出演も非常に面白い試みです。
彼らは握手するだけの役だ。ブノワは顔がいいね。「小さい役なんだけど、やってくれない?」とお願いしたら「いいよ」と返事をもらえたよ。メガトンも顔がいい(笑)。2人の監督をゲットしてから、監督5人を揃えたら面白いかなと思い、監督の友人たちの顔をチェックして、順番に当たっていったよ。
――実際に、監督5人を撮影してみていかがでしたか?
彼らはカメオ出演で、たった30分くらいの撮影だったけど、友達同士だから楽しんで撮れたよ。それぞれが宇宙船の中でエイリアンと握手するという役どころで、まずは衣装に驚いていた。中でも、インテリ系監督であるブノワのシーンは、なかなか面白い画になった。フランスのインテリ系のジャーナリストは「ブノワ・ジャコーがこんな映画に出演するなんて」と怒っていたりしたけど、ブノワ自体は楽しんでいたよ。
――さまざまな映画を手がけていますが、今後の抱負についても聞かせてください。
僕は、バリアを作らないことを心がけている。例えば、白黒のフランス映画を撮りたくなったら撮るし、グリーンランドを舞台にした映画を作りたいと思ったら現地に行くよ。いつだって、自分が作りたいものを作っていきたいんだ。
今は世界全体が、我々を「こうしなければいけない」と、背中を押しすぎている気がする。それは「こういう形で、こういう作品を作れば、こういう人たちに響くし、キャリアにとってもプラスになる」というものだ。でも、普通に生活をしていても、明日何が起こるかは全くわからないでしょ。だから、そういうことを考えること自体に何の意味もない。僕はアーティストとして、ただただ自分のインスピレーションを追いかけるようにしている。
リュック・ベッソン
1959年3月18日フランス生まれ。映画監督、脚本家、映画プロデューサー。『グラン・ブルー』(88)の3作で注目され、『ニキータ』(90)、『レオン』(94)で世界的なヒットメーカーとなり、SF超大作『フィフス・エレメント』(97)を放つ。映画スタジオ「ヨーロッパ・コープ」を立ち上げて以降は、『TAXi』や『トランスポーター』をシリーズ化。その他、主な監督作に『アーサーとミニモイの不思議な国』(06)、『アデル/ファラオと復活の秘薬』(10)、『LUCY/ルーシー』(14)などがある。
山崎伸子
フリーライター、時々編集者、毎日呑兵衛。エリア情報誌、映画雑誌、映画サイトの編集者を経てフリーに。映画やドラマのインタビューやコラムを中心に執筆。好きな映画と座右の銘は『ライフ・イズ・ビューティフル』、好きな俳優はブラッド・ピット。好きな監督は、クリストファー・ノーラン、ウディ・アレン、岩井俊二、宮崎駿、黒沢清、中村義洋。ドラマは朝ドラと大河をマスト視聴
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