いよいよ明日31日に最終回を迎えるNHK連続テレビ小説『わろてんか』(毎週月~金曜8:00~8:15ほか)。夫・藤吉(松坂桃李)の死後、ヒロイン・てん(葵わかな)は周囲の人たちの力を借りながら女興行師として成長していったが、藤吉も幽霊としてたびたび登場し、てんを支えてきた。

これまでの朝ドラでも夢の中で死んでしまった人物と会話するシーンなどはあったが、この頻度での登場はおそらく初めてだろう。しかも、てんが鈴を振ると現れる、会いたい時に会えるという大胆な登場に驚かされた。この斬新な展開の狙いとは? 脚本家の吉田智子氏と、後藤高久プロデューサーに聞いた。

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    松坂桃李演じる夫・藤吉が死後も"幽霊"として登場

きっかけは脚本家らの藤吉ロス

――藤吉を死後も幽霊という形で定期的に登場させるのは朝ドラとしてはチャレンジだったのでは?

後藤:そうですね。これまでの朝ドラでは、夢に出てくるとかはあっても、こういう登場はあんまりなかったですよね。

吉田:打ち合わせのとき、お昼ご飯を食べたあと監督と3人で歩道を歩きながら、藤吉の収録が最後に近づいて、いなくなると寂しいなという話をしてたんですよね。

後藤:もう少し藤吉を出したほうがいいよねと、出せないかなという話をして盛り上がりました。

吉田:ずっと以前に打ち合わせで、後藤さんが「反魂香」という落語の話をされたことがあって。お香を焚くと死者が蘇る話なんですが、私がその話を覚えていて、「それを使えませんか?」と話しました。

後藤:そうしたら監督が「白文鳥の鈴を鳴らしたら、藤吉が出てくるってどうかな?」って言い出して、路上で決まりました。

――最初から幽霊として登場する設定ではなかったんですね?

吉田:はい、当初はあの設定はなかったです。書き進めていくうちに藤吉への愛情が増して、いなくなることが寂しくなってきて。死んでほしくなかった(笑)。

――吉田さん的にも藤吉は相当お気に入りということですね。

吉田:もちろん(笑)。ある意味、一番成長するキャラクターですし。資料を読んでいたら昔の芸人さんって本当にむちゃくちゃで、遊びから日常生活まで本当にすごいんです。そんな奔放な芸人上がりの夫をてんちゃんが支えて、てんという名前のとおり太陽のように照らして、一緒に生きていく。だからこそ、藤吉はムチャできるという構造になっています。最近、みんないい子になりすぎてるじゃないですか。でも、人間はむちゃくちゃやってこそ成功できるのではないかと思います。

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"藤吉幽霊"がもたらした安心感と幸せ

――完成したドラマを見て、藤吉の幽霊登場の効果はどう感じていますか?

吉田:良かったと思います。それに、てんにとってはずっと一緒にいてくれた旦那さんが、わかなちゃんにとっては役者の先輩として支えて来てくれた松坂さんが、最後までそばにいてくれるのは安心なんじゃないかと感じました。最終回のてんと藤吉のシーンを見せてもらったんですが、とてもいい雰囲気なんです。

後藤:彼が死後も出てくることは、てんにとっても視聴者にとっても受け容れてもらえているんじゃないかと思います。ドラマを観ているご老人の中には、連れ合いを早くに亡くしている方がいるかもしれません。なんだかわからないけど、亡くなった人がそうやって見守ってくれていると思うだけで幸せな気分になれたらいいなと。そして、松坂桃李ファンもうれしいはずだし、幽霊の藤吉はてんだけでなくきっといろんな人を喜ばせてくれているんじゃないかと夢想しています。

吉田:私、ちょうど執筆の折り返し地点で母が亡くなったんです。それでやっぱり、見守ってくれる人がいるという感覚はある気がしていて、女性ならではの感覚かもしれないですが。てんちゃんもきっとそんな感覚でいたんじゃないかなと思います。

後藤:冷静な人から見ると、あれはてんが勝手に見ている幻影だと、そういう考え方の人もいると思うんですけど、それはどう捉えてもらってもいいんです。ただ、彼が出てくることで幸せになれる瞬間があるのは紛れもない現実なんですから。

吉田:藤吉はてんを「一生笑わしたる」と約束してましたからね。

後藤:ほんとに藤吉って義理堅いんですよね。幽霊だけど(笑)。

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  • 後藤高久プロデューサー(左)と脚本家の吉田智子氏
■プロフィール
後藤高久
1965年、大阪府生まれ。プロデューサー。大阪外国語大学英語学科卒で1989年にNHKに入局。『春よ、来い』(94~95)、『翔ぶ男』(98)の演出を経て、『どんど晴れ』(07)でプロデューサーに。『つばさ』(09)、『四十九日のレシピ』(11)、『新選組血風録』(11)、『聖女』(14)、『ボクの妻と結婚してください』(15)、『奇跡の人』(16)などで制作統括などを務める。

吉田智子
東京都出身。大学卒業後、コピーライターを経て脚本家に。手がけた主なドラマは『美女か野獣』(03)、『働きマン』(07)、『全開ガール」(11)、『学校のカイダン』(15)など。映画は『僕等がいた 前編/後編』(12)、『ホットロード』(14)、『アオハライド』(14)『僕は明日、昨日のきみとデートする』(16)『君の膵臓をたべたい』(17)などの恋愛映画や、『Life~天国で君に逢えたら』(07)『岳-ガク-』(11)『奇跡のリンゴ』(13)などのヒューマン系ドラマまで幅広く執筆。

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