27日(現地時間)に開催されたAppleのスペシャルイベント”Let's take a field trip."で発表された新しい9.7インチiPad。教育の現場にフォーカスしたイベントであり、新モデルも当然、そこで利用されることを強く意識したフィーチャーが紹介されたが、「子供向け」というだけでは決してない。エントリーユース、そして古い世代のiPadをいつまでも使い続けているユーザーの乗り換えにピッタリな仕上がりになっているのだ。Apple Storeや量販店には未だ並んでいないが、マイナビニュースでは、いち早く試用することができたので、早速、そのファーストインプレッションをレポートしよう。

  • 新しい9.7インチiPad

  • 今回入手できたのはシルバー。他にゴールドとスペースブラックの3色展開

いの一番にピックアップしたいのは、やはりApple Pencilへの対応だろう。アイデアのスケッチ、メモの手書き、スクリーンショットをマークアップするといった作業を、より効率的に行えるようにすべく導入が図られた。ペン型のデバイスであるApple Pencilは、ディスプレイ上でペンの位置や圧力、傾きを検出するようになっており、とても滑らかな描き心地で前述の作業にあたれるのが特徴だ。追従性、精度が非常に高く、一般的なスタイラスペンで生じていた遅延にイライラさせられることがなくなる。指先によるマルチタッチの操作よりもさらに精緻な操作が可能となるので、グラフィックを扱う向きには重宝されてきた。

今回発表された新しい9.7インチiPadは、昨年発表された第5世代となる9.7インチiPadの後継モデルだ。第5世代iPadは、上位モデルであるiPad Proの"Pro"機能を省略した機種であり、Apple Pencilにも非対応となっていた。それが、この第6 世代となるモデルでは利用できるようになったのである。このアドバンテージは大きい。昨年発売の10.5インチ/12.9インチ iPad Proでは、Apple Pencilの反応速度を向上すべく「ProMotion」という機能が搭載された。新iPadでは、その機能は省略されてはいるものの、レスポンスはとても良い。ProMotionの反応速度がどの程度のものなのか、恥ずかしながら知らない筆者にしてみれば、まあ、知らないままでもいいかという書き味なのだ。

  • PagesではApple Pencilから新機能「スマート注釈」を利用できる

Apple Pencilとのコンビをより強力にするために、純正アプリである「iWork」の「Pages」「Numbers」「Keynote」では、新たに描画ツールを追加した。特にPagesでは、現時点ではベータ版だが、新機能「スマート注釈」を利用できる。これは、手書きのコメントなどが動的に付加されるというもので、校正記号などを入れると、テキスト部分にリンクが生成され、後からテキストを増やしたり、減らしたりしても、その注釈部分がくっついたままズレずに表示されるのである。出版業界の人などには重宝されそうな機能だ。

続いての強化ポイントは、心臓部分と言えるプロセッサだ。第5世代iPadでは、A9だったのが、新モデルではA10 Fusionに代わった。2つの高性能コアと2つの高効率コアという構成で、高性能コアは第5世代iPadより40%速く作業をこなし、高効率コアは10時間というバッテリーライフを齎す。教育の現場フォーカスということもあり、今回は、ゲームなどエンタテインメント系のアプリやコンテンツが全く紹介されないという珍しい基調講演だったが、グラフィクスの性能も50%高速化しているから、これは店頭に並んだら、その目で処理性能を実感していただきたい。

A10 Fusionが採用されたことで、もう一つ、Apple推しのアレ、AR(拡張現実)を利用したアプリもサクサク動くようになった。A10 Fusionと、最早、標準装備と言えるRetinaディスプレイ(2,048×1,536ピクセル:264ppi)のお陰で、新iPadはAR体験のための大型ビューファインダーとして機能する。さらに強化されたカメラとジャイロスコープと加速度センサーなどの各種センサーが精度の高いトラッキングをサポート。最良のAR体験を味わえる条件が揃ったデバイスに仕上がっている。

  • 基調講演で紹介されたカエルの百科事典アプリ「Froggipedia」

  • Apple Pencilに最適化された機能も

基調講演では、カエルの百科事典アプリ「Froggipedia」が紹介されたが、このアプリ、新iPadの製品コンセプトにピッタリ嵌る一本だ。ARのコンテンツでは、例えば机の上にカエルが現れ、そのカエルの筋肉の構造などを調べることができる。さらに、Apple Pencilに対応した機能では、カエルのバラバラ死体を増やすことなく、諸器官についての知識が得られるというコンテンツを内蔵している。

  • カメラ周辺のデザインでは、横にアンテナと、iPad Air 2的なデザイン

カメラは、背面カメラが8メガピクセルの5枚構成レンズ(f2.4)。パノラマ/バースト/タイマー/HDR写真/顔検出/1080pのHDビデオなどをサポート。前面のFaceTime HDカメラは1.2メガピクセルで、レンズはf2.2。720pビデオ撮影/HDR写真とビデオ/バースト/顔検出をサポートする。

  • オーディオ向けには3.5mmステレオミニジャックを用意

ワイヤレス機能はWi-Fi (802.11 a/b/g/n/ac)で、BluetoothがVer.4.2。そのほか、Touch ID、ステレオスピーカー、Lightningコネクタ、nanoSIMトレイ (Wi-Fi+Cellularモデル)などを装備する。

最後に価格。実は、新iPadの最大の目玉はこれかもしれない。今回、32BGと128GBの2モデルをラインナップ。それぞれ、Wi-FiモデルとWi-Fi+Cellularモデルを用意し、税抜き価格は以下の通りだ。

  • 32GBモデル:37,800円 (Wi-Fi)/52,800円 (Wi-Fi+Cellular)
  • 128GBモデル:48,800円 (Wi-Fi)/63,800円 (Wi-Fi+Cellular)

これが、学校関係者なら、35,800円から61,800円で購入できる。Apple Pencilも学校関係者は10,800円のところ、9,800円で購入可能となる。Apple Pencilが使える、「ほぼiPad Pro」だと考えれば、この値段、安いのではないかと思う。

学生や教員だけでなく、一般ユーザーにも響く価格帯でもあるはずだ。エントリーユーザー、旧タイプのiPadユーザーの買い替え需要を喚起する意外に、初めての、いわゆる「ペンタブレット」としても最適な一台であるように思われる。

また、以前からAppleはiPadを「パソコンの置き換え」という位置付けで紹介してきたが、新iPadでも、そのコンセプトは変わっていない。AppleのWebサイトでは「どんなコンピュータにも似ていないコンピュータ。」というキャッチコピーが躍っているが、コンピュータの代わりとしてのコンピュータとして使うには丁度良い感じだ。

教育の現場はもちろん、ビジネスやクリエイティヴ、ホビーなど、幅広いシーンで利用されそうな新しい9.7インチiPad。さまざまなニーズに応えられるポテンシャルを秘めているという点において、これをファースト・コンピュータとして選択するのは大いに「アリ」なのではないだろうか。