初めて一人暮らしするという方は、事前にどんな費用が必要なのか確認している方も多いでしょう。その中に家財保険という費用もあったはず。なんとなく意味はわかるものの、詳しいことまではよくわからないという方も多いのではないでしょうか。そこで今回は家財保険について、不動産・住生活ライターの高田七穂さんに伺いました。
家財保険とは
家財保険とは、自分の持っているものにかける保険のことです。賃貸住宅を借りるときは、家財保険への加入が義務づけられている場合がほとんど。火災が起きて、自分の家財が燃えたときに保険に加入しておくと、補償を受けられます。家財保険の対象は、自分の洋服や冷蔵庫、ベッドなど。これらに保険をかけておけば、火災だけでなく、落雷や漏水、水害なども補償対象となります。
では、自分のものに被害を受けても、それは自分の責任なのにどうして保険に加入する必要があるのでしょうか。
賃貸住宅での家財保険の多くは、
- 1)家財への補償
- 2)大家さんに対する賠償責任(借家人賠償責任保険、※やや異なる名称もあり)
- 3)第三者への賠償責任(個人賠償責任保険、※やや異なる名称もあり)
の3つがセットになっています。
賃貸住宅を借りる際に家財保険に加入するのは、2と3に加入してほしいからです。ただ、2と3は単独では加入できません。このため、家財保険に入って付加することになるのです。もし、2の借家人賠償責任保険に加入せず、火元になったらどうなるのでしょうか。
ここで、「失火責任法」という法律があります。これは、火元になっても、重大な過失がなければ、損害賠償義務を免れるものです。ここでいう重大な過失とは、天ぷら油の入った鍋をガスコンロにかけて台所を離れて火災が発生した状況などがそれに当たります。隣戸から失火して自分の家財が燃えた場合でも、隣に対して賠償請求はできません。ただ、賃貸住宅においては、自分が火元になった場合、大家さんに対して、失火責任法の適用はされません。
失火によって住宅を燃やした借り主は、重大な過失がなくても室内を「原状回復」して返却する義務があるのです。大家さんに損害を与えたのですから、損害賠償する必要がありますよね。でも、賠償することができない…。保険に加入していれば、その不安から解消されます。大家さんにしても、損害を受けても賠償を受けられないとなると一大事ですから、加入してもらいたいのです。
一方で、この「借家人賠償責任保険」だけでは不十分です。3の個人賠償責任保険は、借り主にとってメリットがある保険で、第三者に対して、自分が過失で加害者になった場合に補償するものになります。「借家人賠償責任保険」は大家さんに対しての賠償責任保険ですから、対象が異なります。これは使えません。そこで、このようなトラブルは「個人賠償責任保険」が補償対象となります。これは日常生活にまつわる事故に対応します。保険料はそれほど高くありません。ただし、この「個人賠償責任保険」は、ほかに加入している損害保険や自動車保険などですでに加入していることがあるので、事前にほかの保険を確認しておきましょう。
家財保険の補償となるケース
一般的な補償の内容は次のようなものです。加入する保険によって違いがあるので、加入前に対象を確認しておきましょう。
- 1.火災、落雷、破裂・爆発
- 2.風災、雹災、雪災
- 3.水濡れ
- 4.盗難
- 5.水災
- 6.破損、汚損
なかなか自分に保険金を請求するような事態が起きるとは思えないかもしれません。しかし、近年、自然災害は増えています。また、ついうっかりというのはいつでも誰にでもありうることなのです。
では、どんなケースが対象になるのでしょうか。住宅内の事故ばかりとは限りません。
■ケース①
自分が洗濯機の蛇口を締め忘れたまま外出してしまい、ふとした拍子にホースが外れて水が流れ、下階の天井から滴った水で室内が水浸しになってしまった
集合住宅ではよく起きています。下の階に漏水し、その部屋の人の家財や家電が濡れて使えなくなったら、あなたが補償をしなければならないのです。毎回、洗濯機の蛇口をきっちり閉めておくのは必須ですが、使っているうちに次第にゆるくなってしまうことがあります。
■ケース②
バルコニーの植木鉢を下に落として歩いていた人に当たり、ケガをさせてしまった。あるいは、干していた布団が下に落ちてしまって、下の階のバルコニーのものを壊してしまった。
きっちり留めているつもりでも、風の強い日などは閉めたネジなどが緩んでしまうことがあります。
■ケース③
自転車で走っているときに、通行人にぶつかってケガをさせてしまった。
■ケース④
買い物中に商品を誤って落としてしまい、壊してしまった。
パッと考えてみるだけでも、これだけのケースが思い浮かびます。こうして見ると、自分にも起こりうることだと感じる方も多いのではないでしょうか。
家財保険の相場
家財保険は、自分が持っている荷物の量で変わってきます。室内の荷物をざっと書き上げてみましょう。おおまかな目安ですが、一人暮らしで20代の場合、もっている家財の価格を全部合わせると100万円~多くても200万円くらいではないでしょうか。この場合でみると、借家人賠償特約や個人賠償責任保険に加入するとして、1年~2年契約で、5000円前後から2万円ほどになりそうです。契約期間が長くなると、保険料は低くなります。もちろん、補償の内容を拡大すると保険料は高くなります。このほか、建物の構造や地域などによって保険料に差があります。
家財保険は自分で選べる?
家財保険は、不動産会社で賃貸住宅を契約すると、自動的に保険会社の加入を求められます。はじめての一人暮らしの場合は、そのまま指定された保険会社に加入してしまうことが少なくないのですが、ここで、なかには、所有している以上の保険に加入する例があります。たとえば、家財を100万円しかもっていないのに、1000万円に加入することになれば、当然、保険料は上がります。
加入する保険は、本来であれば自分で比較検討して選べるはずなのですが、販売する側に手数料が入るため、選択できることを教えてもらえない場合があります。もし、不動産会社からセットで保険を提案されたら、「自分の荷物はこれだけなので、保険料をもう少し下げたい」と伝えてみましょう。また、「自分で選んだ家財保険に加入したい」などと交渉してみてもいいでしょう。
ところで、地震への補償も気になります。大地震では室内のものが一気に倒れ、家電も壊れてしまう可能性がありますが、家財保険では地震被害は補償されません。家具を留めるなどの耐震対策はもちろんですが、地震保険に加入しておくのも一つの方法です。保険料は高くなってしまいますが、地震保険も単独では加入できず、火災保険(家財保険)に付加する形になっています。
家財保険は入らなくてもいいの?
「保険料がもったいない」「私は火災には注意している」などの理由で、「保険には加入したくない」と思うことがあるかもしれません。けれども、民間賃貸住宅では、先にご説明したように家財保険に入るのは、大家さんへの補償である「借家人賠償責任保険」などに加入してもらうためです。ですから、家財保険に加入しない場合は、貸してもらえるのは難しいというのが実情でしょう。一方で、UR賃貸住宅のように、火災保険への加入が義務ではないところもあります。加入していない人がいる一方で、自分で自由に保険内容を比較検討して加入している方もいるようです。ただ、もし加入していない状態で、先にお伝えしたようなトラブルを起こしたら、高額な費用を請求される可能性を知っておきましょう。
また、不動産会社から指定の保険加入を勧められているが、どうしてもその保険に加入したくない、というときはどうすればよいでしょうか。保険の話が出るのは、ほぼ物件を決めた状態のときが多いかと思われます。勧められる保険について、どうしてこの保険がいいのか、その補償は本当に自分に必要なのか、を尋ねてみましょう。そして、その情報は自分にマッチしているかどうかを考えましょう。ここで、「他の会社保険に入りたいから」と伝えて話が進まない場合は、その住宅への入居をあきらめるしかないかもしれません。あるいは、どうしても入居したいなら目をつむることが必要かもしれません。
一方で、「この会社に加入しますが、家財はこんなに持っていないので、もう少し減らしたいです」と交渉してみるのもよいかもしれません。できるだけ、丁寧な口調で、自分の思いを伝えましょう。あるいは、物件探しの段階から、不動産会社に「火災保険は自分で探したところに加入したいのですが」と伝えるようにしましょう。
高田七穂(たかだ なお):不動産・住生活ライター。住まいの選び方や管理、リフォームなどを専門に執筆。モットーは「住む側や消費者の視点」。書籍に『絶対にだまされない マンションの買い方』(共著)『マンションは消費税増税前に絶対買うべし!?』(いずれもエクスナレッジ)など。「夕刊フジ」にて『住まいの処方銭』連載中