「パートだから、産休・育休は取得できない」。そう思っていませんか? 正社員でなくても、一定の条件を満たせば、産休だけでなく、育休も取得できます。また経済的支援を受けられる可能性もあります。まずは基本的な仕組みを知ることから始めましょう。
そもそも、産休と育休の違いって?
「産休・育休」とセットで使われがちですが、この2つの休業制度には違いがあります。
産休
労働基準法で定められている「産前・産後休業」を指す。産前休業は、出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週前)から、請求すれば取得できる。
産後は、出産の翌日から8週間は就業ができない。ただし、産後6週間が過ぎたあと、本人が請求し、医師が支障がないと認めた業務に就くことは問題ない。
つまり、産後6週間は本人が希望した場合でも、就業することは法律で禁止されている。
育休
育児・介護休業法で定められている「育児休業」を指す。原則として、1歳未満の子どもを養育するために休業することができる。
ただし、保育所等の利用を希望しているものの、子どもを保育所等に預けられない場合は、最長2歳まで休業を延長することができる。
産休は出産前後の働く女性を対象にしたものですが、育休は「原則として、1歳未満の子どもを養育するため」の制度なので、働いている男性でも取得が可能です。
また、これまで育児休業の延長は1歳6カ月まででしたが、平成29年10月に育児・介護休業法が改正され、2歳までさらに再延長することが可能になりました。
パートの場合、産休・育休は取得できるの?
違いが分かったところで気になるのは、この産休・育休がパート勤務でも取得できるのかという点です。実は、産休と育休ではその答えが違ってきます。
【産休の場合】
産前・産後休業の取得は、すべての働く女性に与えられた権利となります。つまり、パート勤務をはじめ、どんな働き方であっても、産前・産後休業を取得することができます。
【育休の場合】
働き方によって、取得条件が変わってきます。パート勤務など、期間の定めのある労働契約で働く方が育休を取得する場合、申し出の時点で以下の条件を満たす必要があります。
(1)同一の事業主に引き続き1年以上雇用されていること
(2)子が1歳6カ月に達する日までに、労働契約(更新される場合には、更新後の契約)の期間が満了することが明らかでないこと
※ただし、(1)(2)の条件を満たしていても、週の所定労働時間が2日以下であったり、日々雇用(日雇い)であったりする場合は、育児休業を取得することができません
「1年以上の雇用」というのは、必ずしも"形式的に契約期間が続いている"必要はありません。勤務の実態に即して雇用関係が継続していれば、適用されます。
例えば年末年始など、数日の休日を空けて契約更新をしている場合や、前の契約終了時に既に次の契約が結ばれている場合は、雇用関係が"実質的に継続している"と判断され、条件を満たすことができます。
一方で、書面や口頭で更新回数の上限や契約を更新しない旨が明示されていて、その更新されないことが明らかな日が、子が1歳6カ月に達する日までにある場合は、育児休業を取得することができません。
ただしこの場合も、雇用継続に関する事業主の言動や、同様の地位にあるほかの労働者の状況、過去の契約更新状況などの実態を見て、条件を満たしているか判断されることがあります。
ケース別! パート勤務の人が産休・育休中にもらえるお金
制度を利用することができるかどうか分かったら、次に気になるのが、産休・育休を取得した場合の家計への影響です。産休・育休中にはいくつかの経済的支援が用意されているのですが、パート勤務の場合、自身が加入している保険によって、支援が受けられるか否かが変わってきます。
【勤務先の健康保険に加入している場合】
◆出産手当金
出産の日(実際の出産が予定日後のときは出産の予定日)以前42日目(多胎妊娠の場合は98日目)から、出産の日の翌日以後56日目までの範囲内で会社を休んだ期間について支給される。
1日あたりの支給額は、標準報酬月額(支給開始日以前12カ月間の平均)を30で割った額の3分の2。休んだ期間に給与の支払いがあった場合でも、給与が出産手当金の金額よりも少ない場合は、その差額が支給される。出産手当金よりも多い給与が支給されている場合は、出産手当金は支給されない。
◆出産育児一時金
1児につき42万円(産科医療保障制度加算対象出産でない場合は40万4,000円)が支給される。妊娠4カ月(85日)目以降の出産が支給対象となる。
国民健康保険に加入している場合や家族の扶養に入っている場合、出産手当金は支給されません。
一方で出産育児一時金については、自治体によって支給額が異なりますが、国民健康保険から支給されます。家族の扶養に入っている場合は、その被保険者に対して「家族出産育児一時金」が支給されることになります。
【雇用保険に加入している場合】
◆育児休業給付金
育児休業を取得した場合に支給される。ただし、育児休業開始前の2年の間、12カ月以上(※1)、保険に加入していることが必要。休業開始前賃金の67%(6カ月経過後は50%)が支給額となる。
育児休業期間中に就労して賃金が発生し、賃金と給付金を合わせると、休業開始前賃金の80%を超える場合は、超えた分が減額される。また、賃金だけで休業開始前賃金の80%を超える場合は、育児休業給付金自体が支給されない(※2)
(※1)賃金支払いの基礎となった日数が11日ある月を1カ月とする
(※2)就労した場合、1支給単位期間において、就労している日数が10日(10日を超える場合は、就労している時間が80時間)以下であることが必要
31日以上の雇用見込みがあり、1週間あたりの所定労働時間が20時間以上である場合、雇用保険に加入していると考えられるので、確かめてみましょう。
ちなみに、産前・産後休業中、育児休業中の健康保険・厚生年金保険の保険料は、勤め先から年金事務所または健康保険組合に申し出をすることで、本人負担分・会社負担分ともに免除されます。免除期間中も、保険料を支払ったものとして計算されるので、通常通り保険診療が受けられるほか、将来受け取る年金額にも反映されます。
雇用保険については、休業中に給与が支払われなければ、保険料が発生しません。
今の勤め先では前例がない! そんなとき、どうすればいい?
妊娠が分かったら、まずは上司に妊娠した旨と出産後も働くつもりでいることを早めに伝えておきましょう。特に、これまでパートの産休・育休の取得事例がない場合、勤め先でも調整が必要なことが通常以上に出てくるはずです。
妊娠初期には「まだ妊娠を公表したくない」という気持ちにもなるかもしれません。ただ、妊婦健診やつわりなどの体調不良で仕事を休むことが増える可能性も考えると、気持ちに無理のない範囲で、なるべく早く報告した方が双方の負担を軽減できます。
小さな規模の会社などでは、雇用主から産休・育休の取得を断られるケースもあるかもしれません。しかし雇用主には、妊娠・出産・育児休業等で従業員が不利益を被ることのないようにする義務があり、法律でも定められています。
本来あってはならないことですが、その事実を知らない場合もあるので、まずは産休・育休の取得が法律で守られた権利であることを伝えてみましょう。厚生労働省のホームページで制度が分かりやすくまとめられたパンフレットを見ることもできます。
どうしても勤め先の理解が得られない場合や、法律についてさらに詳しく知りたいときには、会社の所在地がある都道府県の労働局雇用環境・均等部(室)に問い合わせてみましょう。
現在、育児をしながらでも働きやすい職場環境をつくるために、法律も改正が重ねられています。自分自身の権利を守るために正しい知識をつけることはもちろん、雇用主や一緒に働く人たちに「これからも一緒に働きたい!」と思ってもらえるよう、目の前の仕事に誠実に向き合うことも大切にしたいですね。
※写真と本文は関係ありません
著者プロフィール
ラーゴムデザイン代表 長谷部敦子
ファイナンシャルプランナー、マスターライフオーガナイザー、メンタルオーガナイザー。父親の看取り介護、自身の結婚を通して、「心」と「お金」の整え方を知ることの必要性を感じ、学びを深める。2012年・2014年の出産を経て、2015年に「しなやかな生き方をデザインする」をコンセプトに起業。家計・起業・扶養などに関わるお金の悩みや、働きたい女性のメンタルについての相談・講師業を中心に活動。働く母の目線で、日々のくらしを快適にする仕組みづくりについての執筆も行っている。「生き方デザイン.com」