昨秋より配信が始まったApple Watch用の最新OS「watchOS 4」。そのwatchOS 4は、Appleの開発者カンファレンス「WWDC17」で、フィーチャーされる新機能が数多く紹介されたが、目玉のひとつ「GymKit」がこの度、日本でも利用できるようになった。
正確に言うと、「GymKit」が使えるのは「watchOS 4.2」以降。watchOS 4.2がインストールされていれば、Apple Watch全モデルで利用が可能となっている。
そもそも、Apple Watchは登場時からフィットネスに適した機能が搭載されていた。しかしながら、フィットネスマシンを使ったエクササイズでの利用シーンでは、ちょっと面倒なところがあったのだ。フィットネスマシンをスタートさせ、Apple Watchの「アクティビテイ」アプリ(またはアクティビテイと連携できるサードパーティのアプリ)を起動し、中断の際には、マシンを止め、アプリをポーズの状態にし、再開するには、マシンをもう一度動かし、アプリのポーズを解除し……といったようにマシンとApple Watchを行ったり来たりしなければならなかったのである。さらに、マシンが持ってるデータとApple Watchが持ってるデータがわずかに異なっている(ズレる)という問題もあった。また、マシンしか持っていない、反対にApple Watchしか持っていないデータというのも存在していたのである。
有酸素マシンとApple Watchの組み合わせでエクササイズというのが世界中で人気だということはAppleも把握していたが、そういった問題があるというのも分っていた。そこで、GymKitの開発が始まったというわけだ。過去2年、フィットネスマシンのメーカーとディスカッションを重ね、マシンとApple Watchの双方向での通信を実現。これにより、精度の高いワークアウトのデータが取得できるようになった。
Apple Watchに格納されている身長や体重、年齢や性別といったデータがマシンに送られ、消費カロリーがそれらの数字を元に算出され、同期する格好でApple Watchへとフィードバックされる。マシンとは他にも距離、速度、登った階数、傾斜、ペースなどが同期するようになっている。
Apple Watchとフィットネスマシンとのペアリングも簡単だ。マシンにApple Watchを翳すだけで完了する。それが済めば、ワークアウト終了まで、Apple Watchの画面を覗いたり、触ったりしなくても良い。勝手にデータを取得してくれ、アクティビテイに記録され、iPhoneの「ヘルスケア」アプリに格納されるのだ。ワークアウトを終えれば、マシンのデータはいなくなるが、iPhoneのほうには全ての情報が記録されるのである。
日本は、オーストラリア、米国、ヨーロッパ、中国、香港に続くローンチとなったわけだが、数あるフィットネスクラブの中で、先陣を切ったのが今回取材で伺ったANYTIME FITNESSだ。ANYTIME FITNESSは、米国発祥で現在、世界26カ国、3,800店舗以上で展開している業界最大手のグローバル・フィットネスクラブ・フランチャイズである。日本ではまず、東京渋谷区のANYTIME FITNESS 恵比寿店でサービス提供が始まったので、早速その様子を覗いてきた。
稲葉 GymKitようやく来たね。俺、この記事で、「この秋」って書いてたんだけど、冬越えて、春のローンチになっちゃった。
磯 ちょうど体を動かしたくなる時期だから、いいタイミングだと思う。外でアクティブに動けない花粉症の人には、特に朗報かも(笑)。
稲葉 そういう意味では、良いタイミング(笑)。WWDCで発表になったときは、この機能、watchOS 4の目玉になるんだろうなとは思ったけど。
磯 これまでにない新たな機器との連携ができる、という点では目玉だもんね。実際に連携できるフィットネスマシンがお目見えした、ということでワクワクさせる。
稲葉 確かにその感じあった。使ってみると、お、凄い簡単じゃん、便利じゃんって。
磯 そうそう、何より簡単なのがオオッと思った。これから運動するのに、コネクションとか面倒なことに気を遣いたくないもんね(笑)。1回のタッチで準備オッケー、はまさに理想的。
稲葉 マシンに最初、自分の身長だの体重だの入れなくても、すぐスタートできるからね。何回か試したけど、その際、ペアリングに失敗することないってのも、ストレスなくていいなと。作業が煩雑になったら、誰も使わないよな。
磯 イライラしたらもう使わないもんね。それと、うっかりタッチし忘れて始めちゃっても、気づいた時点でタッチすればよいのも気が利いてると感じた。頑張ったのに記録されないのは悲しいし(笑)。
稲葉 いや、そうなんだよ。後から同期とれるってのにはハッとした。しかも、それがほぼ、正確なデータとして残るってのも。
磯 そういう細やかな配慮がAppleらしい。
稲葉 大体さ、こういうのって、デバイス間の主従関係のもとに成立するって構造が多いじゃない。どっちかがご主人様で、それに奴隷として追従するっていうの。それが、デバイス同士が平等な関係で、相互の対話の元に実行されるって、すごいAppleっぽい発想だと思ったよ。
磯 デバイス同士が平等な関係か~。確かに。役割分担がハッキリしてるよね。Apple Watchの小さいディスプレイを何度も見るより、フィットネスマシンの大きなディスプレイ見てるほうが何をやってるのか把握しやすいし、見やすい。心拍数、フィットネスマシン側のデータじゃなくて、より正確にデータが取れるApple Watch側のデータを使うとかも、なかなか興味深かった。
稲葉 Apple Watchじゃないと持ってない個人のプロフィールのデータと、フィットネスマシンじゃないととれないデータが行き交っていうアイディアが素晴らしい。で、こういうフィットネスのデータもある種の個人情報なわけじゃん? それが外に漏れないって配慮されてるのも実にApple的。
磯 カラダの情報は、特に人には知られたくないものだもんね。ワークアウトの終了後、フィットネスマシンからデータがスッキリと消去される仕組みも信頼性高いと思う。
稲葉 そうそう、協業したっていうフィットネスマシンのメーカーも、ちゃんとそういった発想に共感して良い関係性が築けているんじゃないかと。そういう意味では、Appleがパートナーに選ぶ企業の基準って、以前から変わってないし、イーブンな関係で協業進めるって姿勢も同じ。やってることは同じで、アイディアを適用する対象が変わってるだけ。
磯 俺らがふだんからAppleに対して持っている「プライバシーは何よりもしっかり守るから安心して使える」といったイメージが、そのまんま維持されているのが頼もしいよね。使っているフィットネスマシンがApple製じゃなくても、あたかもApple製のものを使っているような大船に乗った感じで接することができるというか。
稲葉 これにさ、フィットネスクラブがどう関わってくるかが肝なんじゃないかなって。Apple Watchユーザーは会費3カ月無料とかやったらどうだろ? Apple Musicみたいに。
磯 あ~、それはぜひやってほしい! この便利さは体験しないと分かりづらいかもしれないもんね。3カ月は無理でも、3回ぐらいタダで体験させてほしい(笑)。
稲葉 GymKitもさ、例えば、ジムと連携して会費の支払いが簡単になる仕組みとか作ったらいいのにって。
磯 おお、それもいいね。フィットネスマシンにタッチしたらその月はApple IDのアカウントから支払いされて、一月の間に一度もタッチしなかったらその月の支払いはなし、とかできるといいかも。ズボラな人も安心(笑)。
稲葉 となれば、Appleとマシンのメーカー、ジムが三位一体になって、利用者にメリットもたらすって流れが美しいんじゃないかと。参画する企業もAppleのエコシステム入れば儲かる的な(笑)。
磯 いいねぇ~。ぜひそういうスマートな流れになってほしい。
日本のANYTIME FITNESSを運営するFast Fitness Japanの代表取締役社長 COO 土屋敦之氏は、日本で初めてGymKitを導入できることを最高に嬉しく思う、世界中のANYTIME FITNESSで、24時間いつでも利用できるのに加え、安心、安全、快適なフィットネスの環境を提供を目指すとコメント。ジムでもApple Watchが簡単に使えるようになるのは、会員にも喜んで貰えるだろうし、快適さをさらに高められるだろうという考えを示した。
また、GymKitに対応したフィットネスマシンの製造・販売を行うLifeFitnessのJaime Irick氏は、GymKitのテクノロジーが、世界中のフィットネス愛好家、フィットネスクラブ、そしてパートナーにとって、最高の成果を提供してくれるだろうと語る。LifeFitnessのマシンでは年間10億のワークアウトが行われているとのことだが、今後この多くがGymKitで利用されることになるだろうと続けた。Life Fitnessのマシンではトレッドミル、エリプティカル、インドアバイクやステッパーがGymKitに対応している。
前述した通り、GymKitはフィットネスマシンのメーカーとディスカッションを重ね、開発が進められてきた。Life Fitness以外にもTechnogym、MATRIXなどの大手メーカーの対応が明らかになっており、現時点で対応するマシンは実に市場の80%をカバーすることになるという。土屋氏が指摘するように、GymKit対応マシンの導入で、快適さが増すのは間違いないだろうし、Irick氏が述べたよう、利用者の拡大により、対応マシンを採用するクラブも併せて増加することも想像に難くない。iPhoneとApp Storeの関係に象徴されるように、Appleのエコシステムに入るとビジネスチャンスが生まれるという仕組みが出来上がってることから、今後はこのフィールドもいろいろとホットな話題で盛り上がっていくのではないだろうか。