ここ数年、酒類の消費量は横ばいを続けている。だが、平成5~6年ぐらいに大いに消費されたビールは低迷。酒類全体の消費量が横ばいなのは、チューハイといった酒類が市場を伸ばしているからだ。
大きな支持を得ていたビールが低迷している理由は何か。まずは先に挙げたチューハイや発泡酒といった酒類にシェアを奪われたことが大きい。ただ、それだけではない気がする。ビールのマンネリ化が、消費者離れを招いているのかもしれない。
どういうことかというと、アサヒなら「スーパードライ」、キリンなら「ラガー」か「一番搾り」、サッポロなら「黒ラベル」、サントリーなら「ザ・プレミアム・モルツ」といったブランドが強すぎるからだ。もちろん、こうしたブランドのなかで「これしか飲まない」という消費者もいるだろう。だが、わりと多くの人が「どれでもいい」と考えているのではないか。筆者の場合も、このあたりのブランドの缶ビールが数種類用意されていたら、わりと無作為に手に取ってしまう。
酒税法改正がクラフトビールの個性を生む
そんなマンネリ化に風穴を開けそうなのが、クラフトビールの存在だ。1990年代、いわゆる地ビールブームが起こったが、それがクラフトビールという呼ばれ方で再び注目されている。
大手ビールメーカーも、このクラフトビールをビジネスチャンスだと感じている。アサヒは独特のオブジェが目立つ本社ビルの隣に醸造所を建て、「TOKYO隅田川ブルーイング」というブランドを展開。キリンはクラフトビールが楽しめる「スプリングバレーブルワリー」という、醸造所を横浜、代官山、京都に持つ。この醸造所は横浜に上陸したノルウェーの醸造家が1870年に設立したもので、キリンビールの起源となった。サッポロ、サントリーもクラフトビールブランドを展開する。
クラフトビールというジャンルをいち早く用いたのはキリンだ。そのキリンがさらにクラフトビール戦略を加速するために、4月3日から「グランドキリン」ブランドで、3種類を投入する。
その背景には、4月の酒税法改正がある。まず、これまで麦芽比率が67%以上でなければビールとして定義されなく、それ以下は発泡酒とされた。改正後は麦芽50%以上がビールと定義され、果実や香味料を一定以下なら副原料として使用できるようになる。この果実や香味料といった副原料の使用がポイントで、これによりビールに個性を与えやすくなり、それがクラフトビールの多様化につながる。