先日、日本マイクロソフトのある担当者とビジネスインテリジェンスツールである「Power BI」に関する雑談をする機会があった。その中で「将来的にMicrosoft HoloLens(以下、HoloLens)やWindows Mixed Realityデバイスでも、ダッシュボードやレポートを目にする時代がくる」と説明された。同社の戦略を俯瞰すれば、その潮流を生み出そうとするのは当たり前の話であり、あくまでもその時点では1つのビジョンだと思っていた。
そこから数日後となる3月14日(米国日時)、MicrosoftはHoloLensに対応する「Power BI for Mixed Reality」のプレビュー版を公開した。公式ブログの説明によれば、HoloLensを装着したユーザーはスマートフォン版と同じく空間にある2次元コードをスキャンすると、空間にレポートが現れるという。
レポートはWindowsクラシックビューとホログラフィックビューの2種類を用意し、前者はエアタップなどのジェスチャー操作でビューを操作し、後者は音声コマンドに対応。「Follow me」と話しかければビューが自身の動きに追従し、「Dock」「Place here」と言えば、特定の位置にビューを分割して貼り付けられる。
例えば、業務用冷蔵庫など古い業務機器にセンサーを取り付け、収集したデータをPower BIで可視化。その結果を保守担当者がHoloLensを通じて目を通せば、問題や改善ポイントがその場で理解して対応可能になる。
本ソリューションが面白いのは、デバイスや設備に対する投資が抑えられる点だ。これまで可視化しにくい部分は、アナログ信号計測ユニットなどを用いた専用モジュールの作成や、特化したコーディングが必要だった。だが、Power BI for Mixed Reality(とHoloLens)があれば、ユニットやコーディングといった手間をなくし、アナログ領域のデジタル化が可能になる。
現時点では、Windowsクラッシックビューでクロスフィルタリングやハイライトが有効にならず、ダッシュボードやレポートの共有機能は未サポート。データ更新タイミングは45秒と多くの制限があるが、このあたりはGA(一般提供版)で解消し、今後のバージョンアップで改善を重ねていくだろう。
Microsoftは工場や建築現場、店頭の接客、医療、サービス業などに従事するファーストラインワーカーの業務管理やコミュニケーションハブを担うMicrosoft StaffHubをリリースし、労働人口28億人中の17億人に標的を合わせてきた。
日本マイクロソフト 執行役員 常務 デジタルトランスフォーメーション事業本部長 伊藤かつら氏は2017年11月のイベントで、「ビジネスの世界こそ複合現実が与えるインパクトは大きい」と述べている。
17億人のファーストラインワーカーにもリアルタイムコラボレーション環境を提供するため、スマートフォンやタブレットに続く新たなビジネスツールとしてHoloLensを自薦した。
伊藤氏の発言が直接Power BI for Mixed Realityと直結しているわけではないが、Microsoft/日本マイクロソフトは、インフォメーションワーカーに限っていたデジタル変革をファーストラインワーカーにまで拡大し、新たな市場の開拓へ踏み出そうとしているのは確かだ。
阿久津良和(Cactus)