一枚の紙に想いをのせて。JALは3月18日、「JAL折り紙ヒコーキ 全国大会 決勝大会」を大田区総合体育館(東京都大田区)で初めて開催した。全国大会は全国20カ所で開催された予選大会を経て実施され、小学生の部には計1,100人、中学生以上の部には計663人が参加し、折り紙ヒコーキを通じた空への夢を羽ばたかせた。
飛行機を作るという原体験
JALは次世代育成の取り組み「空育」宣言を2016年11月に発表し、子どもたちにもっと未来を感じてもらえるプログラムを新たにスタートした。その一環として「JAL折り紙ヒコーキ教室」を国内外で実施しているが、この折り紙ヒコーキの取り組み自体は2007年にパリ支店で行ったものが最初であり、2017年には10周年を迎えた。
JALの折り紙ヒコーキの取り組みは、1995年に設立された「日本折り紙ヒコーキ協会」(2013年に「折り紙ヒコーキ協会」に改名)の想いに共感して実施しているものであり、紙一枚で簡単に作れて広く世界に発信できる折り紙ヒコーキを通じて、空への夢と交流の輪を広げ、人・文化の積極的な交流を促進する場として取り組んでいる。
JALは折り紙ヒコーキ協会の指導のもとで認定指導員を養成し、各地で折り紙ヒコーキ教室を開催している。この取り組みはJALスタッフのボランティアで行われており、現在では認定指導員は約1,200人にも拡大したという。今回の大会も、折り紙ヒコーキ協会のスタッフとともに、JALスタッフの認定指導員たちが運営に当たった。
JALの大川順子代表取締役専務執行役員はこの全国大会が空への夢を育む場になることを願いながら、「自分で飛行機を作るという意味で、飛行機の開発や整備などをひとりで行うというものでもあります。今日は素晴らしい成績を残していただき、そして将来は飛行機に関わる仕事についてもらえたらうれしいです」と語った。
体育館の中を17.53秒、優雅に舞う
今回の大会は、滞空時間を競う競技で折り紙ヒコーキの技を競うというものであり、小学生の部と中学生以上の部を設け、北海道・東北・関東・中部・関西・中国・四国・九州・沖縄地区で予選会を実施し、3月18日に全国大会が行われた。全国大会には小学生の部と中学生以上の部でそれぞれ20人が出場し、準決勝と決勝を実施した。
準決勝はひとり3分以内に3投実施し、1投における滞空時間の長い上位4人が決勝に進出。決勝ではひとり5分以内に5投実施し、1投における滞空時間の長さを競った。全国大会には8歳から61歳の選手がそろい、出身地も北海道から沖縄まで様々。今までの折り紙ヒコーキ教室の取り組みの中で、すでに交流が生まれている選手もいるようだった。
使用する紙は折り紙ヒコーキ協会の認定競技用紙(A5サイズ)であり、折り紙ヒコーキは1枚の紙を折るだけで作ることが求められる。折り紙ヒコーキが手から離れた時点から床に着地するまでの飛行時間を競い、投げる際には助走や早歩きは禁止であり、投げる際の一連の動作で片足もしくは両足が地面から離れてはいけないというルールが設けられている。ちなみに、この認定競技用紙はサトウキビからできており、仮に落下の際に紛失しても自然への影響は少なくなるように考えられている。
折り紙ヒコーキ協会の戸田拓夫会長は、大学生の時に紙ヒコーキを始めてから約40年の"飛行経験"があり、室内滞空時間29.2秒という世界ギネス記録保持者でもある。「折り紙ヒコーキは折られた時から個性が出る。操縦ができない微妙なものだからこそ技が光る」と折り紙ヒコーキの趣を語る。
折り方には様々なパターンがあり、選手の中にはマイ折り紙ヒコーキの状態を保存するために専用ケースを持ち歩いている人もいた。"子どもの頃に遊んだ折り紙ヒコーキ"という認識は、いい意味で裏切られるものだろう。
「折り紙ヒコーキは練習すればうまくなる。折り紙ヒコーキの性能に加え、今日の気温や湿度、気流を読むことが求められる。それでも、勝負は時の運でもある」と戸田会長が話すように、全国大会で悔しい思いをした人もいたようだが、中には自己ベストを更新した人もいたようだった。
折り紙ヒコーキの感触を確かめ、微調整をしながら計測に向かう姿は真剣そのもの。会場では参加者の家族や友人、そして、運営スタッフからのエールが送られ、うまく気流にのって自由に羽ばたく折り紙ヒコーキをみんなで目で追い、一投一投に拍手が沸いた。
全国大会の結果、小学生の部は、1位岡本大夢さん(12歳)が14.75秒、2位小幡将也さん(11歳)が13.18秒、3位竹内登功多さん(11歳)が12.00秒となった。中学生以上の部は、1位岡田拓巳さん(15歳)が17.53秒、2位吉岡航希さん(16歳)が17.16秒、3位本間達志さん(59歳)が15.91秒という結果となった。
各部門の優勝者には賞状・トロフィー・金のスペースシャトル型紙ヒコーキ・JAL787モデルプレーン(1/100)とともに、来年の全国大会出場権が贈られた。トロフィーは折り紙ヒコーキ型になっているのもポイントだ。そして、2位には賞状・トロフィー・銀のスペースシャトル型紙ヒコーキ・JAL787モデルプレーン(1/200)が、3位には賞状・トロフィー・銅のスペースシャトル型紙ヒコーキ・JALデザインのしろたんがそれぞれ授与された。
2020年には世界大会を
会場では大会の他、折り紙ヒコーキ協会の認定指導員がよく飛ぶ折り紙ヒコーキを教えてくれる「折り紙ヒコーキ教室」のほか、JALのプロフェッショナルが仕事の内容や飛行機の秘密を教えてくれる「空育 JALお仕事講座」、パイロットやCAや整備士の服を着て記念撮影ができる「JAL KIDS' STUDIO」、子ども遊べる「JAL 世界地図的入れボードゲーム」が展開されていた。また、メモ帳や折り紙など折り紙ヒコーキのグッズ販売もあり、大会参加者以外の人も、ここで1日折り紙ヒコーキと空をテーマに遊べるイベントとなっていた。
会場では、戸田会長の室内滞空時間ギネス世界記録更新をかけた挑戦も行われた。この日はその歴史的瞬間に立ち会うことができなかったものの、戸田会長は記録を更新することで、挑戦者たちに背中を見せていく想いを示している。
全国大会は2018年大会を皮切りに今後も開催を予定しており、2019年大会では全国30カ所での予選会を目標としている。さらに、2020年には東京にて世界大会を予定しており、2017年11月にはすでに、タイ・香港・フィリピン・ベトナム・韓国の各国・地域予選通過者を対象に、沖縄でアジア大会が実施された。
戸田会長は全国大会を振り返り、「勝負は時の運ですが、努力をしたことが記録に出ていたと思いました」とコメント。大会冒頭に行われた選手入場の際、エリアのプラカードを掲げて入場する選手たちを見て、こみあげてくるものがあったという。これを世界大会に拡大できることが、一層楽しみになったと語った。
JALの紙ヒコーキの取り組みが始まって11年となった今、紙ヒコーキに魅せられてそのまま空に携わる仕事に従事するようになったという人もいるのかもしれない。一枚の紙で作られる折り紙ヒコーキは、構造こそ簡単ではあるものの、気流にのって優雅に飛行するその姿は、空への憧れを抱かせてくれるものだろう。