人間が運転する車と自動運転車の協調
自動運転車技術は急速に発展していますが、一方で人間が運転する車との共存は大きな課題です。全ての車が一斉に自動運転車に切り替われば交通システムのデザインも楽ですが、現実的に切り替えには長い期間を要するでしょう。つまり、自動運転車のための交通システムを設計する際には、人間の運転者にも理解可能であるものをつくる必要があるのです。
サイバー信号機ではこの理念のもと、人間の運転者にも直感的に理解可能なルールを採用しています。例えばサイバー信号機では、基本的に「一時的な交差点」を持つ車線を走る車に対して、交差点を優先的に利用して良い権利を与えます。優先権が与えられない車は、車載センサ情報と無線情報によって安全が確保されていると判断できた時に、始めて交差点に進入します。
このような「誰に優先権を与えるか」という問題に直面したとき、従来のコンピュータシステムではよく「First Come, First Served (FCFS; 早い者勝ち)」を採用することがありました。先に到着したものに優先権を与えれば、比較的平等なシステムとなるからです。しかし自動運転車のようなケースでは、安易に「早い者勝ち」のルールを適用すると危険な状況を招く可能性があります。自動車の到着時間だけでなく、速度や混雑状況・自動車の運転性能を考慮する必要があるからです。
信号が道路から消えるかもしれない
サイバー信号機をはじめとして、自動運転に関する技術は日進月歩、様々な技術が生まれています。多様な情報を地図情報に組み入れ、自動運転車のための新しい交通システム・ルールが策定できれば、道路上から交通信号機や道路標識が消え、博物館に過去の遺物として展示される未来もあるのかもしれません。
参考文献
[1] S. Aoki and R. Rajkumar, Dynamic Intersections and Self-Driving Vehicles, ACM/IEEE International Conference on Cyber-Physical Systems (ACM/IEEE ICCPS), 2018.
[2] S. Aoki and R. Rajkumar, A Merging Protocol for Self-Driving Vehicles, ACM/IEEE International Conference on Cyber-Physical Systems (ACM/IEEE ICCPS), 2017.
[3] A. Bhat, S. Aoki and R. Rajkumar, Tools and Methodologies for Autonomous Driving Systems, Proceedings of the IEEE, 2018.
著者プロフィール
青木俊介カーネギーメロン大学 計算機工学 PhD課程
東京大学情報理工学系研究科にて無線通信・ネットワークを専攻。日本学術振興会 特別研究員、中国・北京のマイクロソフトリサーチ・アジアを経て、2015年夏よりCarnegie Mellon大学 Real-Time and Multimedia Systems Laboratoryに所属。
自動運転車と無線通信を用いた、新たな交通システムの開発・研究に取り組んでいる。またワシントンDC、ピッツバーグをはじめとする北米の複数都市で、自動運転車の実証実験を行っている。
Twitterアカウント: @aoshun7