多くの女性が生理痛で苦しんだ経験を持っている。生理痛はとかく一括りにされてしまいがちだが、付随する症状やその痛みの程度も千差万別で個人差が出やすい。その耐え難い苦しみから逃れるため、婦人科を訪れる女性も少なくない。
痛みを我慢して仕事をしている女性もいるが、病的なほどに痛む場合はきちんと医療機関で受診してもらう必要がある。生理痛の中でも、とりわけ毎日の生活に支障が出かねないほどの痛みを伴うものを月経困難症と呼ぶが、その詳細を正しく理解していない女性もいるのではないだろうか。今回は、産婦人科専門医の船曳美也子医師に月経困難症について話をうかがった。
機能性月経困難症とは
月経になると女性の子宮は収縮し、はがれた子宮内膜が膣へ押し出される。この一連の流れを月経と呼び、子宮内膜がはがれる際に生じる痛みが生理痛へとつながる。
この際、月経に伴いさまざまな症状が現れる。「下腹痛」「骨盤痛」「腰痛」といった腹部周辺の痛みに加え、「悪心」「嘔吐」「下痢」といった消化器症状、さらには「不快感」「頭痛」「緊張感」なども出現する。これらの症状は月経の開始、または直前より出て、月経終了とともに治まる。
月経困難症とは、これらの一連の症状が薬を飲まないと生活に障害が出る程度に強い状態のことを指すと船曳医師は解説する。
「月経困難症には2つの種類があります。他に原因がなく、月経そのものが原因となっておこる『機能性月経困難症』と、ほかの病気が原因となって起こる『器質性月経困難症』です。他の病気とは、子宮内膜症や子宮腺筋症が多いですが、子宮筋腫、子宮奇形、性行為感染症に伴う骨盤癒着なども考えられます」
月経時には、月経血は子宮から膣に出てくる以外にも、子宮から卵管を通って腹腔内にも一部が流れ込んでくる。その流れ込んだ血液の刺激により、腸の動き(蠕動運動)が亢進するのだが、その動きが活発になりすぎると下痢になる。また、腸につながる胃も刺激され、吐き気や嘔吐といった痛み以外の症状も出てくる。他の原因を持たずにこういった症状が起こるのが、機能性月経困難症だ。
器質性月経困難症とは
一方の器質性月経困難症は、直接的な原因となる病気が存在するのが特徴。例えば、子宮の内側にしかないはずの子宮内膜が卵巣や腹膜など、子宮以外で増殖と剥離を繰り返す子宮内膜症は、月経困難症を伴いやすいと言われている。このケースでは直接の原因は子宮内膜症にあるため、器質性月経困難症に該当する。
「器質性月経困難症と通常の生理痛との違いは、年齢とともに次第に症状が強くなってくることです。症状として痛みがはっきりと出るにも関わらず、超音波検査ではわかりにくく、腹腔鏡手術で指摘されることもあります。また、卵巣の中にできる子宮内膜症の場合、無症状で超音波検査で初めてわかることもあります。他に子宮筋腫や子宮奇形、感染症による骨盤癒着も原因になります」
さらに子宮内膜症の患部が線維化して硬くなると、月経以外のときにも痛みが起きたり、性交痛が出たりする。月経時のあの耐え難い痛みが頻発するようになるなんて、想像すらしたくない女性が大半のはずだ。
定期的な有酸素運動や女性に多い冷えの改善は、つらい生理痛の緩和に有効な手段。それでも我慢できなければ、時には鎮痛剤や低用量ピルといった薬の力を借りてみるという選択肢もある。「許容できるはず」だった生理痛が加齢とともにつらくなっていくようだったら、一度婦人科を受診してみよう。
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取材協力: 船曳美也子(フナビキ・ミヤコ)
1983年 神戸大学文学部心理学科卒業、1991年 兵庫医科大学卒業。産婦人科専門医、生殖医療専門医。肥満医学会会員。医療法人オーク会勤務。不妊治療を中心に現場で多くの女性の悩みに耳を傾け、肥満による不妊と出産のリスク回避のために考案したオーク式ダイエットは一般的なダイエット法としても人気を高める。自らも2度目の結婚、43歳で妊娠、出産という経験を持つ。2014年、健康な女性の凍結卵子による妊娠に成功。出産に至ったのは国内初とされる。著書に、「婚活」「妊活」など女性の人生の描き方を提案する著書「女性の人生ゲームで勝つ方法」(2013年、主婦の友社)、女性の身体について正しい知識を知ってもらえるよう執筆した「あなたも知らない女のカラダ―希望を叶える性の話」(2017年、講談社)がある。En女医会にも所属している。
En女医会とは
150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加している会。さまざまな形でボランティア活動を行うことによって、女性の意識の向上と社会貢献の実現を目指している。会員が持つ医療知識や経験を活かして商品開発を行い、利益の一部を社会貢献に使用。また、健康や美容についてより良い情報を発信し、医療分野での啓発活動を積極的に行う。En女医会HPはこちら。