2008年に声優としてデビュー、2012年には歌手としてソロデビューも果たした原由実が、3月14日にリリースされるラストアルバム『YOU&ME』を最後にアーティスト活動の休止を発表。
そんな彼女に、アルバムリリースにあたってのインタビューを敢行。この決断に至るまでの詳しい話を聞くと、決して後ろ向きな理由ではなく、むしろ彼女が飛躍し続けているからこそ選ばれた道であることが感じられた。また、本稿ではあわせて今の彼女の気持ち、そしてこのアルバムへと込めた想いにも、余すことなく迫っている。
▼歌手活動を通して、度胸がついたように思います
――音楽活動にこのタイミングでひと区切りをつけようと思われた、きっかけのようなものはあったんでしょうか?
プロデューサーの濱田(智之)さんにお伝えしたのは1年ぐらい前だったんですけど、実は自分の中では、1年半から2年ぐらいずっと考えていたことだったんです。というのも、これまで演じることの多かった大人っぽい低音のキャラクター以外でのお芝居が増えたり、ナレーションのレギュラーも一昨年に初めてやらせていただいたりと、声優としての"初"がこの1~2年にたくさんありました。それで、「声優として、もっともっと新しいことに挑戦したいな」という気持ちが芽生え、この決断をしました。
――「両方やっていこう」という気持ちはなかったのでしょうか?
歌手活動やライブって得られるものもたくさんあるんですけど、体力面など、いろいろな部分で消耗するものもあります。この業界では両立されている方々もたくさんいらっしゃるんですけど、私の場合は両方に120%を注ぐのは難しいかな、というのをここ1~2年で考えていたんですよね。
――たしかに、フィールドを広げられていくと、幅が広がった分、物理的に全部をやろうとするのは難しいですよね。
まさしくそうなんです。「自分は声の仕事を目指して東京に出てきて、いまはさらに声の仕事のほうをもっと広げていきたい」とやりたいことが昔よりもさらに明確になってきています。今後は先ほど言ったような新しいことに挑戦しつつ、声優業をもっと極めていけたら……と思ったんです。
――その声優業に、音楽活動はいい影響を与えてきましたか?
まず、度胸はついた気はします。いまでもそうなんですけど、一カ月以上前からそわそわし始めるぐらい、私の中でソロライブって勇気がいることなんですよ。キャラソンの場合ってライブがあったとしても、多くてひとり10曲弱ぐらい。でもソロライブだとひとりで2時間以上歌をうたうので、その分度胸はついたと思っています。あとは、ライブを重ねるごとに声も枯れづらくなりました。
――心身ともに強くなった部分があるというか。
本当にそうだと思います。あとは、ライブやレコーディングといった大切な日へのピークの持っていき方も前よりは考えるようになって、いろいろ取り組むようになりました。声の配分を意識し始めたり、「どういうケアをしていこう?」とか「どういうケア用品を持っていこう?」と考えたりとか。ソロライブをするようになってから、だいぶグッズも増えました(笑)。たとえば台湾ののど飴の中でも効くと評判のものとか、台湾のハチミツを使うようになったり、コンパクト型の吸入器を持って行くようになったり……。あとは、ボイトレの先生から「当日ちょっと腹筋をするといい」というのを教えていただいて、取り入れています。
――そうやって活動されてきたなかで、シンガーとしての成長を感じる部分はありますか?
そうですね。最初は与えていただいた曲を一生懸命表現するという、それまでキャラソンでやってきたことしかできなかったんですよ。でもそれがだんだん、「こういう曲を歌ってみたいです」という意見が出るようになってきました。あと、レコーディングのときに「この楽曲は、こういう表現をしたい」というビジョンがより明確にもなってきて、「自分の歌声は、製品としてOKラインに到達しているのか?」というものも見えてくるようになりましたね。そこに到達できてないなと感じたときは、もうちょっと挑戦させてもらうこともあります。
――レコーディングのほか、ライブ活動でも成長を感じたり、印象に残ったりした出来事はありましたか?
毎回、楽器の弾き語りにチャレンジしたことですね。普通に歌をうたうだけじゃなくてチャレンジをしたいなとすごく思っていたんですよ。なので、もともと譜面を読めなければ楽器を経験したこともなかったんです。最初にギターをやって、あとはピアノもやって、ベースをやって、ドラムやって……。
――ドラムまで!?
はい。譜面が読めないので、ギターやベースでは「何弦の何番目」っていうのを自作で順番に書いていました。ドラムでは歌詞をぶわっと書いて、「ここの歌詞のときに、これを叩く」みたいな自分専用の譜面を……譜面と呼べるものでもないかもしれないですけど、作って挑戦していました。
▼バラード寄りの新曲2曲は、最後には前を向いた曲に
――では、続いてアルバム『YOU&ME』についてお聞かせください。今回のアルバムは結構ポップめな曲が多いものになりました。これは、原さんの好みも反映されてのものなのでしょうか?
そうですね。私は明るめの楽曲がすごく好きなんです。お姉さんっぽいキャラクターを演じさせていただくことが多いので、キャラソンもしっとりめな曲を歌わせていただく機会が多いんですよ。その反動というわけでもないんですけど(笑)。積極的に望んでいたような感じがしますね。
――その新曲のうち、まずタイアップのついている新曲2曲についてお聞きします。そのうち「いばらの灯々」はTVアニメ『剣王朝』のEDテーマになっています。
実は、EDテーマを歌わせていただくと決まる前に、キャストとして出演させていただくことが先に決まっていました。なので、オーディションのときに作品資料をいただいていたこもあって、すんなりと曲に入ることができました。『剣王朝』は戦いがメインのお話なんですけど、この曲は戦いの真っ最中というよりは、戦いの合間の、流れる穏やかな時間のことについて歌っています。そして、これから運命に立ち向かっていこうと前向きに進んでいく、といった歌詞なんです。
――この曲も一見切なめでもありつつ、おっしゃったように最後には前を向いている曲だと思うので、アルバム全体の空気にも合う印象がありました。
そうですね。私自身、本当にこの曲がお気に入りです。「いばらの灯々」は、「聴いた人が『あぁ、素敵!』と思うようなパワーを持ってるな」と、最初に聴いたときに思ったんですよ。特にDメロがお気に入りなんです。作詞のワラビサコさんの歌詞は今までも何度か歌わせていただいているんですけど、ここに"いばらの灯々 いばらの灯々」"ってタイトルを持ってきて繰り返すというのが「なんか独特だな」と思って、印象的でしたね。
――そしてもう1曲「夕凪」は、より切なげな感じです。
この曲は『ピースオブマッドシティ』という映画の主題歌で、"ヤンキー映画"だというワードだけ聞いた状況でのレコーディングだったんですよ。だから、ジャンルと楽曲とのギャップをすごく感じたので、作品にどうハマっていくのかを楽しみにしています。
――では、楽曲自体からはどんなイメージが湧きましたか?
なにか不思議な……心に何かを残すといいますか。でもヤンキー映画ってそういうイメージがあります。観終わったあと、心に刻む何かがあって、心がきゅっとなる感じがイメージがある。この楽曲も、聴き終わったあとに心がちょっときゅっとなる感じがあるんですよ。でも「夕凪」も、最終的には「いろんな想いがあるけど、前に進んでいこう」っていう楽曲なので、そのあたりも考えながら歌った曲ではあります。
――原さんの歌声からは、包み込んでくれるようなイメージを受けました。
ありがとうございます。やっぱりこういった楽曲だと、曲に対して浮かずにスーッと皆さんを包み込めるように歌えたらなとは思っていたので、そう言っていただけてうれしいです。