米労働省が3月9日に発表した2月雇用統計の主な結果は、(1) 非農業部門雇用者数31.3万人増、(2) 失業率4.1%、(3) 平均時給26.75ドル(前月比0.1%増、前年比2.6%増)という内容であった。
(1) 2月の非農業部門雇用者数は前月比31.3万人増と2016年7月以来の高水準を記録。市場予想の20.5万人増を大きく上回った。建設業をはじめ、小売り業や金融業など幅広い業種で雇用が増加しており、改めて米経済の堅調さを裏付ける結果となった。米国の雇用情勢をより正確に表す3カ月平均の雇用者数増加幅は、前々月と前月分が合計5.4万人上方修正された事もあって、24.2万人に拡大した。
(2) 2月の失業率は4.1%と市場予想の4.0%には届かなかったが、2000年12月以来の低水準を5カ月連続で維持した。労働参加率が前月の62.7%から63.0%に上昇しており、職探しをあきらめていた人々が、雇用環境が改善する中で労働市場に復帰したと見られる。雇用者の大幅増加にもかかわらず失業率が低下しなかったのは、求職者の増加が理由のようだ。
(3) 2月の平均時給は26.75ドルと前月から0.04ドルの増加にとどまった。伸び率は前月比+0.1%、前年比+2.6%と前月(+0.3%、+2.8%)から鈍化して市場予想(+0.2%、+2.8%)も下回った。結果的に、前月の大幅な賃金上昇は一時的なものであり、インフレ高進に繋がるほどの賃金上昇圧力は依然として生じていないという事になる。
米2月雇用統計では、雇用者が大幅に増えるとともに雇用市場の裾野が拡大している様子が示された。一方で、そうした雇用の拡大が持続的な賃金上昇に繋がっていない事も読み取れた。景気は良好でもインフレ圧力は高まらず、という「適温経済」が続いているとの見方が広がる中、前月の雇用統計で高まった米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げペースアップ観測は沈静化している。
米2月雇用統計発表後の市場では、ナスダック総合指数が1カ月半ぶりに史上最高値を更新するなど米国株が大きく上昇した一方、ドルや米国債には大きな動きは見られなかった。
執筆者プロフィール : 神田 卓也(かんだ たくや)
株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役調査部長。1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信(デイリーレポート『外為トゥデイ』など)を主業務とする傍ら、相場動向などについて、WEB・新聞・雑誌・テレビ等にコメントを発信。Twitterアカウント:@kandaTakuya