2018年以降、スカイマークやスターフライヤー、ソラシドエアなどのハイブリッドの位置づけにある新興航空会社が国際線を路線図に追加する。その一方で、バニラエアの福岡=台北線や、アジア各国に同族ブランドがあるジェットスター・ジャパンやエアアジアジャパンの今後も気になるところである。そこで今回、国際線をテーマにして国内LCC・ハイブリッドの現状と戦略を考察してみたい。
バニラとSFJとANAの関係は
バニラエアは3月25日からの夏ダイヤより、福岡=台北線を就航させる。2016年9月に就航した台北=ホーチミン線の撤退、成田=香港線の減便による生産力の活用だが、その先が台北であるところに、バニラエアの悩みがうかがえる。
撤退した台北=ホーチミン線に関しては、当初から第5の自由(以遠権)を使った路線の選択と、両側の第三国での販売活動(日本人が関与しない路線でどこまでバニラエアが知名度を持ち、旅行会社に浸透できるか)には不安があるとされていた。
さらにこの路線には、ベトナム航空、ベトジェット、タイガーエア台湾、エバー航空、チャイナエアラインと、競合プレイヤーも多く、また、コネクティビティ(乗り継ぎ利便)を考慮しても、本来のバニラエアの地盤である東京(成田)=ベトナム線での競争力を持つことが難しかった。その意味では果敢なチャレンジではあったが、撤退は自然な帰結であったと言える。
台北=福岡線について言えば、台湾はバニラエアが先行して現地需要を開拓し、ある意味ホームグラウンドとも言える場所での新規展開なので納得できる部分は多いが、いくつかの点でスッキリ理解できないところは残る。
まず、福岡=台北線は同じANAグループであるスターフライヤー(SFJ)が2018年度下期から就航を予定している路線であり、ある意味、「バニラが頭ハネした」状態にあることだ。SFJは下期から国際線展開の拠点として台北を選び、福岡・北九州・中部からの就航を年初から公表していた。
福岡県としても、朝早い時間に福岡を発つアジア国際線は最も地元住民の旅行利便にかなうもので、午前の厳しいスロットを地元エアラインのために準備していた。そのため、福岡に路線を持たないバニラエアの同時間帯での福岡=台北線参入には、地元としては戸惑いもあったと思われる。
また、ANAホールディングスによるグループ間の調整がなされた形跡がないことを見ると、100%子会社であるバニラエア自身の意向が優先された結果と見ることができる。今後のANA支配子会社と持分法適用などの関連会社への事業方針のあり方を示唆するものとして、興味深い事例にはなったのかもしれない。
とはいえ、台湾はアジアの中でも最も競争の激しいところであり、国内外の業界関係者からは口をそろえて「台湾路線でもうけるのはもはや困難」と言われているのが現実だ。福岡からのアウトバウンドは、当初は地元代理店の頑張りが期待できるものの、今やアジア路線の需要主体はインバウンドだ。日本好きとはいえ、台湾の人々が選ぶ日本の旅行先は今や20地点以上もある。
民営化される空港を含め、ますます台湾・香港・タイ等から日本へのインバウンド旅客の争奪・誘致合戦はヒートアップするだろうが、「アジアのヘビーユーザーを惹きつける旅行コンテンツ」のない地域・空港は、早晩淘汰されていくと思われる。その意味では、日本のLCC・ハイブリッド各社が今後拡大・発展の活路を見出そうとするアジア新路線展開には、多くの試練が待ち受けていると言わざるを得ないだろう。
アジアでのブランディングが命運を分ける
今後日本のハイブリッド各社は、現在の地盤である羽田路線の将来拡大が見込めないことから、アジア地域への国際展開を成長戦略の重要要素に置いている。その意味では、SFJの台湾展開は各社の将来を占うひとつの試金石になろう。
SFJが計画している台北3路線の内、もともと北九州=台北線はデイリー需要としては厳しいと見られるし、中部=台北線も名古屋の基礎需要の限界や時を同じくして同路線への参入を計画しているエアアジア・ジャパンとの競合の行方により、事業の成功には予断を許さないものがある。福岡においても、座席仕様の優位性をどれだけ販売価格に反映できるかがSFJの国際線展開の肝となる。
ハイブリッド各社はLCC座席の狭さを我慢できる区間より、5時間レベル以上の中距離路線でこそ勝負できると思われる。また、価格勝負になる旅行商品での販売がまだ主力を占めるアジア路線がフィールドだ。今後の行方は、どれだけ早く自社ブランド・クオリティの優位を外地個札販売で浸透させ得るかにかかってくるだろう。
日本でのツアー系の商品販売においては、まずはOTAやメタサーチを活用した安さの比較から入るネット購買活動の下地ができ上がっている。外国でのインバウンド販売もそうだが、売れ筋ツアー商品を購入するのに、座席の快適性や乗り継ぎによる所要時間の長さは二次的な選択基準でしかない。
そんな中で、東京・大阪を行き先にして価格勝負のできるLCCに対し、地方空港行き路線で勝負するしかないハイブリッド各社が内外との競争を勝ち抜くには、月並みだが旅行商品とエアラインサービスの特性・優位性をアピールしていくしかない。とはいえ、アジア各国の人々の日本の観光資源に対する目も肥えてきており、中途半端な告知戦略では地方路線を成功させるのが難しくなってきている現実もある。
ハイブリッド各社の中では、ソラシドエアも2019年度からの国際定期便に向けてチャーター便の強化を掲げているが、現実のチャーター運航はなかなか進んでいないし、エアドゥもまずは乗員生産力の確保が先決という状況だ。スカイマークも当然、国際展開を視野に入れるが、株式再上場の出口を抜けることが先決である。こうして見ると、ハイブリッド各社の国際線進出はこれからまだ試行錯誤が続く状況だと言えよう。
一方、国内のLCCはどうだろうか。続いては、ジェットスター・ジャパンやエアアジア・ジャパン、ピーチ・アビエーション、春秋航空日本の戦略を見てみよう。