女性が妊娠・出産をするため、生理は必要不可欠な現象だ。ただ、生理の前後は下腹部痛や頭痛、イライラなどの症状が伴い、女性にとってはつらい時期でもある。
とりわけ、生理痛に悩んでいる女性も多く、その痛みには個人差があるものの日常生活や仕事に多大な影響を及ぼすケースもあることだろう。そのつらさを踏まえ、労働基準法でも「生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない」と記されている。
法律で「生理休暇」が認められているとはいえ、毎月のように会社を休むとなると、気が引けてしまう女性もいるかもしれない。職場の人数が限られているようだったら、なおのこと遠慮してしまうケースも想定される。
そこで今回、産婦人科専門医の船曳美也子医師につらい生理痛を緩和する方法をうかがった。
生理痛のメカニズム
生理痛は、子宮の内膜がはがれることが原因で生じる。生理時はまず、子宮の内膜をつくる細い血管が収縮し、はがれようとする。その後に子宮が収縮し、はがれた内膜を膣へ押し出す。これが生理(月経血)だ。
「生理時、月経血は子宮から膣に出てくる以外にも、子宮から卵管を通って腹腔内にも一部流れ込みます。その流れ込んだ血液の刺激により、腸の動きが亢進します。動きすぎると下痢になったり、腸に続く胃も刺激されて、吐き気や嘔吐といった痛み以外の症状が出たりします」
痛みがひどい人になるとベッドから出られなかったり、立っているだけで耐え難い痛みにさいなまれたりする。痛みの程度は個々人で異なるが、その理由としては以下の点が挙げられると船曳医師は指摘する。
(1)プロスタグランディン量
生理痛の直接の原因は、子宮内膜が血管や子宮を収縮させるために出す物質「プロスタグランディン」にある。この痛み物質の量に個人差があるため、同じ生理でも痛みを感じる程度に差が出てくる。
(2)子宮の収縮度合い
子宮は収縮してはがれた内膜を膣に押し出すが、この収縮度合いにも個人差がある。さらに収縮を痛みとして知覚するか否かにも、個人差があるという。つまり、ある一定の収縮度合いを「痛い」と感じる女性もいれば、そう感じない女性もいるということだ。
(3)子宮の入り口の性質
子宮の入り口が「小さい or 大きい」「硬い or 軟らかい」といったことも痛みの個人差の原因になる。出産経験があると、痛みは軽減しやすくなるという。
生理痛を緩和させるためにできること
つらい生理痛に襲われたら、多くの女性はこれまでの経験則などに基づき、さまざまな対処をしていることだろう。ただ、大事なプレゼンテーションの日や意中の人とのデートなど、「今すぐこの痛みを緩和させたい」というシチュエーションに遭遇することも往々にあるはずだ。そのような際は、無理をせずに薬を効果的に活用するのも手だ。
「痛みを感じやすい人には、プロスタグランディンの産生を抑える、いわゆる鎮痛剤が効果的です。痛みを我慢して、我慢できなくなったら飲むという方も多いですが、痛みを感じたら早めに飲むほうが効果的です。痛み物質が産生されてしまってから飲むより、産生される前に飲むほうが効くからです」
そのほか、子宮が収縮しすぎると痛みを強く感じるため、子宮の血流をよくするために有酸素運動をしたり、41~42度のお湯で15分の足浴をして冷えを改善したりするのも有効な手段となる。
生理に伴う頭痛は、女性ホルモンによる血管拡張痛のこともあるため、その場合は痛み止めを服用した方がベター。不安は一層痛みを感じやすくするため、ストレス発散も痛み緩和に寄与することを覚えておきたい。
さらに、高い避妊効果として知られるピルを用いるという選択肢もあると船曳医師は解説する。
「低用量ピルを内服すると月経量が減り、症状が改善するケースが多いです。また、月経血の腹腔内への逆流は子宮内膜症の原因になることもあるので、内膜症予防の意味からも、ピルは勧められます」
ひどい生理痛を放置しておくと不妊につながる恐れ
痛みには個人差がある生理痛だが、日常生活に支障が出るほどの痛みが毎回のように襲ってくる場合は、何らかの疾患が原因となっている可能性も否定できない。
船曳医師も「子宮内膜症、子宮筋腫、子宮奇形、感染症既往といった、生理痛の原因になるものがあるかどうかは、症状だけでは区別できないので、病院で検査しないとわかりません」と警鐘を鳴らす。
例えば、経血量が異常に多い過多月経に悩む女性は、子宮筋腫を合併している恐れがあるし、毎月のようにひどく痛む場合、子宮奇形の可能性も考えられるという。無症状のケースもあるが、おりものが多い場合は、感染症による骨盤内癒着を起こしているリスクも想定される。
「最も頻度が多いのは、子宮内膜症と子宮腺筋症です。症状は『月経時の下腹痛』や『性交時の子宮部分の痛み』です。年々痛みがひどくなったり、月経量が非常に多かったりする場合は、一度早めに診察をうけたほうがよいでしょう」
子宮の内側にしかないはずの子宮内膜が卵巣や腹膜など、子宮以外で増殖と剥離を繰り返す子宮内膜症は、不妊の原因にもなりうる。子宮内膜の組織が子宮の筋肉層(子宮筋層)に入り込み、それが増殖して起こる子宮腺筋症も不妊につながりかねない。
生理痛を我慢して子どもを授かれない体になってしまう事態は、多くの女性が避けたいはず。本稿で紹介した鎮痛剤や低用量ピルも痛みを緩和させるために効果的ではあるが、対症療法であることに変わりない。
痛みの程度が増していったり、月経量やおりものの量が急激に増えたりした場合は、仕事や家事で無理をせず、まずはきちんと病院で診てもらうようにしてほしい。
※写真と本文は関係ありません
取材協力: 船曳美也子(フナビキ・ミヤコ)
1983年 神戸大学文学部心理学科卒業、1991年 兵庫医科大学卒業。産婦人科専門医、生殖医療専門医。肥満医学会会員。医療法人オーク会勤務。不妊治療を中心に現場で多くの女性の悩みに耳を傾け、肥満による不妊と出産のリスク回避のために考案したオーク式ダイエットは一般的なダイエット法としても人気を高める。自らも2度目の結婚、43歳で妊娠、出産という経験を持つ。2014年、健康な女性の凍結卵子による妊娠に成功。出産に至ったのは国内初とされる。著書に、「婚活」「妊活」など女性の人生の描き方を提案する著書「女性の人生ゲームで勝つ方法」(2013年、主婦の友社)、女性の身体について正しい知識を知ってもらえるよう執筆した「あなたも知らない女のカラダ―希望を叶える性の話」(2017年、講談社)がある。En女医会にも所属している。
En女医会とは
150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加している会。さまざまな形でボランティア活動を行うことによって、女性の意識の向上と社会貢献の実現を目指している。会員が持つ医療知識や経験を活かして商品開発を行い、利益の一部を社会貢献に使用。また、健康や美容についてより良い情報を発信し、医療分野での啓発活動を積極的に行う。En女医会HPはこちら。