今年に入って上昇基調を強めていた米長期金利(10年物国債利回り)は3%を目前に足踏み状態にある(3月1日現在)。市場では、3%を超えてさらに上昇するとの見方と、そろそろ頭打ちになるとの見方に真っ二つに分かれている。

FRB(連邦準備制度理事会)が利上げを継続すると予想されるなかで、長期金利の先行きに関して、需給要因が大きな鍵を握るかもしれない。2月16日付け投稿「米国の長期金利上昇の帰結とは?」で、供給サイドの要因として財政赤字の拡大(≒国債発行額の増加)を指摘した。本稿では、需要サイドの要因を確認してみたい。

FRBの資金循環表によれば(下表参照)、2013年は米国債発行額8,000億ドルのうち、7割近い5,400億ドルをFRBが購入した。14年は同6,500億ドルのうち、4割近い2,500億ドルをやはりFRBが購入した。いうまでもなく、FRBがQE(量的緩和)を実施していたからだ。 その2年間に(米国からみた)外国人もFRBに近い額の米国債を購入した。2011年のギリシャ・ショックに端を発した欧州債務危機が依然として燻(くすぶ)るなかで、欧州の国債から米国債へ資金をシフトする動きが活発だった可能性がある。

2014年10月にQEが終了したことで、15年以降はFRBの米国債購入は微々たるものとなった。15-16年に、FRBや外国人に代わって米国債を購入したのは、主にMMMFや投信、各種ファンドなどの米国内の投資家だった。15年12月と16年12月に2度の利上げはあったものの、短期金利は限りなくゼロに近く、「利回り」を求めて米国債への投資が増えたためだろう。

2017年(9月まで)は、前年に売却超過だった外国人が再び大幅な購入に転じた。このうちかなりの部分が中国によるものだった。17年は久々に人民元高が進行しており、中国当局が人民元売り米ドル買いで元高のスピードを調整していた可能性がある。同じタイミングで、2014年をピークに減少傾向だった中国の外貨準備は増加に転じている。

もっとも、米財務省の統計によれば、中国の米国債購入は17年夏以降に激減。米国債保有残高で中国に次ぐ僅差の世界2位の日本も、17年8-12月は米国債の売却超過だった。どちらが原因でどちらが結果かは判然としないものの、17年9月以降の米長期金利の反転上昇と、中国や日本という主要な「外国人」の米国債投資の減少は機を一にしていたと言える。

トランプ大統領の予算教書によれば、2018年(厳密には年度)の米財政赤字は8,700億ドルへの拡大が予想されている。また、FRBは保有する米国債を2500億ドル程度減らす見通しだ。合わせて1.1兆ドルの米国債が市場に放出されるとの計算が成り立つ。これは2017年(見込み)の約2倍だ。それを外国人と米国内民間が購入することになりそうだ(上表参照)。

2018年に入ってからの米国債の購入状況に関するデータはまだほとんどない。ただ、そうした中でも、「中国は米国債投資を見直す方向」との報道が出てきた。中国当局はこれを否定したものの、外貨準備に占める米ドル(≒米国債)のウェイトを下げるとしても不思議ではない。

また、日本の財務省統計に基づけば、今年1-2月の日本の対外債券投資は売却超過だった模様。国別の詳細は分からないが、日本の投資家が米国債だけは大量に購入しているということはないだろう。

もちろん、米国債は、その安全性や流動性の高さを考えれば、必ず誰かが購入する。問題はどの価格水準(=金利水準)かという点だ。当たり前のことだが、人気がなければ価格は低下(=金利は上昇)する。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。