名古屋のご当地グルメ、いわゆる"名古屋メシ"。味噌煮込みうどん、味噌カツ、手羽先、ひつまぶし、台湾ラーメンなど、全国的に知られる料理は数あれど、まだあまり他地方の人には知られていない"隠れ名古屋メシ"がいくつかある。その一つが「味噌とんちゃん」だ。

  • 「とんちゃんや ふじ」のとんちゃんは、味噌と塩がありそれぞれ一皿250円

    「とんちゃんや ふじ」のとんちゃん。味噌と塩がありそれぞれ一皿250円

豚ホルモンを赤味噌で味付ける「とんちゃん」

名古屋らしさ、ヤミツキ度とともに強力な一品「味噌とんちゃん」。名古屋では一般的に「とんちゃん」と呼ばれる、豚のホルモン焼肉だ。ホルモンの焼肉というと全国的には牛が主流だが、名古屋では豚が使われることが多く、しかも名古屋ならではの豆味噌(赤味噌ともいう)で味付ける。

名古屋の下町ではこれをメインにした昔ながらの焼肉店がしばしば見受けられ、「とんちゃん」と書かれた赤ちょうちんが下がっているため、店名と勘違いされるというのもディープな"名古屋あるある"だ。

幻の名店の味を受け継ぐ大人気店「とんちゃんや ふじ」

この味噌とんちゃんの大人気店が大須の「とんちゃんや ふじ」。裏通りにある小さな店だが、開店前から行列ができることも珍しくない。食欲をそそる香りが店の外にまで漂い、のれんをくぐると店内はもやがかかったように煙が立ち込めている。

焼肉メニューはすべて豚肉で、店名に掲げる通りメインはとんちゃん。網の上にどさっとのせたあと、味噌のいい香りが漂ってきて適度な焦げ目がついたら食べごろ。

  • とんちゃんや ふじ

    店内の様子。きも400円、みの400円、ブタカルビ500円などメニューはどれも庶民派価格で楽しめる

新鮮なホルモンはぷりぷりした食感の中にもギュッと噛み応えがあり、味噌の濃厚な甘辛さがじゅわっと広がる。赤唐辛子をふりかけるとピリッとした辛味がアクセントとなり、味噌ダレのまろやかさがいっそう引き立つ。味噌のほかに塩味もあるので、食べ比べるのがお薦めだ。

20席余りの店はもともと喫茶店。かつてすぐ近くにあったとんちゃんの名店「おかちゃん」が店じまいした後の2001年に店主から秘伝のタレを伝授してもらい、味を引き継いだ。外国人旅行者も数多く訪れる大人気商店街となった大須において、今も下町情緒を感じられる一軒だ。

  • とんちゃんや ふじ

    場所は大須観音の山門前から延びる仁王門通りの一本南

●Information
「とんちゃんや ふじ」
住所: 名古屋市中区大須2-29-27
アクセス: 地下鉄大須観音駅より徒歩5分
営業時間: 16時50分~21時50分(L.O 21時20分)
定休日: 水曜日

地元チェーン「やぶ屋」のとんちゃんは、七輪焼きで香ばしさ満点

おそらく名古屋で最も食べられているとんちゃんが、「やぶ屋」のとんちゃんだ。1994年に創業し、とんちゃんをメインとした居酒屋を10店舗以上展開している。七輪で焼く本格的なとんちゃんを目玉にすえ、なおかつチェーンらしく、誰でも入りやすいカジュアルさを合わせ持つ。

  • やぶ屋の「みそとんちゃん MIX」(600円)

    「みそとんちゃん MIX」(600円)。塩もあり。味噌:塩の注文比率は3:1とのこと。七輪で自分で焼くスタイルも楽しい

味付けは、八丁味噌ベースのオリジナルのタレ。様々な調味料をブレンドして作っているため、甘辛さの中に複雑な奥行きがある。注文を受けてからタレをホルモンにからめるため、ホルモンそのものの鮮度の良さも実感できる。

七輪で焼くので、味噌が焦げる香ばしさが広がり、なおかつ燻した香りが鼻腔をくすぐる。ミノ、レバー、ハツなど様々な部位が入ったMIXを注文すれば、それぞれの食感の違いも楽しめる。

  • 「やぶ屋」

    写真は今池本店。名古屋市内では大須店、錦三店、大曽根店、名駅西店、名駅3丁目店、別ブランドの尾毛多セコ代(名駅・柳橋市場)、OTONA NO YABUYA(同)がある

居酒屋ということもあり、鮮魚メニューなど料理の種類は豊富。さらには今池本店、名駅西店、名駅3丁目店は24時間営業と利用法も幅広い。〆のとんちゃん、ちょい飲み+とんちゃんなど、気分に合わせてとんちゃんを味わいたい。

  • 「やぶ屋 今池本店」

    今池本店は120席の大型店。宴会場やペット同伴可能のテラス席もある

●Information
「やぶ屋 今池本店」
住所: 名古屋市千種区今池5-10-11
アクセス: 地下鉄今池駅より徒歩1分
営業時間: 24時間(月曜日の6~18時のみ休)
定休日: 無休

鉄板で焼く屋台発祥のとんちゃん「似和多」

とんちゃんには、店によって網で焼くタイプのほかに鉄板で焼くタイプもある。名古屋駅からほど近い、駅前横丁内の「似和多」(いわた)は後者。調理法も独特で、ホルモンと野菜を鉄板で炒めてから味噌ダレをからめる。

  • 似和多の「とんちゃん」(600円)

    「とんちゃん」(600円)。単品でも注文できるが、ビール生中とのセット900円がお得

「昭和30年頃に広小路通りで屋台を始めた母が、その後、栄生(さこう=名古屋駅の西北のエリア)に移ってから覚えた作り方なの。栄生周辺の中村区、西区あたり特有の作り方だと聞いています」と女将さん。

  • 似和多の女将さん

    2代目の女将さんが1人で切り盛りする。鉄板を囲んで10席のアットホームな雰囲気

味噌ダレは愛知県産の豆味噌を使用し、ニンニクやみりんなどを配合してある。ずっしり濃厚なうまみがホルモンと野菜に一体感をもたらしている。ビールに合うのはもちろんだが、まろやかなコクがあるためうま口の日本酒とも意外と相性がいい。

●Information
「似和多」
住所: 名古屋市中村区名駅4-22-8 駅前横丁ビル1階
アクセス: JR・名鉄・近鉄・地下鉄名古屋駅より徒歩5分
営業時間: 18~24時(L.O 23時半)
定休日: 土日祝日

下町や屋台で親しまれてきた庶民的なB級グルメ、とんちゃん。名古屋人の人情と合わせて味わうと、こってりとした味噌の深~いコクがより濃厚に楽しめるだろう。

筆者プロフィール: 大竹敏之(おおたけとしゆき)

名古屋在住のフリーライター。雑誌、新聞、Webなど幅広い媒体で名古屋情報を発信する。名古屋メシ関連の著作を数多く出版。著書に『名古屋の喫茶店』『名古屋の居酒屋』『名古屋メン』『名古屋めし』(リベラル社)、『名古屋の商店街』(PHP研究所)、『東海の和菓子名店』(ぴあ中部支局/共著: 森崎美穂子)などがある。Webガイドサイト「オールアバウト」名古屋ガイド。愛知県や名古屋市などの協同プロジェクト、なごやめし普及促進協議会ではアドバイザーを務める。