服を着る、手を洗う、スーパーで買い物をする。そんなちょっとした行動の度に「イヤ!」と大声で主張し、無理強いすれば寝っ転がって大泣き。"イヤイヤ期"や"魔の2歳児"と言われる2歳前後の時期、毎日続く"イヤイヤ攻撃"に心も体も疲れてしまうお母さん・お父さんも多いはず。

  • イヤイヤ期のメカニズムとは?

イヤイヤ期はなぜ起こるのか、いつまで続くのかなど、そのメカニズムについて、イヤイヤ期専門家として活躍する西村史子先生に話を伺った。

イヤイヤ期はどうして起こる?

"魔の2歳児"などと称されることから、2歳になると突然始まると思われがちなイヤイヤ期。しかし実は、生後半年頃から始まっていると西村先生は指摘する。「お腹が空いた、眠い、おむつが濡れて気持ちが悪いなど、生理的な欲求以外に子どもが自己主張を始めたら、それはもうイヤイヤ期です」

赤ちゃんが景色に飽き「寝返りさせて!」と泣くのも広義ではイヤイヤで、それが激化するのが2歳前後のため"2歳=イヤイヤ"という印象が定着しているようだ。個人差も大きいが、生後6カ月頃から始まるイヤイヤは、2歳前後にピークを迎え、3歳を過ぎると落ち着いてくる子が多い。

そもそも、なぜその時期の子どもは「イヤ!」と激しく主張するようになるのか。「この時期の子どもは、自分と他人が分化されておらず、『相手にも自分と同じ気持ちがある』ということも分かりません。時には反抗的と思えるような言動を繰り返し、相手の反応を見ることで、少しずつそれを学んでゆく時期なのです」と西村先生は説明する。

また、着替えや食事など今まで全て大人にやってもらっていた身の回りのことに対し、「自分でやってみたい。自分でできるはず!」という思いが芽生える一方で、欲求や衝動を抑える脳の「抑制機能」を育てている段階で、衝動を上手にコントロールすることができない。加えて、言葉もまだ流暢ではないという、とても難しい時期なのだ。

例えば、服のボタンをかける行動ひとつをとっても、「やってみたい!」と強く思うものの、手先はまだ不器用なので上手にできない。感情を上手に抑える機能も未発達のため、もどかしさが募るが、言葉でそれを表現できない。

その結果、大人にとっては些細と思えることでも、子どもは大げさな「イヤ!」のリアクションをしてしまう。脳の機能が育ち、語彙が増え、手先が器用になるのが3歳頃のため、自然と癇癪は収まってくる場合が多いという訳だ。

「イヤイヤ期とは、他人との関わりや自分の感情の表現・抑制方法を学んだり、失敗しつつも身の回りのことが自分でできるようになったりしながら、動物的・本能的だった赤ちゃんが、人間性を身につけ、人間らしくなる大切な成長の期間なのです」と西村先生は説明する。

イヤイヤの度合いは、子どもや親の個性によってさまざま

ただ「何をするにもイヤイヤで、家を出るのに1時間もかかった」と嘆くママがいる一方で、「拍子抜けするくらいスムーズだった」と話すママがいるのも事実。この違いはどこからくるのだろうか?

「子どもの個性により、個人差が非常に大きいというのも、イヤイヤ期の特徴のひとつです。また、この時期の子どもと多くの時間を過ごすママが、子どもの発する言動をどう受け止めるかも、イヤイヤの程度に差が出る要因でもあります」と西村先生。

子どもが「イヤイヤ」と取れる行動を起こしたとしても、それを「困ったイヤイヤ行動」と感じるか否かは、関わる大人の価値観にもよる。それは、ママやパパが育ってきた環境や受けてきた教育などのバックグラウンドが影響する面も多いそうだ。

「叱り」ではなく「対話」と「受け止め」を

成長に大切な時期と分かっていても、毎日続くイヤイヤ攻撃。「ママのごはん美味しくない」との言葉に対し「じゃあ、もう作ってあげないから!」などと、つい声を荒らげてしまい、大人気なかったと後から後悔するママも多いだろう。

  • 毎日のイヤイヤ攻撃に困り果てているママも多いはず

しかし「そんな時があってもOK!」と西村先生は話す。ただ重要なのは、お互いに気持ちが落ち着いてから「あの時は大声出してごめんね。本当はお母さん、ごはん食べてもらえなくて寂しかったのよ」と自分の気持ちや怒った理由を伝えることだという。

「〇〇ちゃんのことが大好きで、元気に大きくなるように沢山食べて欲しいんだけど、ごはんの量が多すぎるなら今度から少し減らしてみようか?」など、一方通行ではなく、子どもと対話をすることで、子どもに「イヤイヤ」以外のコミュニケーションの方法を粘り強く伝えたい。

「感情に任せて大声で言ったことは伝わらなくても、落ち着いて話した本当の気持ちは子どもも分かってくれますよ」と西村先生。お互い感情が落ち着いてから対話をすることで、子どもも「自分が落ち着いたら話を聞いてもらえるんだ」と理解し、感情のコントロール法も少しずつ学んでゆくことができるという。

また、子どもの要求を理解して受け止め、親が言葉に出して伝えてあげることも大切。「これがやりたかったんだね」「こう言いたかったんだね」と簡単な言葉で伝えてあげると、子どもは「自分の気持ちはこの人に理解してもらえる」という安心感が得られるという。 しかし要求を「受け止める」ことと「叶える」ことは別物。「これで遊びたかったんだね。でも、今はねんねの時間だから明日またやろうね」というように、子どもの気持ちは受け止めつつも、どうしても譲れないルールなら行動を制限することも重要だという。

毎日のイヤイヤも、理由やメカニズムを知ればママ・パパの気持ちも少し和らぐ。子ども自身も毎日沢山の「悔しい!」に直面するこの時期。親子で落ち着いて話す時間を増やし、「やりたい!」の気持ちに寄り添うことで、子どもの心と体の成長を支えたい。

※画像はイメージ

西村史子さん

イヤイヤ期専門家。イヤイヤ期に悩む母親のための楽しく乗り越える方法講座講師なども務める。幼稚園・中学校・養護学校の教育現場を経験後、子どもの個性形成には乳幼児期が重要であると確信し、保育業界へ転身。一時預かり保育所に勤務しながら、年間100人以上のイヤイヤ期の子ども達を保育し、行動パターンや心理状態における対処法を体系化する。現在は長野に住み、2人の子どもを育てながら、子育てサイトへの執筆や子連れベビーシッター、子育て相談、一時預かり専門託児所運営などを行う。