3月4日にイタリアで総選挙が実施される。16年6月に英国で実施されたEU離脱の是非を問う国民投票や、11月の米国の大統領選挙で奔流となったポピュリズムの流れは、17年4-5月のフランス大統領選挙や、同年9月のドイツの総選挙で下火になったかにみえた。しかし、再び欧州政治を席巻する可能性が出てきた。

直前の世論調査によれば、支持率で1位をキープしているのが、反エスタブリッシュメントを標榜する「五つ星運動」だ。同党は2009年に人気コメディアンらによって既存政治の打破を目標として設立された。

2016年にローマとトリノの市長選で勝利した後、市長の政治運営の拙さが批判されたものの、これまでのところ「五つ星運動」に対する支持は落ちていないようだ。

「五つ星運動」の後塵を拝しているのが、現政権の中心にいる「民主党」「民主党」と交代で政権を担ってきた「フォルツァ・イタリア(以下、フォルツァ)」などの既存政党だ。いずれも支持率で3割に満たないため、どの政党も過半数の議席を持たない、「ハング・パーラメント」と呼ばれる状況が実現しそうだ。

政党グループでみても、「民主党」を中心とする中道左派、「フォルツァ」を中心とする中道右派のいずれもが、過半数の議席を獲得するのは難しい。したがって、選挙結果を受けて、どのような合従連衡がみられるのか、はたまた再選挙となるのか、予断を許さない情勢だ。

以下に、総選挙後のシナリオを考えてみた。

右派連合政権

「フォルツァ」が中心となる政権だ。「フォルツァ」はベルルスコーニ元首相が党首であり、比較的安定した政権運営が期待できそうだ(ベルルスコーニ氏本人は汚職などで公職追放の身)。

ただし、グループ内の強硬右派「北部同盟」が支持率で「フォルツァ」に接近しており、議員数で逆転するなどして政権内の主導権を握る可能性も無視できない。その場合は、独自通貨(新リラ?)の流通、国内法をEU条約の上位に位置付け、移民排斥といった「北部同盟」の従来の反ユーロ・反EU的主張が前面に出てこないとも限らない。

左派連合政権

現在のジェンティローニ首相が所属する「民主党」が中心となる政権。現政権からの政策の継続が期待できそうだ。ただし、ここでもグループ内におけるパワーバランスの変化等によっては、反ユーロ・反EU的動きが出てくる可能性はある。

「五つ星運動」による政権奪取

「五つ星運動」は他政党との連合に否定的だったが、ここへきて態度を軟化させているようだ。さすがに「五つ星運動」が中心となった連立政権が誕生する可能性は低そうだが、「五つ星運動」が少数派政権として他政党からの閣外協力を取り付けながら政権を担うシナリオは排除できない。

同じく可能性は低いながらも、「五つ星運動」と、対局にある「北部同盟」が手を組んで、反ユーロ・反EUという共通の目標に向けて邁進する可能性も完全には否定できない。金融市場が最もネガティブに反応するシナリオと言えるかもしれない。

「大連立」政権の誕生

「民主党」と「フォルツァ」が手を組んで、中道左派と中道右派による「大連立」政権が誕生するかもしれない。ただし、両党の政策に隔たりがあるため、政権内に軋轢が生じる、あるいは政権の目指す方向がブレるなどして、政権運営に支障をきたす可能性はありそうだ。

選挙後、各政党が表に裏に交渉を行うなかで、新政権の形が見えてくるのだろうが、それまでには相当の時間がかかりそうだ。交渉が長期化するようなら再選挙を想定する必要も出てこよう。

なお、イタリア総選挙の投開票が実施される3月4日には、ドイツでSPD(社会民主党)の党員投票の結果が判明する予定だ。これは、メルケル首相のCDU/CSU(キリスト教民主・社会同盟)と「大連立」政権を組むことの是非を問うものだ。昨年9月の総選挙以降、ようやくメルケル首相の4期目が確定しそうだ。ただし、万が一にもSPDが「大連立」を拒絶するようなら、ドイツ政治は一気に混迷することになる。ドイツの政治からも目が離せない。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。