クルマの電動化に本気で取り組む姿勢を明確にして、マツダと合弁会社を立ち上げたり、バッテリーでパナソニックと組んだりと、ここ最近は活発な動きを見せているトヨタ自動車。2030年には550万台の電動化車両を売ると意気込む同社が、新たに発表したのは“磁石”の開発に関する取り組みだった。
なぜトヨタが磁石を開発するのか
トヨタが開発したのは、世界初の「省ネオジム耐熱磁石」だ。なぜ磁石なのかというと、電動パワーステアリングや電動車を走らせる駆動装置としてなど、クルマが必要とするモーターに、磁石が部品として欠かせないものであるため。なぜネオジムを省くのかといえば、このレアアースが貴重な鉱物資源であり、地域的にも中国、インド、ロシアなどに偏在していて調達リスクがあるためだ。
クルマのモーターなどに使う磁石は、高温でも高い磁力を保てることが重要。ネオジムは磁石の磁力と耐熱性を高めるために不可欠な材料だ。これを減らせば磁石の性能が落ちるわけだが、トヨタはネオジムをより安価で豊富なランタンとセリウムに代替すべく、新しい技術を開発した。開発のポイントは3つある。
顕微鏡で見れば分かるそうだが、磁石を構成するのは小さな粒だという。まずトヨタは、その粒を微細化し、粒と粒の仕切り面積を広げた。次に、粒を二重構造にして、ネオジム濃度の濃い表面の層と、濃度の薄い内部とに分けた。そして3つ目だが、ネオジムの代替として磁石に混ぜるランタンとセリウムの配合比を研究し、ネオジムを減らしても磁石の特性を低下させないよう、うまいバランスを見つけた。
つまり、従来は磁石の全体に広がっていたネオジムを、磁石を構成する粒の表面に“めっき”するような形で使うようにすることで、その使用量を抑える感じだ。
電動車両普及に向けて不可欠な要素技術
この新型磁石により、ネオジムの使用量は仕向け先にもよるが20~50%の削減が見込めるという。ネオジム磁石からネオジムを減らそうとする動きは中国などでも活発だそうだが、トヨタの新型磁石は省ネオジム化に加え、同じく磁石に使用されるレアメタルのディスプロシウムの低減を達成しつつ、耐熱性を担保している点で世界初なのだという。ちなみに、磁石自体はトヨタではなく専門のメーカーが作る。トヨタは磁石を開発し、メーカーに提案して生産を依頼する立場だ。
2017年10月時点でネオジムは1キロあたり100ドルであったのに対し、ランタンとセリウムは5~7ドルだったというから、新型磁石がもたらす材料コストの削減効果は大きそう。生産コストについては計算できていないらしいが、それとの差し引きが実際のコスト低減効果になる。この磁石の実用化についてトヨタは、クルマのパワステなどのモーターで2020年代前半、電動車の駆動用モーターで10年以内という目標を掲げる。クルマだけでなく、ロボットや家電などへの応用も期待できるそうだ。
トヨタはクルマの電動化に向けた基幹技術として「モーター」「インバーター」「バッテリー」の3つを挙げる。これらに関連する技術開発は活発化しているものと想像できるが、磁石の優先度はどのくらいなのだろうか。新型磁石の説明会に登壇した同社先進技術開発カンパニーの加藤晃氏に聞いてみると、同氏は優先順位を明確化することを避けた上で、3つの基幹技術の全てで「障害を取り除いていく」と力強く語った。
さながら大学の講義のようだった今回の説明会。出席してみて感じたのは、磁石まで自社開発し、技術の手の内化を進めるトヨタの底知れなさだ。説明会で同社広報に話を聞くと、トヨタが手を出している領域の広さについては「私でも把握しきれていません」と苦笑まじりに話していた。