2018年2月14日、羽田空港内のJALメンテナンスセンターで、エアバスA350-1000の飛行試験2号機(MSN065、登録記号F-WLXV)が報道公開された。同機を取材する機会が得られたので、筆者が連載している「航空機の技術とメカニズムの裏側」に要所要所でひもづける形で、A350-1000のディテールを、主に技術的・メカニズム的な観点から見ていこう。
機体の仕様
A350シリーズには現在、A350-900とA350-1000がある。さらに、近い将来にA350-900のリージョナル型(短距離型)と超長距離型(ULR : Ultra Long Range)が加わる。このうち-900と-1000の主な仕様は、以下の通り。
A350-900 | A350-1000 | |
---|---|---|
全長 | 66.89m | 73.88m |
全幅 | 64.75m | 64.75m |
全高 | 17.10m | 17.10m |
最大離陸重量(MTOW : Maximum Take-off Weight) | 268.9t | 308.9t |
最大着陸重量(MLW : Maximum Landing Weight) | 205.0t | 233.0t |
燃料搭載量 | 138,000L | 156,000L |
エンジン推力 | 83,000lbf×2 | 97,000lbf×2 |
標準定員 | 325席(Y259, PY32, C34) | 366席(Y288, PY32, C46) |
エアバスA350の主要諸元。標準定員の数字はエアバス社の配付資料、その他の数字はModern Airlinersのデータによる。
実機取材に先立って行われたブリーフィングの際に出た話のうち、興味深かったのは、-900でも-1000でも航続距離の数字はほとんど違わないこと(約8,000nm = 14,816km)。つまり「大きいと航続距離が長い」「小さいと航続距離が短い」ではなく、需要に見合ったモデルを選べるという話になる。
なお、最大離陸重量も最大着陸重量も、-1000のほうが13~14%ほど大きくなっている。当然、これを受けて-1000のほうが大重量に耐えられる作りになっている(「航空機の技術とメカニズムの裏側」第76回)。
A350のエンジンはロールス・ロイス製トレントXWBで、他の選択肢はない(「航空機の技術とメカニズムの裏側」第24回)。大型化して重量が増加した-1000では、エンジン推力を大きくしたトレントXWB-97を使用している。トレント・シリーズはボーイング787でも使用しているが、そちらと違ってA350ではシェブロンノズルを使用していない(「航空機の技術とメカニズムの裏側」第23回)。しかし、開発過程で実施した騒音計測では目標値を上回る(つまり静かな)結果を残しているという。
なお、-900をベースとするリージョナル型は-1000とは逆に、エンジン推力を75,000lbfに落とすという。短距離飛行なら燃料搭載量は少なくて済むので、最大離陸重量を減らして、それに合わせてエンジン推力も抑えるということだろう。飛行時間の割には離着陸の回数が増えるから、機体構造の耐久性も重視する必要がある(「航空機の技術とメカニズムの裏側」第103)。
エンジンの側面に補機類や制御関連の機器が取り付いているため、整備・点検のためにナセル側面がガバッと開くようになっているが、これは他の機体でも同じだ(「航空機の技術とメカニズムの裏側」第17回)。開いたカバーの下端にラッチが付いていて、カバーを閉めたらそれを使って固定する。ちょうどこの記事を書いているときに、ナセルのカバーが外れる事故を起こしたエアラインがあったそうだが、いったい何があったのか。
燃料タンクはあちこちに細々と設けないで、3カ所にまとめられている。その分だけ配管や移送ポンプが減るから、軽量化につながるし、飛行中の搭載燃料管理は容易になる。ただし個々のタンクは大きくなるから、当然ながら、それに見合った大きな空間が主翼内などに必要になる(「航空機の技術とメカニズムの裏側」第85回)。