気が弱くても、たくましく生きる子に育てるには「気が弱くても成功できるという体験を積んでいくことが大切」と言う、メンタルトレーナーの森川陽太郎さん。「うちの子は気が弱いなあ……」と感じる場面で、親としてはどのように子どもに向き合い、接すればいいのだろうか。具体的なアドバイスをうかがった。
緊張しているときに「落ち着いて」はNG
発表会やスポーツ競技、テスト……子どもも様々な場面で緊張して本来の力を発揮できないことはある。緊張してガチガチになっている子には、つい「落ち着いて」「リラックスして」と声をかけてしまうが、それはNGだと森川さん。「親が"緊張=悪いもの"だと思っているから、それをなくそうとするための声かけですよね。そうすると、子どもも"緊張"に対する苦手意識を強めてしまうんです」。
本番前に緊張するのは、当たり前のこと。"ドキドキする"その気持ちを認め、そんな自分に慣れるしかない。「緊張していても、こんなにできたね!」と"頑張ったこと"と"そのとき緊張した"という感情をセットにして褒めることがポイント。「緊張していても、不安でも、怖くても、できるんだ」という成功体験を重ねれば、"緊張=悪いもの"という感覚はなくなっていく。
小さなアクションを少しずつ積み重ねる
友達といっしょに遊びたいのに、「仲間に入れて」「おもちゃ貸して」を言い出せずに、もじもじしている子……親としては歯がゆく感じるもの。まだ幼児なら、そういう時期もあると放っておいてもいいが、小学校に上がるくらいの年齢になってもそれでは本人としても生活しづらいはず。その子にとって、気の弱さが弊害になっている場合は、小さな目標を設定して、クリアしていくことを提案してみよう。
いきなり「貸して」ではなく、それよりもハードルの低いことを目標にする。例えば「まずは声をかけなくてもいいからお友達の近くに座ってみる」「チラチラ顔を見て、目だけ合わせてみる」「隣に座って自分のおもちゃで遊んでみる」……そうしているうちに、向こうから「遊ぼう」と声をかけてくれることもあるかもしれない。
「そんな発想を親が引き出してあげるんです。小さなアクションを少しずつ積み重ねていけば、最後には自分から『貸して』って言えるようになるかもしれません」と森川さんは話す。
親が自分の体験を話してあげる
友達に叩かれたり、怒鳴られたりしたとき、やられっぱなしで何も言い返せない子だと「将来いじめられるのでは」と親は心配になる……。こうした場面で「やられたらやり返せ!」「言い返せないとダメよ」などと言っていると、子どもは「こんな自分は親に受け入れられない」と思って何も話さない子になってしまうこともあるという。
子どもにとって大切なのは、「親に信頼されている」「無条件で愛されている」という揺るぎない自信。「たとえいじめられても、友達とうまくいっていなくても、親には愛されているという自信があれば、子どもはきっと乗り越えられます。いじめられた経験を糧にして頑張りの源にできる人はそういうタイプです」と森川さん。
言葉をかけるなら「いつか見返してやろうよ! そのためには、今から何ができるかな?」と一緒に知恵を絞ったり、「お母さんもそういうことがあったんだよ。でもそこからこうやってがんばって、見返してやったんだよ」と自らの体験を語ること。「親もそういうことがあった」と知ることで、人生にはそんなこともあると受け入れることができるだろう。
ゆっくり、慣れるまで待つ
人見知り、恥ずかしがり屋、泣き虫……親としては大変なのだが、何が大変なのか。「ちょっとしたことですぐ泣く子を見て、『この子はまた泣いてる!』と親自身が思ってしまう。そう思うことが嫌だから、泣かないでほしいと思うのでは」と森川さんは指摘する。 「泣きたいなら、泣きたいときには泣かせておけばいいんです。そこを『また…』と心配しても、どうにもなりません。それに、中高校生になっても同じようにすぐに泣く子ってあまりいませんよね」
子どもが社会にフィットするようになるには、時間がかかる。それまでの間、親は不安を感じ、心配し、一喜一憂するが、それはあくまでも親の感情。「時間が経てば子どもは慣れるもの。情報量が多い今の時代は、あれもこれもと親がしてあげたくなりますが、放っておいてもある程度、子どもは育つ」と森川さんは言う。
「子どもが嫌な思いをするのは、親としても嫌かもしれませんが、そんな気持ちを感じることも子どもの成長には必要な経験です。嫌な感情にも慣れさせて、その中でどのように成功体験を積ませるのか、サポートしていくことが親にできる大切なことなのではないでしょうか」
※画像はイメージ
森川陽太郎さん
元サッカー選手。スペインやイタリアでプレーし、ケガにより5度の手術と長期リハビリの末、引退。その後、メンタルトレーニングや心理学を学び、2008年に株式会社リコレクトを設立。「OKライン メンタルトレーニング」を確立し、ビジネスパーソン、アスリートから子どもまで、延べ1万人以上を指導している。『本番に強い子の育て方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。