アジアとアフリカを繋ぐ場所に位置する巨大な「アラビア半島」。その立地から、古代より交易路が張り巡らされ、人々と文明が行き交っていた同地には、知られざる歴史や至宝が数多く残されている。東京国立博物館 表慶館では、そんなアラビアの魅力を紐解く「アラビアの道―サウジアラビア王国の至宝」展を1月23日~3月18日まで開催。
同展では、日本初公開となる400点以上の貴重な文化財が1~5章の時代別に展示される。入口から順に巡っていくことで、アラビアの先史時代~アラビア王国建立まで同地の歴史を辿ることができるのだ。ひと足先に会場を行ってきたので、各章ごとに見どころを紹介していきたい。
そもそも「サウジアラビア王国」って?
その前に「サウジアラビア王国」について解説しておこう。石油、アラビアンナイト、ドバイ……など、国名を聞いて連想するものはあっても「どんな国?」と聞かれると回答に困ってしまう人も多いのでは?
サウジアラビアは、アラビア語で「サウード(家)によるアラブ(の王国)」という意味を持つ君主制の王国で、マッカとマディーナというイスラームの二大聖地を擁するイスラーム世界の中心的存在。現在の首都リヤド周辺の領主であったサウード家が、アラビア半島の大部分を支配下に置き、王国を築いたのが始まりとされている。面積は約215万平方キロメートルを誇り、その約3分の1を砂漠が占める。
第1章「人類、アジアへの道」
最初は、"アラビアの先史時代"にちなんだ文化財の展示。ここで観られるのは、アジア最古級の石器を含む旧石器群で、アフリカで進化してユーラシア大陸への第一歩を踏み出した初期人類の足跡を辿ることができる。
中でも、この同展では"新石器時代の新発見"に着目されているのがポイント。マカルで見つかった動物を模った石彫をはじめ、話題の出土物の数々が実際に目にできるのはとても貴重な機会と言えるだろう。
人や動物をモチーフにしたもの、教科書などでもお馴染みの矢じりなど、多彩な展示物からは古代のユニークな文化を感じることができる。
第2章「文明に出会う道」
アラビア半島の歴史は交易路とともに始まる。続いての第2章では、前2500年頃からメソポタミア文明とインダス文明をつなぐ海上交易で繁栄したアラビア湾(ペルシャ湾)沿岸地域の出土物が展示されている。
注目すべきは、メソポタミア美術の特徴を持つ石像や、びっしりと文様が刻まれた石製容器。祈りのポーズをとっている男性の像や、さまざまな文様で彩られた土器からは、当時の暮らしの様子が垣間見られる。
第3章「香料の道」
アラビア半島で産出された乳香や没薬などの樹脂香料は、宗教儀式における薫料、薬品として古代の中近東・地中海世界各地で大いに重宝された。そうして前1000年以降に香料交易で賑わったオアシス都市の出土品によって、第3章は構成されている。
ここでは、黄金の葬送用マスクや装身具、王国を築いたリフヤーン人の巨像、バビロニア王の石碑など、インパクト大な展示が多数。それらからは、文明世界の一部として交易によって栄えた当時の世情が見てとれる。
第4章「巡礼の道」
第4章のテーマは、マッカとマディーナという二大聖地を擁するアラビア半島への"巡礼"がテーマ。7世紀前半以降、イスラーム教が各地に広がり、同地は巡礼路としても発達を遂げた。墓石やコーラン写本などの展示を通じ、イスラーム教徒たちの文化と信仰に触れられる。
イスラーム時代以降、聖典コーランが編纂されたことから、それまで限られていたアラビア文字が高度な"書の芸術"として発達。墓碑などに刻まれている緻密な文字の数々にも注目してほしい。
第5章「王国への道」
18世紀には度重なる部族紛争の末、遂にサウード家によって王国が建立される。第5章ではサウジアラビア王国で使われていた日用品や武器、イスラーム芸術の装飾が施された工芸品の数々が展示されている。
初代国王・アブドゥルアジーズ王の遺品をはじめ、細やかな装飾が施された短剣や装飾品の数々など、近現代のイスラーム工芸の真髄に触れられるのが魅力だ。
巡礼の聖地として、交易の要所として、古より多くの人々が往来したアラビア半島。同展の日本初公開となる展示を通じて、深淵な魅力に満ちた"アラビアの道"を辿ってみて欲しい。
「アラビアの道-サウジアラビア王国の至宝」は、1月23日~3月18日の9時30分~17時(金・土曜は~21時。入館は閉館の30分前)まで東京国立博物館 表慶館にて開催。入場料は、一般620円となっている。