突然ですが、りんごを5つ描いてみました。すべて赤系の万年筆用インクで描いたものです。いかがでしょう。

「赤は赤でもいろいろなインクがあるんだなぁ」と思ったあなたは、インク沼にはまる素質がある……かもしれません! かくいう私はその沼にはまりかけているひとりです。

「気付いたら万年筆用インクのボトルがこんなに増えてしまった」「好きな色のインクが出ると買わずにはいられない」そんな人たちのことを表すのが「インク沼」という言葉。万年筆インクに魅せられ、日々いろいろなインクを使ったり、(使う分以上に)集めたりしてしまうユーザーが、今、増えつつあるんです。

5種類の赤インクを集めてみた

万年筆インクの魅力のひとつが、豊富な色数。そしてもうひとつが、こちらの記事でも書いたとおり、インクによって性質が異なり様々な表情を見せてくれるところです。

今回、「毎日、文房具。」カラーでもある「赤」のインクを5種類集めてみました。本当は10種類、20種類と集めたかった……(だって、たくさんあるんです。赤いインクだけでも)。

けれどそれは手間も予算も膨大にかかるので、今回は泣く泣く、厳選した5種にしました。そして「kakuno」(以下「カクノ」/パイロット)の透明ボディ(字幅:M/中字)とコンバーター(CON-40)を5つずつ用意。それぞれのインクを入れてみました。

  • 左から(1)MONTBLANC (2)PILOT (3)セーラー万年筆 (4)プラチナ万年筆 (5)DIAMINE

(1)MONTBLANC(モンブラン)……Cornpoppy Red(コーンポピーレッド)
(2)PILOT(パイロット)……iroshizuku - 色彩雫 紅葉(もみじ)
(3)セーラー万年筆……STORiA Red(ストーリア レッド)
(4)プラチナ万年筆……CLASSIC INK CASSIS BLACK(クラシックインク カシスブラック)
(5)DIAMINE(ダイアミン)……シマーリングインク Fire Storm Red(ファイヤーストームレッド)

どうでしょう。透明カクノに5種類の赤いインクが入っている様子、とてもきれいですよね。万年筆に入れた時点で、それぞれかなり色合いが違います。

文字を書いてみても違いは歴然。実は今回用意した5つのインクは、それぞれ色だけでなく書き(描き)心地や性質も全く異なるものなんです。

書き心地を比べてみた

では、早速書き心地を比べてみましょう。

  • 書き心地を比較

書き比べに使った紙は万年筆専用につくられた「GRAPHILO(グラフィーロ)」(神戸派計画)の便箋。

万年筆で筆記するとなんとも言えない"ぬらぬら"な書き味を体験できるこの紙ですが、中でも一番ぬらぬらと書けたインクは(1)コーンポピーレッド。その次が(2)色彩雫 紅葉、次いで(5)シマーリングインク ファイヤーストームレッドです。

(3)ストーリア レッドと(4)クラシックインク カシスブラックは、上記3つよりもう少し水っぽいような、サラサラとした書き味に感じます。ここで、それぞれのインクの性質と特徴を簡単にまとめてみました。

  • インクの性質と特徴比較

(1)と(2)は一般的な染料インク、(3)は耐水性・耐光性に優れた顔料インク、(4)は染料インクに特殊な製法で鉄分と酸を加えた古典インク、(5)は染料インクにラメを配合したインクです。今回、私は染料インクをより"ぬらぬら"な書き心地に感じたようです。

  • 写真下が(5)DIAMINE ファイヤーストームレッド。インク内のラメがキラキラしています

書き味はどの万年筆に入れるか、どの紙を使うかによっても変わってきます。また、古くなったインクと新しいインクでは、同じ種類のインクでも書き味が変わる場合もあるのです。この一概には言えない複雑な感じが、また魅力的なんですよね……。

  • 時間経過比較。写真下の(4)プラチナ万年筆 カシスブラックは、筆記直後は(3)ストーリア レッドに近い鮮やかな赤色だったものが、48時間後には酸化して黒っぽい赤に

耐水性を比べてみた

続いては耐水性を検証してみます。私の大好きなマルマンの「アートスパイラル」というスケッチブックに、それぞれのインクで文字を書き、水滴を2~3 滴垂らしてみました。

  • 耐水性を比較

さて、どうでしょう。(1)、(2)、(5)の染料インクは水に染料が溶け出して文字が滲みますが、同じ染料インクでも(1)コーンポピーレッドの方が(2)色彩雫 紅葉よりも水に溶けやすいのか、より滲みが強い気がします。

一方、顔料インクの(3)ストーリア レッドは全く滲んでいません。(4)カシスブラックは赤い部分は染料なので滲みますが、酸化して黒っぽくなり、紙に定着した鉄分の部分は滲まず残っています。濡れたとしても文字を読むことはできそうです。

(5)ファイヤーストームレッドも染料インクなので滲みが強く、ラメも一緒に水に溶けだしてキラキラしていました。

私は以前、夏場にカフェのテーブルで、万年筆で書き込んだ手帳に水滴を垂らしてしまって愕然とした苦い思い出があります。そう、染料インクだったので、濡れた部分の文字がほとんど判別できないくらいに流れてしまったのです……。

それからと言うもの、私は手帳には顔料インクや古典インクで書き込むようにしています。もちろん個々のインクによってどれくらい耐水性があるかは変わってくるので、同じ染料インクでも耐水性の度合いは異なってきます。

耐光性を比べてみた

染料インクは光にもあまり強くないということで、今回書き比べに使った紙をそのまままる2日ほど日当たりの良い窓辺においておいたのですが、2日ではほとんど変化がありませんでした。なので、少し光に当たってしまっても心配しなくて大丈夫そうです!

  • 耐光性を比較

ただ今回はそうでしたが、インクによってはもっと早く色褪せてしまうものもあるかもしれません。そして、1カ月、1年、と長い期間置いておいたら……それはまたいつかご報告しますね。

まとめ

いかがでしょうか。今回5種の赤インクを集めていろいろと書いたり濡らしたりと実験しているうちにどんどん楽しくなって、時間を忘れてインクに向き合っている私がいました。普通の人から見れば「だから何?」と言われるような内容ですが、それでいいのです。

私もこの実験結果がわかったからといって、特段何かに活かそうとしているわけではありません。

ただなんとなく、「私の好みの書き味はこれかな」とか「同じ染料インクでも耐水性に若干差があるんだな」とか、そういったことをインクと触れ合う中で実感できたのが、自分にとっての収穫だったなと思うんです。

ここまで読み進めてしまったあなたはきっと万年筆インクが気になって気になって仕方がないはず。まずは好きな色のインクを1本、手に入れてみてください。「いや、もうちょっと明るい色がいい」「やっぱり顔料も試してみたい…」なんて、すぐに2本、3本とボトルが増えて、半年後くらいにはすっかりインク沼の住人になっていることでしょう。

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まき(福島槙子)
文房具の魅力を発信するウェブマガジン「毎日、文房具。」副編集長。文具プランナーとして文房具の情報を発信。その人その人にぴったりの文房具を見つけるお手伝いや、日々の生活に役立つ文房具、主婦目線での文房具の使い方を提案しています。各種メディア・イベントへの出演やコラムの連載も多数。著書に『まいにちねこ文具』(P ヴァイン)。福島槙子公式ブログ