満開の花の中にジャムやチョコレートがたっぷり。サックサクなマカロン生地を載せた上にチョコレートをコーティング。手のひらサイズの大きなそのクッキーたちは、"初代インスタ映え菓子"とも言いたくなるほどの愛らしい様子だ。このクッキーたち、実は「ロシアケーキ」と呼ばれている。なぜロシアなの? なぜ日本に?? その秘密を昭和27(1952)年創業の中山製菓に聞いてみた。
創業地で"3つ"をつなぐお店
中山製菓は東京・笹塚にて創業し、現在は栃木・佐野に工場を移転して「ロシアケーキ」を始めとした焼き菓子を製造・販売している。時は流れて2018年1月22日、創業地である笹塚にて原点回帰の想いを込め、初の直売店「Trois(とろわ)」を開業した。
「Trois」はフランス語で"3"を表す。洋菓子の本場・フランスにちなんだ言葉であるとともに、"人・商品・地域をつなぐ"という意味が込められている。加えて、木に3つの果実が実るデザインの同社のロゴとも親和性がいいからなんだとか。店舗は焼き菓子の販売のみならず、10席を備えたカフェとして、人々が憩える温かい空間になっている。
お店はというと、「外から眺めた時に『楽しそうなお菓子の空間だな』と思ってもらえたら」という気持ちから、ちょっとメルヘンチックな石造りに、店内の甘い空間を伝えてくれる大きな窓を備えた。中に入ってみると、木の温もりを感じられるナチュラルな内装となっている。ふと見上げた先にいるフクロウも愛らしい。
ここだけのパフェやスイーツプレートも
入店してまず目の前に飛び込んでくるのが、ずらりと並ぶ焼き菓子たち。同社創業の翌年から販売を開始した「ロシアケーキ」(60円~)を始め、「サンドクッキー」(60円)や「タルトケーキ」(80円)、「フルーツクリームサンド」(80円)、「すいーとぽてと」(110円)など、1個から購入できる。
これらの商品は、すぐ側のカフェスペースで食べることも可能だ。カフェでは「ミカド珈琲」(350円~)や「丸子紅茶」(450円)などのドリンクのほか、「千寿トースト」(300円、ドリンク付きは+200円)、「とろわパフェ」(500円、ドリンク付きは+200円)、「ロシアケーキのプレート」(450円、ドリンク付きは+200円)などの軽食やスイーツも用意している。
まずびっくりなのが、とても価格がリーズナブルなこと。そこには、この地に工場があった時代から愛してくださっている方々への感謝の気持ちも込められているとのこと。
同社初の販売店だからできるオリジナルメニューも、直売店ならではの魅力だ。「とろわパフェ」はクッキーを砕いたものを土台とし、生クリームやチョコアイス、またクッキー、チョコレートソース、生クリームなどと盛られ、トップに「ロシアケーキ」が載っている。また、「ロシアケーキのプレート」は自分でジャムや「渋谷のはちみつ」、あずきあん等をトッピングできるというもので、子どももお菓子作り感覚で楽しめるのがいい。
ドリンクの「ミカド珈琲」や「丸子紅茶」、そして、トッピングメニューに並ぶ「渋谷のはちみつ」は、地域社会への貢献を目指し、「Trois」で一緒に展開する商品となる。「ミカド珈琲」は昭和23(1948)年に東京・日本橋に創業した老舗珈琲店。また、国産紅茶発祥の地として呼ばれることもある静岡・丸子の「丸子紅茶」が都内で購入できるのは、「Trois」を含めて3店舗しかないという。
定義は形ではなく製法にあり
では冒頭の通り、「ロシアケーキ」の謎に迫りたい。実はこの「ロシアケーキ」、ロシア人に言っても通じない。つまり、日本生まれのお菓子なのだ。昭和6(1931)年に来日し、新宿中村屋で腕を振るっていたロシア皇帝お抱えの製菓技師スタンレー・オホッキー氏が伝えたその製法が、今日、「ロシアケーキ」として広く伝わっている。
「ロシアケーキ」にはジャムがトッピングされていたり、チョコレートでコーティングされていたり、ナッツが散らされていたりと、様々な商品があるが、その定義は「二度焼き」にある。まずは土台となる生地を半焼きし、その上にまた生地を載せて焼くというものだ。上に載る生地はフラワー形や円形、台形のものから、マカロン生地になっているもの、ココア生地になっているものまで多種多様で、そのお店ならではの「ロシアケーキ」がある。
「ロシアケーキ」は二度焼きゆえに、土台となるクッキーの方がその上に載るクッキーよりもやや硬い。ちなみに、スタンレー・オホッキー氏のレシピ通りだと、「ロシアケーキ」は硬いクッキーのようだが、中山製菓では現在人の嗜好に合わせて柔らかいクッキーに仕上げている。
中山製菓の「ロシアケーキ」は、創業者の中山邦也氏が菓子修行をしていた際に、師匠から学んだことが始まり。同社の「ロシアケーキ」は、定番メニューが6種類(マカロンストロベリー、リッチビター、フラワーキウイ、ピーナッツチョコ、ホワイトチョコ、ミルクチョコ)あり、さらに季節限定で、サクラやイチゴ、レモンなどが加わる。中でも一番人気は、マカロンストロベリーとピーナッツチョコなんだとか。ちょっと面長な「ロシアリーフケーキ」も、ストロベリーとビターチョコレートを展開している。
ロシア人からすると、「そんなお菓子が日本にあるんだ!」とびっくりするかもしれない。それゆえに、「いつかロシアのフラッグキャリアであるアエロフロート・ロシア航空に、機内食として採用してもらえたら」という夢もあると、同社社員は話す。「ロシアケーキ」はその見た目の愛らしさに加え、食べ応え十分な大きさで、心も身体も満たしてくれる。その起源に想いを馳せながら、ぜひ特別な甘いひとときを「Trois」で過ごしてもらえればと思う。
information
「Trois(とろわ)」
所在地: 東京都渋谷区笹塚3-43-8
アクセス: 京王電鉄京王線「笹塚駅」から徒歩10分
営業時間: 9:00~17:00
定休日: 土日曜日・祝日
※価格は全て税込