2017年にレコード会社・ロッカンミュージックからニューシングルがリリースされることが発表され、新たな歌手活動の一歩を踏み出した声優・アーティストの喜多村英梨。

喜多村英梨(きたむらえり)。1987年8月16日生まれ。東京都出身。EARLY WING所属。主な出演は『斉木楠雄のΨ難』相ト命役、『NEW GAME!』葉月しずく役、『お酒は夫婦になってから』水沢千里役、『とらドラ!』川嶋亜美役、『すのはら荘の管理人さん』椎名亜樹役、『フレッシュプリキュア!』蒼乃美希/キュアベリー役など。

そんな彼女が2018年1月24日にTVアニメ『gdメン』OPテーマにも採用されているシングル「妄想帝国蓄音機」をリリースする。今回、2017年末に彼女へインタビューを敢行。これまでの活動を振り返りつつ、2018年のスタートを切るにふさわしいと位置付けられた本シングルの魅力についても聞いた。

▼私、重たい女なんですよ

――2017年も終わりに近づいています(※)。喜多村さんにとって本年はどのような年でしたか? (※)インタビューは2017年の年末に行いました。

2017年はアーティスト活動というひとつのコンテンツをもう一度やれるチャンスをいただけたということも含めて、反省ばかりではなく、これまでの経験を背負ってさらに上を目指せた、前向きな一年だった気がします。その前向きさが周りから見ると生き急いでいるように見えて心配させてしまうことも多少ありましたが(笑)。私にしては肩ひじ張らずに好きなことに挑戦できたので、あっという間に一年が終わった印象ですね。振り返ってみると希望に満ち溢れていた一年だったと感じています。

――楽しい一年だった?

そうですね。ただ、楽しむだけで中身がないと意味はないので、「楽観的な喜多村さんをいつものネガティブな喜多村さんが見ている」といった二つの側面を足し算・引き算してどういう割合でその場にいた方がいいのか、ということを常に考えていました。その割合のコントロールが上手にできていなかったのが20代の頃でしたね。

――うまくコントロールできてなかったとは。

特に20代前半の頃は「一所懸命であることが正義だ」と思っていて、とにかくプロなんだからやれよと自分を追い込んでいた気がするんですよね。普段のネガティブな私が負の方向に考えを持っていき、中途半端に心だけ置き去りにして、それでも体だけは前に進んでいたように思えます。30歳は賞味期限切れだよと思っていた節もあったので、焦っていたのかもしれません。

ただ、30歳になっても、実際には私を必要としてくださる大切な現場もあって……。嬉しい気持ちがある半面、じゃあそれに対して"喜多村"という人間はどうやってお返しすればいいのか、ということを考えたんです。そこで、今までのようなネガティブな要素は少し抑えて、自分としては過度なくらいの楽天主義でいることによって、バランスを取るようにしたんですよね。そういう意味では、2017年は気持ち的にも少し変化した年だったと思います。

――転機の年だったんですね。

そうですね。この変化で得られるものもあれば、そうでなかったものもあるので、正しかったかどうかはまだ分かりません。それでも、振り返ってみてよかったと後で笑えればいいかなと思っています。

――喜多村さんは高校生くらいの頃から声優として活躍されています。そういう今までの経験があったからこそ、今30歳になって冷静になることができたのかなとお話を聞いていて感じました。

振り返ってみるとそうかもしれません。10代の頃はまだ同世代の声優さんもほとんどいなかったので「こんなに若いのにすごいね」ともてはやされていました(笑)。ただ、20代前半のころに、この業界はたくさんの方々が活躍されていて、いくらでも替えがきくと気付きました。だから「また喜多村さんと仕事をしたい」と言っていただけるくらい、記憶に残れる唯一無二の存在になれないと、やべーなと思っていました。

その気持ちを引きずりながらも年を重ねていき、気が付けば若手でもなく、手練れでもない、20代後半の時期に差し掛かりました。このくらいの時期は現場では"中途半端"なんですよね。

――えっと……。

困ってしまいますよね(笑)。ただ、この中途半端というのは、現場に入った時に若い声優さんや巨匠の方々の間に立てるようになったという意味で、決して悪い事ではない。それぞれが抱える葛藤などを聞ける立ち位置になれたという意味合いです。だから、私にとって20代後半は色々な方のお話を聞くようになってようやく気持ちの整理ができるようになった時期でした。

――そして、今に至る、といった感じですね。

はい。今はオーディションで受ける役も変わってきましたし、キャラクターソングに関してはクライアントさんがどの時代の"喜多村英梨"を求めてくださっているかによってキー幅やテンション、キャラクター性が違うので、それが楽しくもあります。とにかく落ち着いて物事を見られる年齢になったのだから、まだまだ頑張らないといけないと思っています。

――素がネガティブだとおっしゃられていたのに、その前向きさ……憧れます。実は私同世代なのですが……。見習わないといけないですね。

いえいえ、口から出まかせかもしれませんよ。

――そんなことはないかと! 本日のお話でも言葉の一つ・一つに重みがあるなと感じています。

私、重たい女なんですよ(笑)。

――その重さが心地よい方も多いはずです!

ありがとうございます(笑)。

――2017年の活動という点で言えば、もう一つワンマンライブの開催も大きな出来事だったかなと思います。そのライブ時の「喜多村が廃れていないというところ見せないといけないからお前ら頼むぞ」という言葉はかなり印象的でした。

私の自虐芸ですね。もう芸じゃないくらい実際メンヘラなんですけど……。あっ、ポジティブな意味でね(笑)。

――インタビューで自分のことをメンヘラだとおっしゃられた方は初めてです(笑)。だからこそ、ポジティブな意味でという言葉も嘘ではないと分かります。

ありがとうございます(笑)。あの言葉には私のライブにお金と時間をかけてくださったという感謝、アーティスト活動をされる声優さんが増えているなかでブランクもある私を応援してくださっている方々への感謝、そして、その活動に対する責任があるという想いが込められています。言葉だけだとそうとは受け取れないかもしれませんが、まぎれもなく、私のなかではそういう意味を込めての"仕込み"の言葉です。

――"仕込み"!?

はい。女性声優さんのライブで「お願いします! 仕込みお願いします!」というニュアンスの言葉を言う方ってあまりいないと思うんですよ。

――なかなかいませんね。

ただ、私はそういうことを言っていこうというスタイルです。何と言いますか、毎日おいしいお米でもいいですが、たまにはジャンキーなものを食べたくなる時ってあるじゃないですか。だったら私はそういうジャンキーなものでいたい。たまにはこういう毒っ気もありだよねという空間が作れればという意味で、自虐ネタを仕込んでいます。後ろのほうでは引いている人もいたかもしれませんが、その時のお客さんの「やれやれ」っていう笑顔が一番心地よかったですね。

「頑張って」というエールを一生懸命送っていただけるのも嬉しいのですが、私はとってもナイーブなので、責任の重圧に押しつぶされて禿げちゃいそうなんですよね(笑)。だから、「私、ダメかもしれないからみんな声出して」と言うとレスポンスしてくれる、そういうファミリー感が好きです。私的な言葉で言うと「喜多村王国」。独特の王国がワンマンライブでは作れた気がします。またみなさんがそういう喜多村のノリに乗ってくださったので、ライブは成功をおさめることができました。

――そういう考え方の喜多村さんだからこそ、応援したくなるし、同業者の方のファンも多いのかなと思います。

ね、みんな騙されてくれるといいな(笑)。引き続きよろしくお願いします。

――美談を毒っ気のある言葉で締めようとするのが、実に喜多村さんらしいです。

▼Bメロ・Dメロへのこだわり

――2017年、そしてこれまでの活動を振り返っていただきありがとうございました! そんな様々な活動を経て2018年1月24日にシングル「妄想帝国蓄音機」が発売されます。本シングルは1月から放送がスタートしたTVアニメ『gdメン』の主題歌にも採用されていますね。

実はお話をいただいた段階ではまだ『gdメン』のテーマ曲になるとだけ聞いていて、OPかEDかもわからない状態だったんですよ。なので、裏話をしちゃうとOPだった場合は「妄想帝国蓄音機」、EDだった場合はカップリングの「fairy∞world」になる予定だったんです。

――そうだったんですね!

はい。OP・EDどちらの場合でもやっぱり作品を意識したものにしたかったので、そのような形で進行しました。ただ、今回のシングルは私にとって2018年1発目に出すものでもあるので、アニメのテーマ曲と私にとってのスタートという"点"と"点"が繋がるような仕掛けは残しておきたかったというのも正直なところです。

――それだけに、こだわりは強かった?

もちろんこだわりましたが、それは今回だけが特別ということでもありません。声優という職業をやっていると、今日のようなインタビューや、お客さんからのファンレター、ラジオのメールなどに自分の言葉として感想を発する機会があります。そういう機会をいただけているからこその職業病なのか、理由もなく「何かいい」というだけで物が作れない、物に携われないタイプなんですよね。

――なるほど。

今回も同様で、「妄想帝国蓄音機」のデモを聴かせていただいたときに、私が持っている質や、デモを聴いて抱いた気持ちがテーマにはまるのか、ありなのか判断していただけるよう、まだ自分が作詞すると決まっていなかった段階で、浮かんできた歌詞やイメージを製作担当者にお伝えしました。そうやって何が良かったのかをお伝えすることで、今後の製作における判断材料の一つがお返しできたらなと思ったんです。

ただ、あくまで材料のひとつであって、別に自分が作詞したものでなくても、私の想いを汲みとって進行していただければそれで良かったんですよね。そうしたら、実際に作詞した歌詞が通ったので「イエーイ」という感じでした(笑)。

――想いがこもっているその歌詞はどのような仕上がりになっていますか?

『gdgd妖精s』関連のテーマ曲になると聞いていたので、まずは作品の持つ雰囲気を頭に思い浮かべました。私が「gdgd」シリーズに抱いていたイメージは、登場するキャラクターが怒涛の掛け合いを行うというもの、そしてCG監督たちが作ってくる視覚的にもビビットな作品というもの。そういった"えぐみ"が作品の良さでもあると思いました。だから、言葉遊びで「緊急要請」と「妖精」をかけたり、ハチャメチャな歌詞で展開したりしています。こういう"えぐみ"は私のアーティスト活動のテーマとも通ずるところでしたので、まさに"点"と"点"が繋がった気がしました。

――喜多村さんのテーマとは?

えぐみ、毒み、メンヘラみ、闇み……ポジティブではないけど、見ちゃダメと言われると気になっちゃうようなもの、というのが私のテーマですね。「妄想帝国蓄音機」でも歌詞に加えて、タイトル、内容、パフォーマンス……すべてにおいて"えぐみ"と"毒み"が出ればと思っています。「お腹いっぱいだけどもう一回!」というような「スルメ曲」になればベストですね。