日本のみならず、世界にその名をとどろかせている漫画家・永井豪氏が東映アニメーションと組んで1972年に作り出した『マジンガーZ』は、「人間が乗り込んで自由自在に動かすことのできる巨大ロボット」という"ロボットアニメ"のパターンを最初に作り出した画期的な作品として、放映開始から子どもたちの心をグッとつかんで大ヒットを飛ばした。
そして1972年12月から1974年9月まで、92本のテレビシリーズおよび2本の劇場用新作映画(『マジンガーZ対デビルマン』『マジンガーZ対暗黒大将軍』)を生み出した『マジンガーZ』は、世に一大ロボットアニメブームを巻き起こし、『グレートマジンガー』(1974年9月~1975年9月)および『UFOロボ グレンダイザー』(1975年10月~1977年2月)とシリーズ化されるに至った。
『マジンガーZ』をはじめとする永井豪氏原作のロボットアニメは海外でも放送され、世界各国に熱狂的なファンが多く存在する。漫画連載およびテレビ放送開始から45年、そして永井氏の画業50周年という節目の年・2017年に、東映アニメーション製作による完全新作劇場映画として、どうどう『マジンガーZ』が復活を果たし、10月から11月にかけてイタリア、フランスにて先行公開。日本では、2018年1月13日より満を持して劇場公開となった。
※記事の中に一部ネタバレを含む箇所がございます。ご注意ください。
10年の時を経たキャラクターの成長と変化
"機械獣"を使って世界征服を狙うドクターヘルによって命を狙われた兜十蔵は、「超合金Z」で作られ、未来のエネルギー「光子力」によって作動する無敵のスーパーロボット・マジンガーZを完成させていた。十蔵は孫の高校生・兜甲児にマジンガーZを託し、絶命。ホバーパイルダーでマジンガーZの頭部にドッキングした甲児だが、その超パワーを使いこなすことができず、暴走して周囲を破壊してしまう。マジンガーZは操縦する人間次第で神にも悪魔にもなれる存在だったのだ。やがて甲児はマジンガーZを乗りこなし、ドクターヘルの魔の手から光子力研究所を守りぬくため、命をかけて戦う使命を受け入れる。
今回の映画『劇場版 マジンガーZ/INFINITY』は、テレビシリーズ『マジンガーZ』および続編となる『グレートマジンガー』からおよそ10年の歳月が流れているという設定でストーリーが練られた。マジンガーZを操縦した兜甲児、アフロダイA(後にダイアナンA)の弓さやか、グレートマジンガーの剣鉄也、ビューナスAの炎ジュンはもちろんのこと、光子力研究所の所長を務めた弓教授、甲児や鉄也の頼もしい仲間・ボス、甲児の弟シロー、ボスのいとこ・みさともそれぞれ10年の時を経て、みな異なる"立場"となって再登場を果たしている。
対する敵側も、ドクターヘルとその忠実なる手下・あしゅら男爵、ブロッケン伯爵が見事に復活。『マジンガーZ』の最終章で滅びたドクターヘルは『グレートマジンガー』においてミケーネの科学力で地獄大元帥として蘇っているが、映画でもちゃんと地獄大元帥の姿になって戦う姿が見られる。敵・味方ともに魅力的なキャラクターがいかなる変化を遂げて"復活"を果たしているかが映画の大きな楽しみどころといえるだろう。
ファンにはたまらない過去作オマージュ
マジンガーZ、グレートマジンガーのデザインはリファインされ、より洗練されたアクションを見ることができるが、ロケットパンチ、ブレストファイヤーなど必殺技の名前を叫んでから発射する、ロボットアニメの"作法"というべき演出は健在である。作り手のこだわりというべきか、マジンガーZが両耳のレーダーから冷凍光線を発射したり、グレートマジンガーがニーインパルスキック、バックスピンキックを使ったりと、番組後半からのパワーアップ技を目立つ形で披露してくれるのもうれしい。Z、グレートを助けた頼もしき仲間・ボスボロットが当時と変わらぬコミカルな活躍を見せる一方で、グレートの相棒・ビューナスAが意外な戦力アップ(見てのお楽しみ!)を果たして縦横無尽のバトルを行う場面もある。
過去作へのリスペクト、オマージュに満ちた本作では、テレビシリーズのみならず、ロボットアニメ映画の最高峰との呼び声が高い『マジンガーZ対暗黒大将軍』を彷彿とさせるシークエンスも存在する。すなわち、マジンガーZが強敵の攻撃によって徹底的に痛めつけられ、絶体絶命のピンチに陥ったところに、さっそうとグレートマジンガーが駆け付けるという伝説的な名シーンである。ただし、単純に過去作の焼き直しをしたわけではなく、さらなる強大な相手に向かってマジンガーZが奇跡的な反撃を行うくだりもあってうならされた。
歴戦の勇士であるマジンガーZが「ロボット博物館(マジンガーミュージアム)」に展示されているという設定は、『グレートマジンガー』の最終回(56話)を思わせるもの。マジンガーZの超合金Zよりも強いグレートマジンガーの「超合金ニューZ」が存在する世界であるため、新生マジンガーZもまた超合金ニューZ製にパワーアップされているというのは、実に心憎い設定である。ロボットアニメファンの魂に火を点け、燃え上がらせる数々の仕掛けが随所に施された本作の"熱さ"は、きっとマジンガーZを知らない人たちの心をも揺るがし、熱い感動をもたらしてくれるに違いない。
そして、マジンガーファンにとって魂の故郷というべき主題歌『マジンガーZ』がオープニングテーマに使われていることも、本作の大きな話題になっている。アニメ・特撮音楽の第一人者として知られる渡辺宙明氏の作曲したオリジナルのメロディーが、渡辺氏の息子であり『宇宙兄弟』『利家とまつ』『救急戦隊ゴーゴーファイブ』などの音楽を手がける渡辺俊幸氏によって雄大にアレンジされ、これをオリジナルと同じく水木一郎がパワフルに熱唱している。エンディングテーマには吉川晃司によるバラード曲「The Last Letter」が使われ、エキサイティングなオープニングと好対照をなしている。
『劇場版 マジンガーZ/INFINITY』は、熱烈なロボットアニメファンはもちろんのこと『マジンガーZ』『グレートマジンガー』の名前くらいしか聞いたことのないような若い世代でも十分に楽しめる、新時代のアクション・エンタテインメント作品に仕上がっている。スーパーロボットの新たな時代の幕が開ける瞬間を、ぜひとも劇場にて確認してもらいたい。
映画『劇場版 マジンガーZ/INFINITY』は全国劇場にてロードショー公開中。
■著者プロフィール
秋田英夫
主に特撮ヒーロー作品や怪獣映画を扱う雑誌などで執筆。これまで『宇宙刑事大全』『宇宙刑事年代記』『メタルヒーロー最強戦士列伝』『ウルトラマン画報』『大人のウルトラマンシリーズ大図鑑』『ゴジラの常識』『仮面ライダー昭和最強伝説』『日本特撮技術大全』『東映スーパー戦隊大全』『ゴーグルV・ダイナマン・バイオマン大全』『鈴村健一・神谷浩史の仮面ラジレンジャー大百科』をはじめとする書籍・ムック・雑誌などに、関係者インタビューおよび作品研究記事を多数掲載。
(C)永井豪/ダイナミック企画・MZ製作委員会